国が新型コロナウイルスの検査可能態勢拡充を急いでいる。当初は最大でも1日約1500件どまりだったのが、3月中には約7千件に増える見通しだ。各地の地方衛生研究所(地衛研)での9日分までの実施件数は計約2万件となった。一方で感染者が増えている地域では病床の逼迫もみられ始めた。今後感染が急拡大すれば、県境をまたいだ対応も求められる。
新型コロナの検査は全国83カ所の地衛研や大学、民間検査機関などが担っている。厚労省は地衛研での検査状況を集計しており、9日分までの実績によると、神奈川県が2千件超を実施し最多だった。集団感染が起き、横浜港に入ったクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の検査を担当したことが主な要因だ。
ほかにも感染者の小規模集団(クラスター)が発生した東京(1797件)や、千葉(1687件)、北海道(1334件)、愛知(1282件)なども検査実施件数が多くなっている。各地衛研での実施総数は計2万413件だった。
当初は一部の地衛研などでしか検査できず、処理能力は最大でも1日1500件程度だった。医師が必要と判断したのに保健所が断るケースもあった。このため国は6日から保険適用とし、保健所を介さず医師の判断で検査できるようにした。民間検査機関の参入もあって、現在の検査能力は1日約6200件にまで向上。3月中に約7千件に達する見込みだ。
地衛研の検査可能件数を都道府県ごとにみると、最も多いのは1日当たり190件を処理できる神奈川県。ほかに東京や北海道、大阪、福岡など8都道府県は100件以上の処理能力がある。一方で岩手や山口などは20件にとどまる。厚労省は「処理能力が少ない地衛研も体制整備を進めている。必要に応じて隣県に依頼するなど調整してほしい」としている。
■感染症対応病床には逼迫も
検査能力が徐々に上がる一方で、課題なのが感染者の入院措置をはじめとした医療機関の受け入れ態勢だ。
介護施設でのクラスター発生などで100人超の感染者が出ている愛知県は、これまでに感染症に対応した計169病床を確保した。だが感染者が多い名古屋市内の病床は「かなり埋まってきている」(県)という。新たな感染者には市外の病院に入院してもらうケースも出ており、県は対応病床を200超に増やしたい考えだ。
検査で陽性が判明した場合は入院が原則だが、自治体の判断で自宅での経過観察といった対応を取ることもできる。大村秀章愛知県知事は「感染が増えた場合、病床はより重い人にシフトし、軽症の人は自宅療養ということではないか」との見方を示している。
相模原市では12日時点で9人の感染者が入院せずに経過観察となっている。市の担当者は理由を「症状がないなど、すぐに入院する必要がないと医師が判断したため。肺炎などの症状が出ればすぐに入院している」と説明する。神奈川県全体の感染症病床には7割ほどの空きがあるという。
国は感染症指定医療機関などに計5千床を確保したとしており、全国でみれば現時点で大規模な病床不足は生じていない。ただ今後感染が拡大すれば地域間での病床の調整などが重要になる。
検査の精度はまだ高くない。感染直後などは体内のウイルス量が少なく、感染していても陰性になるケースもある。逆に未感染でも「陽性」と出る可能性もある。単純に大量の検査を実施するのではなく、リスクの高い重症感染者を的確に把握し、重点的に対処する態勢が必要になっている。