ドラマログテキストマイニング

テレビ番組(ドラマ)の字幕情報を対象に、テキストマイニングの研究をしておりますので、解析結果の公開をメインに関連グッズを交えた構成で記事にしてます。また、解析結果の信憑性が確認できるよう、解析用ソースも部分引用し掲載してあります。

おしん 一挙再放送 第49週・完結編 乙羽信子、大橋吾郎、野村萬… ドラマの原作・キャスト・音楽など…

『おしん 一挙再放送▽第49週・完結編』のテキストマイニング結果(キーワード出現数ベスト20&ワードクラウド)

  1. 並木
  2. 道子
  3. お母さん
  4. 浩太
  5. スーパー
  6. 辰則
  7. 今度
  8. 自分
  9. オープン
  10. ホント
  11. 商売
  12. 心配
  13. 土地
  14. 初子
  15. 大手
  16. 進出
  17. 明日
  18. 気持
  19. 一番
  20. 今日

f:id:dramalog:20200315094431p:plain

『おしん 一挙再放送▽第49週・完結編』のEPG情報(出典)&解析用ソース(見逃した方はネタバレ注意)

解析用ソースを読めば、番組内容の簡易チェックくらいはできるかもしれませんが…、やはり番組の面白さは映像や音声がなければ味わえません。ためしに、人気のVOD(ビデオオンデマンド)サービスで、見逃し番組を探してみてはいかがでしょうか?

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おしん 一挙再放送▽第49週・完結編[字]

主人公おしんの明治から昭和に至る激動の生涯を描き、国内のみならず世界各地で大きな感動を呼んだ1983年度連続テレビ小説。全297回を1年にわたりアンコール放送。

詳細情報
番組内容
誕生日のお祝いの席で、おしん(乙羽信子)は初めて、仁(高橋悦史)からスーパー「たのくら」17号店を、浩太が住む町に作ると聞かされた。おしんは、浩太の食料品店と競合することになって、浩太に迷惑をかけると猛反対をした。60年以上のつきあいがあり、大きな恩がある浩太を裏切ることはできないと主張するおしんに対して、仁は「恩は恩、商売は商売」だと反論。2人の間に大きな対立が生まれることになった。
出演者
【出演】乙羽信子,大橋吾郎,野村萬,佐々木愛,桐原史雄,宮本宗明,浅茅陽子,高橋悦史,【語り】奈良岡朋子
原作・脚本
【作】橋田壽賀子
音楽
【音楽】坂田晃一

 

 


♬~
(テーマ音楽)

♬~

昭和57年
おしん 満81歳の誕生日は

田倉家全盛を象徴する
平和な祝宴であった。

…が その日 おしんは

仁から 思いもかけない事を
聞かされたのである。

(希望)話されたんですか? 仁に。
(おしん)話すも何も

さっさと出かけちゃったよ
辰則さんと。

今更 理由を聞いても無駄だって。

誰が何と言っても
後へは引かないそうだよ。

(初子)そりゃ そうでしょうね。

用地を買収するだけだって
相当 大変だったらしいし

店の建設工事も もう
発注しちゃったと言うんでしょ。

今までのものを 全部 つぎ込んで
やるくらいの

意気込みなんだから
仁ちゃんにしてみれば

相当な覚悟で
準備してきたんだろうし…。

(圭)おばあちゃん。

一体 どうしたって言うんだよ?

せっかくの誕生日なのに 途中で
怒って 席 立っちゃって…。

道子おばさんだって
気分 壊してるみたいだよ。

父さんたちは
おばあちゃんと 大事な話がある。

お前 先 帰っていいぞ。

僕だって心配だよ。 何が何だか
さっぱり分かんないんだもん。

子どもには 関係ない事だ!
もう 子どもじゃないよ 僕は。

父さんと初子おばさんと
同じように

おばあちゃんの事 大事だから
気にもしてるんじゃないか。

圭!

