鈴木貞夫(すずき・さだお) 名古屋市立大学大学院医学研究科教授(公衆衛生学分野)
1960年岐阜県生まれ。名古屋大学医学部卒業、名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了(予防医学専攻)、Harvard School of Public Health修士課程修了(疫学方法論専攻)。愛知医科大学講師、Harvard School of Public Health 客員研究員などを経て現職。2006年、日本疫学会奨励賞受賞
3万人調査の結果は「子宮頸がんワクチンと接種後の症状に関連はなかった」
前項で述べた通り、八重論文で用いられた研究期間は情報バイアスを含む変数であり、それだけでも問題であるが、恣意的な解析とプレゼンテーションにより、さらに不当にオッズ比を引き上げている。
八重論文では、変数としてワクチン接種、研究期間に加え、両者の交互作用項を入れたモデルを提案している。主因(ワクチン接種)と別の因子との間に交互作用があるということは、別の因子の層により接種リスクに濃淡があることを言う。
たとえば、鈴木論文ではワクチン接種と「接種年」との交互作用を考え、同じ症状の経時的な接種リスクの濃淡の変化について言及している(後述)。交互作用を考えないモデル(ある症状発生の接種リスクが接種年により変化しないとするモデル)では、その変化しないオッズ比がひとつだけ算出されるが、接種年の交互作用を考慮したモデルでは、接種年ごとのオッズ比が算出され、経年変化が観察できる。
八重論文で交互作用を考慮した「研究期間」という変数は、0年から9年までの10層あるので、交互作用を検討するならこのすべての層の10個のオッズ比に言及する必要がある。しかし、八重論文では1つのオッズ比しか提示されていない。
たとえば、症状18(簡単な計算ができなくなった)のオッズ比が4.37とあるが、このオッズ比が全体に対するものではないことや、誰に対するオッズ比であることが記載されていないので、全体のオッズ比と誤読する恐れがある。鈴木論文では症状18に対するオッズ比は0.70であった。なぜこれほどの差が出たのか説明しよう。
そもそも交互作用とは、全体を構成する部分によりリスクに濃淡があるという考え方であり、部分集団のリスクについて詳細に検討することと同じ考えに基づいている。
鈴木論文では、全体を接種年で層別化し、そのなかでオッズ比の大小が認められることについては述べている。ただし、オッズ比の振れ幅は大きくなく、有意に2.0を超えたものは、24症状×5集団の120層のうち、ただ1つであった。今回、八重論文で24症状のうち5症状でオッズ比が3.0を有意に超えている。
この高いオッズ比がどのような交互作用の扱いのもとに計算されたのかは論文中に書く必要があるが、八重論文には記載がない。多くの統計ソフトのデフォルトに基づき、このオッズ比が研究期間=0のときのものであるとすれば、変数の定義上、そこには非接種者はおらず(接種者の最小の研究期間は3年である)、情報バイアスを含む変数で作為的に作られたリスクの濃淡により大きくゆがめられた結果と考えられ、単に計算上はじき出されたオッズ比に過ぎず、具体的な意味は全くない。
まとめると、八重論文で行われた操作は、①年齢調整をしないことで交絡により全体的なリスクを上げたこと、②研究期間で調整して全体的リスクをさらに上げたこと、③不適切な交互作用項を用いて実際には存在しないリスクの濃淡を作り出したこと、④その存在しないリスクの濃淡の最大値だけをあたかも全体のオッズ比として示したこと、の4点である。この4つの操作で、もともと0.70だった症状18に対するオッズ比(鈴木論文)を4.37まで上昇させた(八重論文モデル3)。もちろん科学的妥当性は一切ない。
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