拾捌.魔王降臨
俺『…。貴様らが喧嘩を売った相手が誰かということを、胸に羽を当ててよく考えるがいい』
俺は黒いオーラを全身に纏いながら、カラスとの間合いを取るために、数歩下がった。カラスどもは俺のオーラを見て、口を開けたまま全身から汗を流して硬直している。
俺『相手を間違えるということは、命さえも危険に晒すということを、その身を以て思い知れ!』
そう言って俺は、左手を右胸の前に出して片手印を結び、その手を左に移動させて別の印に結び変えた。同時に右手を天にかざして唱える。
俺「
そしてそのまま俺は右手を下に振り下ろした。
賀茂の
!!!!!!
雷は、間近に落ちると、ゴロゴロというような平和な音はしない。もっと暴力的で破壊的で耳をつんざく音がするだけだ。
(この魔法を使うときは耳栓が必須だな)
まだ聴力が回復しない耳のことを考えながら、雷が落ちた後を見た。さっきまで青々としていた木は真っ黒に炭化していて、その根元には白目を向いたカラスが3羽転がっていた。
とりあえず、俺は、額に落ちたカラスの糞を拭うと、用意しておいた紙に包んだ。予定とは少し違うが、糞の採取は無事成功した。
(んー。ついでだから羽の採取と使い魔の契約をしておくか)
白目を向いているカラスから羽を一枚むしりとって、その後自分の手の指先を小さくした太刀で少し傷つけて、カラスに血を一滴垂らす。
俺「汝を我が下僕とする」
そして、カラスのくちばしを俺の左手の甲に触れさせることで契約完了だ。使い魔契約のポイントは、契約したい相手が心の底から完全に主人に服従していることだが、この場合その点は問題ない。今、このカラスどもは俺に毛程も反抗しようという意志はないはずだ。
使い魔契約をすると、主人と使い魔はテレパシーによる会話ができるようになり、使い魔が人間の言葉を理解するようになる。また、使い魔によっては特殊な魔法を覚えることもある。いろいろ便利なので、契約できるときに契約しておいて損はないのだ。
(さて、後は黒猫か)
そう思ってふと横を見ると、妙に怯えて硬直している黒猫が一匹いた。いつぞや天照と会った晩に、門番をかわすために石つぶてを投げつけた猫だ。
(可愛い)
あの時は暗くてよく分からなかったが、こんな可愛い短尾でオッドアイの黒猫だったとは。うかつだった。しかも、さっきの雷を見て、完全に心のガードが下がっている。
(契約だな(ニヤリ )
早速使い魔契約をして、ついでに目くそを回収して、
俺『お前の名前は、
(いかん。可愛すぎて思わずよだれが垂れてしまう)
よだれをすする主人を見て、墨は言い知れぬ恐怖を感じて更に身体を固くするのだった。
小学校低学年くらいの和装の女の子が、カラスに糞を落とされて、ぶち切れた仕返しに、神の雷をぶっ放す姿は、想像するだけで萌えませんか? え? 私はそんな趣味はありませんよ?
ところで、日本猫には世界的に珍しい短尾の遺伝子が含まれていて、短尾は日本猫の特徴となっています。墨の尾が短いのは不幸な事故ではなく、日本猫の遺伝子によるものです。