(圭)はい。 席を外せばいいんだろ。

おばあちゃん あんまり カッカすると
血圧に よくないよ。

お店の方はさ
仁おじさんに そろそろ任せて

おばあちゃん
引退すりゃいいんだから…。

じゃあ また来るよ。

そうですよ 母さん。
圭ちゃんの言うとおり

商売の事は もう 忘れて…。

そういう年になったんですよ
母さん。

そりゃ 私だって ほかの事なら
見て見ぬふりをするよ。

とっくに 仁は 社長なんだし

私は なるべく
表へ出ないようにしてる。

それで たのくらが潰れたって
私の代は もう終わったんだ。

仁の才覚で
たのくらが どうなろうと

私は 黙って
見てるつもりだったんだよ。

でも 浩太さんに
迷惑をかけるっていうんじゃ

知らん顔してる訳に
いかないじゃないか。

まさか 母さんの知り合いと
張り合う事になるなんて

仁だって…。

(道子)ホントに おばあちゃんにも
困ってしまうわね。

せっかく お父さんが
ここまで こぎ着けて

あとは お店さえ建てれば
いいって時になって

いきなり 反対なさるんだものね。

あれじゃ お父さんも辰則さんも
怒るの 無理ないわ。

(剛)全く 何 考えてんだろうね
おばあちゃんも。

もう 80過ぎたんだよ。
いい加減 余計な口出しは

やめてもらいたいよね。 ホント。
でも まあ

おばあちゃんが 何 言ったって
父さんも辰則おじさんも

相手には しないだろうけど
やっぱり 気分 悪いもんな。

そうよね。
全く この年になるまで

一つ屋根の下で
おばあちゃんと暮らしてきた

母さんの身にもなってよ~。

いつも おばあちゃんの顔色 見て
ちっちゃくなって…。

もう 20年だものね。

このうちが出来てからだって
おばあちゃんがいるばっかりに

あんたたち夫婦や孫たちとも
いまだに 同居できないで…。

このうちには まだ あかねや
みどりもいるじゃないか。

そうだな。 あの2人が
嫁にでも行ったら 俺たちも

このうちに戻ってくるよ。
あかねだって みどりだって

自分たちの事だけしか
考えてやしないしさ…。

お父さんは
「仕事 仕事」の人だし

母さんなんて
いっつも独りぼっち。

≪(車が止まる音)

あっ お帰り。 大丈夫かい?

あなた こんな時間まで
どこに いらしたんですか?

まあ お母さんまで
起きていらっしゃる事ないのに。

ちょっと 仁に 話があるの。
私の部屋へ来ておくれ。

お母さん 明日にして下さい。
今夜は もう遅いし

それに こんなに酔ってちゃ
話にも何もなりませんよ。

明日は また 仕事で忙しいだろ。

この子はね いくら飲んでも
分別が分からなくなるほど

酔わないの。 おいしいお茶
いれてあげるからね。

ホントに もう 今夜は この人も
疲れてるし 明日の晩だって…。

急ぐのよ。 道子さん あんた
先に寝てちょうだい。 ねっ。

さあ 仁 しっかりしなさい。 ほら。
大丈夫かい?

そら しっかりして。 ほら。

(仁)何ですか? 新しい店の話なら
何を言ったって

無駄だって言ったでしょ。
たとえ どんな理由があろうと

今になって 急に中止しろって
言われたって…。

母さんに話したら 目を回しそうな
値段で買った土地なんですよ。

ここ2~3年の不況で
消費者の買い控えが続いてる。

たのくらの業績も
頭打ちの状態なんですよ。

この辺で ドカンと でかい事やらんと
ジリ貧に追い込まれるんですよ。

今度の店はね
たのくらの起死回生を懸けた

大勝負なんですよ。
だから 金も使いました。

今 後へ引いたら どれだけ
借金を背負い込む事になるか…。

仁…。
第一 うちが進出しなくても

あそこは いずれ
どこかが 店を出すんですよ。

ほっとく訳ないんだから。
じゃあ その店に

譲ったらいいじゃないか。
そしたら 借金しないで済むだろ。

バカな事 言わないで下さいよ。

みすみす 他人に明け渡せって
言うんですか?

