玖.お前は誰だ
『ふむ。思ったより早かったかな』
突然、現代日本語で話しかけられると同時に、背中と胸に温かくて柔らかい感触が広がった。
(ッ!)
驚いて脇のあたりを見てみると、狩衣の袖の付け根から、誰かが手を差し込んで俺の胸を触っている。
俺『何をやってるんだ、この変態が!』
俺は差し込まれた手を引き抜いて、そのまま手を引っ張ってぶん投げた。比喩じゃなくて、文字通りぶん投げた。あれ? 俺ってこんなに腕力あったんだ。
背後から胸を触っていた変態は、そのまま前方に飛んでいったと思ったら、空中でふわりと浮かんで停止した。
それは淡い光に包まれた、この時代には珍しいショートヘアーの女の子で、白い小袖に薄紫の袴を穿いて、淡い桜色の袿を着、その上から金色に輝く透き通るように薄い衣を纏っていた。袴の裾も袿の袖も、この時代の標準よりも短めで、現代的なセンスをしていた。生地は絹よりも薄く滑らかで、これまでに見たどの生地よりも美しいものだった。
女の子は、ゆっくりと高度を下げて、俺の目の前に立った。その身長は俺よりも高く、おそらく155センチメートルほど。現代人なら中学生くらいの身長だろうか。ただし、俺のちょうど目の高さにある胸は、とても中学生レベルのものではなかった。
(さっき、背中に押し当てられていたのはこれか)
俺の視線は、思わずその質量体に釘付けになっていた。この身長差を考えるに、さっき胸を触られた時は、おそらく中腰で抱きついて来たのだろう。
女の子『大丈夫。今は残念だけど、いずれ大人になるから』
そう言うや否や、再び一瞬で背後を取られて、狩衣の袖の付け根から手を挿し込まれ、今度はさっきよりも大胆に胸を触られた。
俺『いちいち触って確認するなー』
そう言って俺は再び差し込まれた手を掴んで、女の子をぶん投げた。まるでデジャブを見るように、女の子の体は再び宙を舞っている。
俺『おっ、お前は誰だーっ!』
俺はその当然の疑問を、今更ながらに大声でぶつけた。そして、二度と背後に回りこまれないように、太刀を引き抜いて女の子に突きつける。いきなり胸を触られて、俺の目は少し涙で潤んでいるかもしれないが、そんなことを気にしている場合ではない。
女の子『あれ? 知らない?』
女の子は、突きつけられた太刀を完全に無視して、意外そうな表情でやや不満そうに言ったが、こんな変態の知り合いがいる訳がない。
俺『知るか! お前は誰なんだ! 俺を呼び出して何の用だ!』
女の子『あったしは、
(こいつ、今、自分のことをちゃん付けで呼んだよ!?)
どうやら、この子はかなり痛い子のようだ。それにしても、どこかで聞いたことがある名前のようだが、と俺は頭の片隅10%くらいを使って、自分の記憶を探ってみた。
俺『って、
ちょっとエクスクラメーションマークが多すぎる。もう少し落ち着け、俺。
平安時代の美醜の概念は、現代とは違うので、ふくよかな胸に対する評価も違う可能性が高いですが、まあその辺は適当に無視します。当時の女性の結婚適齢期ではまだ体は発育途中のはずですが、だからといって未発達な女性が美人と思われていたかどうかは分からないわけで、はっきり言ってそこら辺の好みはよくわかりません。
今日の活動報告にスポイルしない程度のネタバレ話を投稿しました。興味あればそちらもどうぞ。