拾壱.AM∀TERASU
頭の危ない女の子(天照大御神)とまともに話しても埒があかないと悟った俺は、遊んだら元の時代と場所に戻してくれるという言葉をとりあえず信じることにして、天照が満足するまで遊んであげると決意し、ひとまず太刀を鞘に収めた。
俺『で、何して遊べばいいんだ?』
天照『デュフフフフフフフフ』
(きもっ)
天照は、黙っていれば超美形だ。美人というより可愛い方面で。その上、あの破壊力抜群の胸だ。少し低めの身長と相まって、ある種の属性持ちなら一撃で瀕死間違いなしだし、そうでなくても思わず見入ってしまうほどの容姿だ。これで、俺が時々やるように可愛いオーラを飛ばしたら、死者が出ることは想像に難くない。黙っていれば。
(これを残念と言わないで、何を残念というのか)
不気味な笑い声を上げる天照に向かって、俺はあからさまに残念な何かを眺める視線を送った。天照は、頭の中で何か残念な妄想にふけっているらしく、どこでもないところを見ながら、表情をコロコロと変えている。
やがて、天照が俺の視線に気づくと、ニヤニヤとにやけながら、さっきの返事を返してきた。
天照『あー、遊びの内容はこっちで考えるから…、とりあえず、こっ、これとか読んでよ』
と言って、天照はさりげない感じを装って、わざとらしく俺に1冊の本を手渡した。本は、綺麗に装丁され紐で綴じられたもので、表紙には現代語で『できる平安魔法』と書かれていた。
(この名前はまずいだろ)
そんな俺の心配を他所に、天照は話を続けた。
天照『サイン入りだ。どうだ。うれしさで涙も出ないだろう』
よく見ると、著者名のところに『AM∀TERASU』と書いてある。
俺『これ、お前が書いたのか!』
天照『そうだぉ。名前の3文字目見た? Aじゃなくて∀ってなってるでしょ? これは論理記号で…』
俺『やかましい』
一瞬、この中二病に取り憑かれた残念女神の本を投げ捨ててしまいたい衝動に駆られたが、元の時代に戻るためと思い直して中を見てみた。
(意外と…、まともっぽいな)
中身は、至って真面目な入門書のようだった。少し流し読みしただけだが、図も豊富で、説明も的確でわかりやすかった。取り扱っている内容が魔法という点が特殊だが、その点を除けば普通の本だ。
(この残念女神が、こんなまともっぽい本を書くというのは、人間…というか神様はわからないものだな)
天照『ねっ、どう? ねっ、感想は?』
天照は、なぜか目をキラキラさせてこっちを見ている。本の感想が聞きたいのか?
俺『え? ああ、読みやすそうで分かりやすそうな本だな。これなら俺でも魔法が使えそうな気にはなるかな』
天照『そうか? そう思うか?』
そう言うと、天照は極上の笑顔を見せて、両手で俺の手を握ってきた。なぜか目が少し潤んでいる。
(やば。可愛い)
∀は論理記号です。ターンAではないのです。
天照大御神といえば、古事記や日本書紀に書かれている創世神話ですが、その話は関連するネタを本文で触れたときにしたいと思います。