誰かが出すんなら うちが
出したって 同じじゃないですか。

そりゃ そうだ。 まあ よその店は
どうでもいいんだけど

うちには 諦めなきゃならない
理由があるんだよ。

母さん。
あそこにはね

並木っていう
大きな食料品店がある。

並木さんは 田倉にとっては
大恩あるお人なんだよ。

今は 息子さんの代に
なってしまったけど

先代の浩太さんには

お母さん ホントに
お世話になったんだから…。

16の時からの おつきあいでね

母さんが 東京で働いてる時も
結婚してからも

母さんが 一番 困った時に いつも
浩太さんが助けて下すった。

終戦後の あの小さな店を
出したのも

浩太さんの おかげなんだよ。
たのくらが 今日 あるのも

浩太さんが 陰のお力添えを
して下すった おかげなんだから。

そういえば 並木って名前は
聞いた事あるな…。

どんな男なのか
母さんに尋ねた記憶がある。

その時
母さん 話してくれなかった。

俺に話せないような
つきあいだったんですか?

あのころ
あんた まだ若かったからね。

話しても 素直に
聞いてもらえるとは思えなかった。

でも 今だったら あんただって

母さんが そんな
ふしだらな女じゃないって事は

よく分かってるだろ?

16の時から 60年以上も
お互いに大事にしてきたものを

今更 裏切る訳にはいかない。
そんな事しちゃいけないんだよ。

最初 並木に交渉に行った時

どこかで聞いた名前だって
気には なったんだけど…。

まさか 母さんと
そんな因縁のある人が

あそこに いたなんて…。

仁。 たのくらが
ここまで伸びてくるのだって

お前だって
随分 あこぎな事してきただろ。

その度に 母さん 胸が痛んだ。
でも こんな競争の激しい中で

そのくらいしなきゃ
とっても生き残れないと思った。

それが分かったから
母さんだって 目を閉じたんだよ。

いや 母さんだって
力を貸してきた。

でもね 今度だけは…。
母さん。

浩太さんにはね 雄だって
とっても かわいがって頂いた。

浩太さんの愛情があったから
母さんも雄も

親子心中しないで済んだ時だって
あった。

そんな人に
弓を向けるような事…。

それと商売とは 別だろ。
仁! うちが スーパーを…

お前が計画してるような
大規模なスーパーを建ててごらんよ。

並木食料品店なんて
たちまち 客足が落ちてしまうよ。

商売は
食うか食われるかなんですよ。

義理だ 人情だって
そんな事 言ってたら

こっちが食われてしまうんですよ。
たのくらが進出すりゃ

並木だって それに対抗する事を
考えりゃいいんだ。

恩は恩 商売は商売。
はっきり 割り切らないと

自分で自分の首を絞める事に
なるんですからね。 仁!

俺は そういう男ですよ。

それで 今まで やってきたんです。
それで 成功もしてきたんですよ。

自分の主義を変えるつもりは
ありませんね。

情に溺れてたら 商売なんて
できやしないんだよ 母さん。

母さんが こんなに頼んでもかい?

母さん…

母さん もう惚れた腫れたって
年でもないでしょ。

その年で
恋人に義理立てしたところで

どうなるもんでも
ないんじゃないんですか?

あ… 痛。

母さん…
俺には 何を言ってもいいさ。

しかし 道子の耳には
入れないでもらいたいな。

みっともないよ 母さん。

♬~

(道子)お母さんの お話って
何だったんですか?

くだらん事だよ。

まだ 新しいお店の事
反対してらっしゃるんですか?

腹 減ったな。
茶漬けでも食うかな。

また そうやって はぐらかして…。

私には 何にも
話して下さらないんだから。

あなた…。
うるさい!

(辰則)日用雑貨の隣に
家具 置いたら どうかな?

いやいや それよりもですね
この2階が先決だと思うんですよ。

この子ども服と婦人服を
もうちょっと こう きれいに…。

(仁)おはよう。
(辰則)あっ おはようございます。

今日は 新しい店の進出と
経営の規模等を

発表する段取りに
なっておりますが

予定どおりで
よろしいんでしょうか?

