拾.21世紀少女
天照大御神。さすがに現代人の俺でも知っているこの神様は、三重の伊勢神宮に祭られている神様で、天皇のご先祖様ということにされている。こっちに来てから得た知識では、太陽の神様であり、大日如来の化身であり、女神だ。
(女神と言うか、女の子だな、これは)
神様らしいところは、光っているところと宙に浮く所くらいか。そうでなければ、自分をちゃん付けで呼ぶ痛い変態痴漢女子でしかない。
天照『そう。その天照ちゃん。頭が高いぞ。もっと平伏せい(笑』
俺『で、その天照が俺に何のようだ』
俺は太刀の切っ先を天照に突きつけたまま、呼び捨てで問いかける。こんな所で太刀を収めて平伏したら、その後、どんなことをされるか分かったものではないと、本能が警告している。
天照『暇だからー、あっそぼうよっ』
天照は、軽く太刀の先に触れると、そのまま太刀を横にずらして、グイッと間合いを詰めてきた。あまりに意表をついた動きに、俺は太刀を構え直すこともできず、天照の侵入を止めることもできなかった。
(何!?)
あまりの急接近にバランスを崩した俺は、思わず尻餅をついた。
天照『だーいじょうぶー?』
そう言って、天照はへらへらと笑っている。この緊張感のなさとさっきの体のキレのギャップが酷い。神様を名乗るだけあって普通じゃないってことなのか。
俺『遊ぶために俺を呼び出したのか?』
天照から差し出された手を無視して立ち上がった俺は、再度、天照の意図を確認した。
天照『そーだよー。せっかく21世紀から連れてきたんだから、目一杯遊んでもらうんだからねっ』
(21世紀って、平安時代でその表現を聞くとは思わなかった…、って)
俺『21世紀から連れてきたってどういうことだ!?』
天照『ひ・ま・な・の』
俺『どういうことなんだ!!?』
天照『ひーまーーーー』
俺『おい、天照っ!』
天照『天照じゃない。天照ちゃんだよっ!』
(なんてこった。てっきりちょっと長くてリアルな夢なのだと思って、何か変だなとは思っていたけれど、本当に平安時代に来てしまっていたなんて)
俺は、話の通じない天照を目の前にして、しばし茫然としていた。
天照『ねぇ。あ・そ・ぼ。ねぇ。ねぇ』
俺『…、遊んだら、21世紀に戻してくれるのか?』
天照『うん。戻してあげるよ』
あまりにあっさり天照に肯定されて、俺はちょっと拍子抜けしてしまった。
俺『ちゃんと元の時間の元の場所に帰れるのか? 浦島太郎ってことにはならないよな』
天照『…、まー、大丈夫かなー』
俺『まー、ってどういうことだよ』
天照『まー、大丈夫ってことだよ。気にすんな!』
俺『気になるよっ!』
天照『天照ちゃんに任せておきなさい。こう見えても日本で一番偉い神様なんだゾ(はぁと』
(全く信用できない…)
今回は、うんちく話はなしです。天照の件は本文中に書いたので。