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【今は昔】転生!かぐや姫【竹取の翁ありけり】 作者:七師

第1章「天照」

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拾参.五月雨式

 翌日、京は本格的に梅雨入りした。天照が涙を見せたから雨になったのか、それともただの偶然なのかは、俺にはわからない。


 昨日は、自室に戻った後、寝ている式神の頬に例の白い木箱をそっとあてると、すぐに元の紙片に戻った。式神が着ていた服に着替えて、俺の着ていた服はやはり白い木箱をあてて元の紙片に戻して、式神と一緒に箱の中にしまった。


 天照の書いた魔法の本も、木箱にあてると小さくなったので、一緒にしまうことにした。唯一問題だったのは、追い剥ぎにもらった太刀だった。これは木箱にあてても小さくなることはなかったので、しまう場所に困ってしまった。


 (さすがにその辺に置いておくと目立つよなー)


 変な所に置いておくと、湿気って錆びてしまうかもしれないので、それなりに管理できる所に置く必要があるが、まともな部屋の仕切りもないような寝殿造しんでんづくりの建物では、当然タンスのようなものも部屋には置いてないので、隠せるような場所はなかった。


 (仕方ない。一旦、床下に隠して、明日例の魔法の本の中に、何か便利なものでもないか確認しよう)


 そう考えた俺は、太刀を床下の目立たない場所に置くと、重ね着をしていたうちぎを脱ぎ、小袖と下袴だけになって、部屋の中央に敷かれた2枚の畳の上に横たわり、脱いだ袿を掛け布団のようにして眠りについた。


 せっかくだから説明しておくと、この時代、床は基本的に板間だ。今風に言えば無垢の木のフローリングだ。誰がフローリングを洋室と言い出したのか知らないが、平安時代の寝殿造りの床は総フローリング仕上げだ。参ったか。


 というか、そんなところに直に寝ると俺が参るので、寝るときは畳を持ってきて、寝床にするところだけに敷く。俺の場合、部屋の中央に2畳。ちなみに、平安時代にはすでに、圧縮した藁のクッションの入った現代の畳のような厚畳が存在するので、板間の上にござを布いただけというような悲惨な状態ではない。


 ところが、残念なことに、布団はない。もちろん、毛布なんてものもない。しかし、服を着たままで寝るのは、さすがに寝返りをうつのが苦しいので、服は脱いで下着だけになる。で、どうするかというと、脱いだ服を掛け布団として活用するのだ。これぞ、平安スタイル!


 初夏だからいいようなものの、現代人の俺が冬の寒さに耐えきれるかどうかは、甚だ心許ないのであった。


 朝起きた俺は、早速、例の魔法の本を読むことにした。天照には怒りをぶつけてしまったが、とはいえ俺には、魔法を学ぶことを拒否する理由がない。むしろ、ふすまの件にしろ布団の件にしろ、この時代のテクノロジーでは解決できないことが多すぎるので、それが魔法で解決できるならありがたい。


 (何はともあれ、現代に帰る前に死んだら話にならないからな)


 そんなわけで、今日は一日中読書に明け暮れた。途中、あまりに読書に集中していたため、雪が心配して声をかけてきたが、心配しなくていいと追い返した。現代日本語の本を読んでいるところを見られると不審に思われるかも知れないからな。


 まあ、それはそうと、あれだ。雪は可愛いなぁ。歳の頃は16、7。現代の俺とちょうど同い年くらいだ。こちらではもう結婚適齢期。そのうち婚約者ができて、嫁に貰われていくんだろうなあ。くそぉ。羨ましい。想像するだけで未来の夫に嫉妬を覚える。


 そういえば、高校生男子といえば性欲のコントロールに苦労する年頃で、俺もまあナニがアレでソレだったんだが、こっちに来てからそれは全くない。雪を見ていても、可愛いなぁとか幸せだなぁとは思うが、まあぶっちゃけそれだけだ。


 思うに、心から来る感情と、体から来る感情というのがあるんだろう。推定小学1年生女子の体には、コントロールしなければいけない性欲はまだ存在しないってことだ。


 (ていうことは、俺が高校生位の年齢になったら、男に対して女の性欲が刺激されるってことか?)


 いかん。ヤバいものを想像してしまった。吐きそうだ。どうしてくれよう、この不快感…


 (こういうときはアレだ。雪に抱っこしてもらって癒されるに限る)


 素晴らしい名案が思いついた。俺って天才。ということで、早速、雪のところに行くことにした。


 俺「雪ー。雪ー」

旧暦だと梅雨は5月になります。なので梅雨の別名は五月雨さみだれで、梅雨の雨のように少しずついつまでも続くものを五月雨式と呼び、梅雨の晴れ間は五月晴れと言います。そしてこの話も五月雨式に続くのであります。


平安時代は貴族は畳で寝るのですが、奈良時代に遡るとベッドが使われます。なんか、和風という言葉の意味を問い正したくなりますね。

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