うん…。
副社長の ご意向は?

だいぶ 反対のご様子でしたが…。
気にする事は ないよ。

専務。
うん?

経済日報の足立さんが
お見えだそうですが…。

この間から しつこいんですよ
嗅ぎつけたらしくて…。

午後 記者を集めてくれ。

どうせ 発表するんなら
大々的に いこうよ。

盛大に アドバルーン 打ち上げるんだ。
はい。

今夜 連中を招待して 飲ませよう。
手配 頼むよ。

はい!

(道子)どこの地方版でも
扱ってくれてますね

新しいお店の進出の事。

地元の新聞には
経済欄に 大きく出てた!

こう 新聞に書かれたんじゃ
お母さんも もう

反対は できませんわね。
よかったじゃありませんか。

♬~

その日 おしんは 浩太を訪ねた。

詫びても どうしようもない事は
分かっていた。

ただ おしん自身の やりきれない
気持ちを聞いてもらえるのは

やはり 浩太しか
いなかったのである。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

(初子)あっ いらっしゃい。

(仁)パパイアとマンゴーだ。
いいのが入荷したから。

いつも すいません。
さあ どうぞ。

今朝の新聞で見たわ。

地方紙の経済欄に
大きく扱ってたじゃないの。

たのくらも大したもんね。
17店目ともなると ニュースなのね。

「今度の店は 今までの たのくらの
集大成みたいなもんで

規模も でっかい」って
吹きまくったんだよ。

P.R.時代だからね
目いっぱい マスコミを利用しなきゃ。

じゃあ 母さんも
とうとう 諦めたのね。

その事なんだがね
おふくろ 来なかった?

いいえ。 何かあったの?

(仁)朝飯も食わずに
黙って 出かけたんだよ。

いつもなら 気にしないんだがね
今朝… 新聞記事の事があるだろ。

おふくろ 読んだ事
分かってるんだから…。

じゃあ
母さん まだ反対してるの…。

並木に恩義があるってね。
仁ちゃんに話したのね 母さん。


しかし 今頃
そんな事 言われたって…。

そりゃ そうだろうけど
母さんにしてみれば やっぱり…。

初ちゃん 知ってたのか?

希望ちゃんの お母さんの

結婚する前の
恋人だったらしいわよ。

おふくろが
惚れてたんじゃないのか?

(初子)その辺の事は
私にも よく分からないけど

希望ちゃんが 窯 持った時にね
その費用 貸してくれたのが

並木さんだったの。
新築祝にも見えてね

希望ちゃんの事 とっても
懐かしそうにしてらしたわ。

母さんも 並木さんの事を

とっても 頼りに
してらっしゃるみたいだったし

お互いに 特別な思いも
長い歴史も あるんじゃない?

