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【今は昔】転生!かぐや姫【竹取の翁ありけり】 作者:七師

第1章「天照」

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陸.夜道に注意

 屋敷の門に門番がいたのは想定外だった。どうしたものかと思案したが、月が雲に隠れてあたりが暗くなったところで、石つぶてを投げて反対側の猫を驚かし、門番がそちらを見た隙をついて、門をくぐり抜けた。幸い門番には気づかれなかったようだ。


 (自分でやっといてなんだが、こんな簡単に通れて本当に大丈夫なのか?)


 自宅のセキュリティに疑問を感じたが、その件の追及は後にして、時間を無駄にしないために俺は全力で走った。


 (なんだこれは…)


 俺は、走り始めてすぐに異変を感じた。まず気づいたのは、周囲の景色が流れる速度が異様に速いのだ。まるで車窓から景色を眺めているような速度で、とても推定小学1年生が走っている速度ではなかった。


 (これはつまり、俺の足が車並みに速いってことか)


 足の速さに気を取られて、もう1つの異常に気づくにはしばらく時間がかかった。満月の夜とはいえ、街灯もないのにもかかわらず、周囲の景色がはっきりと見えるのだ。しかも、月が雲に閉ざされても、暗くなったと感じるものの、ものの輪郭は正確に認識することができる。


 もっと不思議だったのは手紙だ。道に迷わないために、手書きの地図の描かれた手紙を持ってきたが、普通は夜の闇の中では、例え月明かりがあったとしても手紙を読むことはできない。しかし、俺は何の苦労もなく手紙に描かれた地図を読んで道を確認している。


 (俺の体は不思議なことばかりだな)


 確かに、俺の体は不思議なことだらけだ。まず成長速度が異常だ。たった10センチメートルの身長しかなかった赤ちゃんが、わずか1カ月で身長120センチメートルの推定小学1年生に成長したのだ。


 さらに、あの式神が本当に俺とそっくりなら、あの美しさは尋常ではない。人間として存在できる限界の美しさを越えていると思える美しさだ。可愛いオーラで人を死なすなんて後にも先にも俺くらいだろう。


 そんなことを考えていると、俺は分かれ道に出くわした。地図を見たが道は一本道だった。困ったなと思ってキョロキョロしていると、首筋にヒヤリとしたものが当てられた感触がした。


 男「動くな。荷物も服も身ぐるみ置いていけば命だけは助けてやろう」


 顔を動かさずに目だけで首もとを確認すると、首筋に当てられているのはどうやら衛府太刀えふのたちと呼ばれる日本刀の一種のようだった。刃先は首筋を向いておらず、刀の背の部分が押し当てられていた。より恐怖を感じさせるために、鉄の感触がしっかりと伝わるよう、切れない側を押し当てているのだろう。


 (これなら…、いけるか?)


 背筋も凍るこの状況で落ち着いて状況を分析している自分の冷静さが不気味に感じたが、ここで身ぐるみ剥ぎ取られるわけにはいかない。幼いとはいえ俺は女だ。無事に解放されない可能性は男よりもはるかに高いだろう。


 チャンスは一度。刃先がこちらを向いていない今を逃しては、次にいつ好機が訪れるかわからない。俺は呼吸を整えて後ろの追い剥ぎの気配を伺った。幸い、気配は後ろの男一人しか感じられない。共犯がいないなら、この男を無力化すれば完了だ。冷静に呼吸を読んで、男が息を吐ききったところで仕掛ける。


 (今だ!)


 首筋に押し当てられている太刀を逆に押し返すように体重を預け、太刀の動きを封じながら、そのまま太刀の背を伝うように振り向く。狙うは急所への一撃。身長差を考えれば股間が一番狙いやすいが、体を半身にしていると命中させにくい。背後を取られて男の姿勢が分からなかったので、股間を狙うのはリスクが大きかった。だから、ここでの狙いは肺。できれば心臓。息を吐ききったところへの一撃で、一瞬呼吸困難にさせ、その隙に足の速さを生かして逃げる。


 大人の男が相手なら、身長120センチメートルの俺にとって、肺は頭よりも高い位置にある。車並みの速度で走る脚力があるので、助走さえあれば掌底を当てればそれで十分だろうが、残念ながら助走距離はほぼゼロだ。ならば未知数の腕力に頼るよりは、常識はずれな脚力を信じて飛び蹴りをする方が成功率が高い。俺は、刀を持つ男の手を掴んで自分の方へ引っ張り、全力で踏み切って男の胸を蹴り上げた。

「俺」が駆け抜ける道は、おそらく堀川通を北に向かっているのだと思われます。基本的に上賀茂神社まで一本道ですが、途中、賀茂川を越えるところで道に迷ったと推測されます。


太刀とは刀の形状と長さによる分類です。長さは60~90センチメートルくらいです。現代、一般的な日本刀は打刀と言いますが、平安時代ではまだ打刀は登場しておらず、太刀が一般的な刀でした。

衛府太刀とは太刀の拵えによる分類で、宮中や市中の警護を司る五衛府(後に六衛府)の武官が実戦用に持っていた太刀のことす。時代が下るに従って豪華な儀礼用の太刀として進化しますが、この頃はまだ実戦用に使われていた時代でした。

「俺」目線では、拵えは見えないので、正確には衛府太刀かどうかを判断することはできないですが、当時の六衛府の武官が使っている形状の太刀であるところから、「俺」の常識に照らしあわせて衛府太刀と結論づけています。

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