廿.リフォームの匠
俺(よしよし、墨ー。ご主人様だよー。こっちにおいでー)
墨(…)
さっきから何度も墨にテレパシーを送って、墨に懐かせようとするが、墨は全くテレパシーに反応を返してくれず、部屋の墨で縮こまったまま、俺の行動の一挙手一投足を観察するようにこちらを見るだけだった。
(人見知りなのかな。しかし、人見知りする猫ほど燃えるんだな、俺は!)
ビクッ
墨を部屋の隅に追い詰めて、1人ガッツポーズを取って闘志を燃やしている所に、雪が新しい着物を持って戻ってきた。
雪「竹姫さま。お待たせしました」
墨「にゃう」
と、突然、墨は雪のもとに駆け寄って、俺の視線を避けるように雪の後ろに隠れた。俺はダメで、雪はいいのか! 使い魔のくせに。
雪「あら。どうしたの、猫ちゃん?」
墨「…」
俺「なんだか私は嫌われちゃったみたいね」
ビクッ
雪「猫ちゃん、どうしちゃったの。竹姫さまは命の恩人なのよ? 怖がらなくてもいいの」
そう言って雪は、持ってきた着物を置くと、墨を抱き上げた。
俺「その子、墨って言うのよ。まださっきの雷に怯えてるのかもしれないわ」
雪「墨ちゃんって言うんだ。雪だよ。仲良くしようね」
(雪って猫好きなんだ。なんか和むなー)
美少女が美猫に顔を近づけてあやしている様子は、なんとも絵になる。ああ、可愛い。ペロペロしたい。
俺は、雪が持ってきた着物に着替えるため、タスキをほどいて裾が汚れてしまった袿を脱いだ。
雪「あ、竹姫さま。失礼しました」
そう言うと、雪は急いで墨を床に下ろして、持ってきた袿を広げて俺に着せてくれた。女房付きの貴族は服を着るのも人にお任せだ。
俺「いいのよ、雪。気にしないで。それより、お願いしておいた紙と墨を持ってきてくれるかしら? あと、今日の夕飯からは墨のご飯もお願いね」
雪「かしこまりました」
雪が紙と墨を持ってくると、俺は雪を下がらせて、用意しておいたカラスの糞と猫の目くそを墨に溶いた。
(さて、やるか)
護符は、紙に魔法陣のようなものを書いて作る。魔法陣とは少し違うが、円を描いてその中に文字を配置するという点では似ている。で、例によって、この魔法陣的なものを描くのが意地悪なのだ。
まず、紙に歪みのない真円を描く。フリーハンドで。次に、円周に沿って般若心経を一列に文字の配置を均等に書き込む。フリーハンドで。22分以内に。できる気がしない? バーロー。できるできないじゃない。やるかやらないかなんだよ!
で、その後、円の中に居住空間として欲しい機能を列挙して完成。同じ物を結界を張る範囲の頂点の数だけ用意して、頂点に護符を結びつけて、結界内で般若心経を唱えると結界が発動する。結界は護符が外れると無効化されるが、機能の中に護符の保護を入れておけば、護符を守ることができる。
そんな訳で、何枚か失敗しながらも、必要枚数の護符を仕上げて、夕方までには、敷地全体に1つ、建物全体で1つ、俺が普段使う部屋に1つの合計3つの居住結界を張ることに成功した。
クソ変態式神とか残念女神とかのせいで目立ってませんが、「俺」も結構アレだと思います。