今まで 俺に そんな話
した事なかったからね おふくろ。

だって 母さんにしてみれば

こんな事になるとは
思ってもいなかっただろうし…。

だからって ここまで来て…。

運が悪かったのよ。

俺も 事業を大きくする事が

何よりも おふくろの苦労に
報いる道だって

今まで信じてきたんだ。 だから
ここまで頑張ってこられたんだ。

しかし 今度ばかりは
親不孝する事になっちまった…。

(浩太)おしんさん
私は もう 隠居の身です。

店も 伜に譲りました。

たのくらの進出を
受けて立つのは

伜で 私じゃありません。
おしんさんも そうでしょう。

仁さんの代になって
仁さんが決めた事だ。

おしんさんに 頭を下げられる
理由なんてないんですよ。

(おしん)浩太さん

私は 仁の育て方を
間違えたような気がします。

この前も そんな事を
おっしゃってましたね。

「子どもは 親の姿を見て育つ」って
言いますが

私が 商売を
大きくする事ばっかり考えて

生きてきたもんですから

仁が 事業のために 義理人情を
踏みにじるような事をしても

私は 責める訳にはいきません。

今頃 気が付いても
遅いんですけど

あの子を
あんな人間にしてしまったのは

やっぱり 私の責任だと思います。

誰のせいでもない。 戦争です。

あの戦争で 日本は 丸裸に
なってしまった。 身も心も…。

あの惨めさは 日本の人間を
みんな 変えてしまったんです。

あの地獄から はい上がろうと
誰も彼も 必死になって働いた。

どん底を体験したからこそ
豊かさへの願望が

大きかったんですよ。
おしんさんだけじゃない。

みんな 豊かさに憧れて
馬車馬のように働き続けた。

その事を 誰も責めるなんて
できやしません。

今は 物もあふれ

昔の貧しさを知ってる人も
いなくなってしまった。

遮二無二 走ってる間に
忘れられてしまった事も

随分 多い。

しかし そうしなきゃ 日本は
立ち直れなかったんだから…。

みんな 時代の荒波に押し流されて
必死になって生きてきたんです。

そうですね。
あのころ ぼんやりしてたら

飢え死にしてしまいますものね。

でも 今 思うと
お金欲しさの一念で…。

それが いつの間にか
次から次へと 欲が出て…。

それで まあ 日本の高度成長も
あった訳だから…。

でも うちの孫なんか
貧乏も知らなくて

今の豊かさを当たり前だと
思ってるんですから

何だか 怖いようで…。

そりゃ
うちの孫だって一緒ですよ。

だから たのくらの進出で

うちが危なくなるような事にでも
なれば

かえって 孫たちの薬だと
思います。

浩太さん…。
それは それでいいんです。

人間 どん底になって
人生を考える時がないと

本当の幸せなんか
分かりゃしないんだ。

豊かさに慣れてしまった
人間なんて 不幸なんですよ。

まあ おしんさん
今日は ゆっくりしてって下さい。

私も いつまで こんな山荘で

ぜいたく三昧ができるか
分かりゃしない。

並木が 経営危機にでもなれば

真っ先に処分されるのは
ここでしょうからね。

あ~ 今 料理のうまいばあさんが
来てくれてましてね。

昼は 山菜料理
作ってもらいましょう。

(宗男)あっ お客様ですか。
(浩太)あ~ 何だ お前か。

伜の宗男です。

たのくらの おしんさん。

田倉でございます。

いつも お父様には
お世話になっております。

並木です。

どうした? こんな所へ わざわざ。
何か用か?

私は これで失礼させて頂きます。

いやいやいや 是非
お昼 ご一緒にしましょう。

でも まだ 私も いろいろと…。

どうぞ お元気で…。

また いらして下さい。

何しに来たんです? あの人。

私の古い友達だ。 お前に
とやかく言われる事はないよ。

今朝の新聞 見ましたか?
たのくらが うちの店を

買収しに来た時
私は はっきり断りました。

それで てっきり
諦めたとばっかり思ってたのに

あんな所に
スーパーを建てられたんじゃ

うちは
たまったもんじゃありませんよ!

薄茶でも たてようか?
父さん!

母さんの好きなお店の おそばよ。

朝御飯も食べないで
一体 どこ行ってたの?

人騒がせね。 仁ちゃん 心配して
うちまで見に来たのよ。

母さん
少し 長生きをし過ぎたようだね。

何 言ってるの!
今まで 元気でいたからこそ

たのくらの最盛期も
見られたんじゃないの。

今度の店は 仁ちゃんにとって
一番 大きな仕事になるらしいし

そのオープンに出席できるなんて
母さん 誰よりも幸せ者なのよ!

母さんの気持ちなんて
誰も分かりゃしないよ。

ぜいたく言ったら
罰が当たるわよ。

そりゃ 母さんにしてみれば
並木さんに

恩を仇で返すような事に
なるかもしれないけど

たのくらが 店 出したからって
並木さんが

潰れる訳じゃあるまいし…。
何て言ったって この世界は

競争なんですからね。
並木さんだって 商人なら

義理や人情とは別だって事ぐらい
承知して下さるわよ。

ああ。 並木さんは
よく分かって下すったよ。

逆に 母さん 慰められた。
そう。 並木さんに行ってらしたの。

それが
商売の厳しさなんだろうけどね。

そういう考え方が
母さん 怖いんだよ。

それが 当たり前だと思ってる

仁の非情さが 母さんは…。
それくらいじゃなかったら

たのくらなんて
とっくに消えちまってたわよ。

これまでだって
何軒ものスーパーが潰れてきたの

母さん 見てるじゃありませんか。
うちだって 何度もの危機を

乗り越えたんだって
みんな 仁ちゃんが…。

いいよ もう! 誰も彼も
商売さえ うまくいきゃ

文句ないって考え方なんだからね。
母さん!

それっきり おしんは

新しい店について
一切 言葉を挟まず

仁に任せたまま 家に
閉じ籠もっている事が多くなった。

やがて 昭和58年が明け
その年の3月

スーパー たのくらの17店目は完成し
オープンの日を迎えようとしていた。

(圭)おばあちゃん。
圭 どうしたの? 急に。

春休みですよ。
昨夜 遅く帰ってきたんです。

それで 一番に
おばあちゃんの顔を見に…。

へえ~。 大学ってとこは

随分 早くから
お休みになるんだね。

高い月謝 取っといて…。

相変わらずだな。 でも 安心した。
いや 父さんがさ

「おばあちゃんも 年かな。 最近は
ほとんど 家に籠もりきりで

何だか 元気ない」って
心配してたから。

それで どうしたのかと思ってさ。

でも 顔色もいいし
毒舌も衰えてないし。

うるさいのはね さっさと
消えちまった方がいいんだけど

なかなか お迎えが来なくてね。
また そういう事 言う!

でも よかったね。 この分じゃ
17店目の店のオープンにも

かくしゃくとして
出られるじゃないですか。

今度の店っていうのは
デパート並みに大きいんだってね。

仁おじさんっていうのは
やっぱり 大した腕だよな。

父さん 元気かい?
はい。

今 4月の個展の制作で
大変らしくて

「なかなか 御機嫌伺いには
来られないけど よろしく」って。

忙しくて 結構じゃないの。

はい。 はい 分かりました。

外から
おばあちゃんに 電話だって。

もしもし 代わりました。

まあ 浩太さん!

いつぞやは 大変 失礼致しました。

至急 お話ししたい事が
ございまして

お宅の近くまで来てるんですが
出てこれますか?

ついていくよ 僕。
いいんだったら いいんだよ!

おばあちゃん!

♬~

突然の浩太の電話に

おしんは ただならない
不吉なものを感じていた。

…が それが まさか たのくらの
浮沈に関わる事だとは

思いも及ばない おしんであった。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

(おしん)わざわざ こんな所まで
お運び頂きまして…。

(浩太)いやいや
うちの方に お越し願っても

よかったんですが いろいろ
うるさい目も ありまして…。

いよいよ 明日 オープンですね。

申し訳ございません。

浩太さんには もう
何て お詫び申し上げていいのか。

私は 今でも あの店は 出しては
いけなかったと思っております。

いや それは
この前 おしんさんが

お詫びに見えた時
申し上げたはずです。

私と おしんさんの事と
商売とは 別です。

それに 今は もう 伜の時代です。

伜たちは 伜たちで
競争すればいい。

はい。 それでも やはり…。

だから 私は 私の伜が

たとえ どんな事をしようとも
黙って見てるつもりです。

その事は おしんさんにも
分かって頂きたい。

お宅の息子さんが 何か?

いや 実は だいぶ前から

大手のスーパーが
進出 狙ってましてね。

うちとか うちの周囲に
土地の買収工作 始めましてね。

そうですか…。 まあ お宅のお店は
何と言っても 駅前ですからね。

うちでも お宅へ お願いに
あがったらしいんですが

お譲り頂けなかったので 諦めて

客足の悪いのを承知で
今の所へ決めたようです。

いや ところが
最近になって うちの伜は

大手のスーパーに 土地を売り渡す
決心をしたようです。

まあ 駅前の商店街は
たのくらの進出に反対で

うちの伜を先頭に
反対運動してきましたが

とうとう たのくらのオープンという
運びになって…。

それじゃ
大手のスーパーに 土地を渡して

そこに ビルを建て
テナントとして入って

商売した方が
いいんじゃないかと…。

そんな…。
いくら 将来性があるったって

あんな小さなとこに 大きなスーパーが
2つも出来たんでは…。

バカな話です。 しかし
伜も意地になってましてね。

大手のスーパーも
この話に乗ったのは

たのくらよりは
私たちの土地が 駅に近い。

立地条件がいいからだとは
思うんですが…。

それじゃ うちは…。

ええ。 もし 大手のスーパーが

本腰を入れて
駅前に進出したら…。

あっ フフフ!

それじゃ 並木さんと うちとは

立場が
逆になってしまった訳ですね。

うちあたり 大手のスーパーとは

とっても 太刀打ちなんて
できっこありません。

そういう事になりかねませんね。

でも お宅の息子さんが

そういうふうに お考えになるのは
よく分かります。

いや 仁さんも
この事は ご存じないはずです。

ですから もし お宅様で
打つ手があればと

まあ 取り急ぎ おしんさんの耳に
入れようと思って…。

お心遣い頂きまして…。

ただ 私は 引退した身です。
何にも…。

それは 私だって同じです。

せっかく 教えて頂いても
どうしてやる事も…。

いや しかし…。
自業自得ですよ。

私が 仁に 「浩太さんに
お世話になったから

今度の店だけは やめてくれ」って
頼んだ時に

素直に言う事を
聞いといてくれれば

こんな事にならなかったのに…。

まあ 欲に目がくらんで
罰が当たったんですよ。

ちょうど いい薬に
なるかもしれません。

いや おしんさん そんな
のんきな話じゃないでしょ。

失礼だが あの店に
もしもの事があったら

たのくらの命取りになりかねない。

そうでしょうね。

まあ
それも いいじゃありませんか。

私だって 仁だって
裸一貫から始めたんです。


もう一度 出発点に戻って
出直すというのも

悪い事じゃないと思います。
いや おしんさん…。

私 貧乏には慣れてます。

貧乏が ほとほと嫌で
今日まで やってきましたが

子どもたちや孫たちが

ぜいたくな暮らしを
当たり前みたいな顔してると

一度 どん底の生活を
味わわせてみるのも

いいんじゃないかと
思うようになりました。

浩太さんも
おっしゃったじゃありませんか。

「豊かさに慣れてしまったら

本当の幸せが分からないから
不幸だ」って…。

私たちは
白い御飯1杯 コッペパン1個にも

幸せになれた時がありました。

でも 今は もう
それを忘れてしまっています。

それを
もう一度 思い出すためにも…。

仁や孫たちにも
いい経験になります きっと…。

(禎)母さん どこ フラフラしてたの?
行き先も言わないで!

道子さんと 何かあったの?
別に…。

だったら なにも
黙って出かける事ないでしょ。

道子さん こぼすの 無理ないわ。
道子さんだって

心配してくれてるんだから。
謝りなさいよ 道子さんに。

ホントに 人騒がせなんだから!
(道子)お帰りなさいませ。

道子さん 方々に 電話かけて…。

悪かったわね ちょっと
散歩のつもりだったから。

私は また 私の方に
何か お気に召さない事でも

あったんじゃないかと思って。
いいえ。

ちょっと
足慣らしのつもりで…。 圭は?

帰りましたわ。 また来ますって。

ねえ 母さん 見て。
これ 出来てきたの。

道子さん 新しく こしらえるって
言うから 私も一緒に頼んだの。

今度のお店のオープンにと思って。

明日の祝賀会には
お役所関係から 商工会議所

あの町の名士連が
ほとんど 出席するんだって。

私たちも
夫婦で出る事になってるから

思い切って 張り込んじゃった。
この帯も。

私も ちょっと ぜいたくかとは
思ったんですけど

仁さんも いいって
言ってくれたもんで。

母さんも
式服の用意しとかなきゃ。

当日になって 慌てないでね。
朝10時オープンよ。

(道子)後で
私 お手伝いにあがります。

いいのよ 私一人で大丈夫だから。

ねえ 母さん。 新しい店
まだ 見てないんだって?

オープンの前に
一度 行ってくればいいのに。

亡くなった父が 一目 見たら
どんなに喜んだだろうと思うと

何だか 涙が出てきちゃって。

父は 日本に
まだ スーパーがない頃から

もう スーパーに夢中で 仁さんに
自分の夢を託してきたんです。

あれから 30年近くもたって
とうとう たのくらが

あんな店まで持てるように
なったなんてね。

そうよ。
母さんなんて 世界一の果報者よ。

仁兄さんみたいな
すばらしい息子を持って

母さんの夢を実現してくれて…。

(道子)あの~ お母さん 実は

今 あかねに おつきあい
してる方が いましてね。

へえ~! あかねちゃん いたの?
そんな人が!

だって 22よ あの娘も…。
そうね。 まだまだ 子どもだと

思ってたのに…。 ホントに。
じゃ お兄ちゃん 大変でしょ?

それがね
まだ 仁さんには 話してないの。

あの人には
心積もりがあるらしくって

ほかの男の人は もう なかなか
受け付けてくれないんですよ。

といってね あかねは 親の言う事
すんなり聞くような娘じゃないし。

どんな人なの? 相手の青年。
それでね お母さん

今日 あかねが その方 うちへ
連れてくる事になってるんです。

お母さんにも 是非
お会いして頂こうと思って。

私は 悪い相手じゃないと
思うんですよ。

でも 仁さんが 何て言うか…。

ですから お母さんにも
是非 気に入って頂いて

仁さんに ひと言
お口添え頂けたらと思って…。

お母さんが いいって
言って下されば

仁さんも承知してくれますから。
そんな事 急に言われたって…。

(道子)お願いします お母さん。
今度のお店のオープンが終わったら

仁さんに話すつもりで
いるんですけど

その時には 是非 お母さんの
お口添えが欲しいんです。

悪いけど 私も その人に会うのは
新しい店が落ち着いてからに…。

でも
今日 来る事になってるんです。

そんな…
そんな慌てなくったって。

もうちょっと 様子を見てから。
ねっ。

(道子)お母さん…。

(仁)いや~ みんな 御苦労だった。

あとは
明日のオープンを待つばかりだ。

まあ 前祝いに
ゆっくり やってくれたまえよ。

母さん どうしたんだ?
おふくろが いないんじゃ

前祝いにも何にも
なりゃしないじゃないか。

今も
お声 かけてきたんですけどね。

どこか ご気分でも
お悪いんじゃないんですか?

冗談じゃないぞ。 明日は
大事な日だっていうのに

もし 出られなかったら
どうするんだよ?

(辰則)私が 様子 見てきましょう。

あ~ いい いい。
俺 行く。 俺 行く。

(辰則)副社長。
(仁)母さん

今 迎えに行こうと
思ってたんですよ。

さあ 前祝いの乾杯と
いきましょう。

はい 母さん。

とうとう
ここまで こぎ着けましたよ。

今度の店は 母さんのために
頑張ったんですからね。

誰よりも 一番 母さんに
喜んでもらいたくて。

母さん。 明日は 母さんに
一番 大きな花を 胸につけて

祝賀会に出てもらいますよ。
母さんの店なんですからね。

(辰則)副社長
おめでとうございます!

(一同)おめでとうございます!

うん。 この連中は
今度の店のオープンに

一番 功績があったんですよ。
用地の買収から開店まで

よく働いてくれました。
いや 中でも 彼の手腕 抜群でね。

いや~ 見どころのある男だ。
将来は 必ず たのくらを

背負っていってくれるんじゃ
ないかと 期待してるんですがね。

お母さん 初めてでしょ。

平井君っていいまして
京大出の秀才です。

(平井)平井です。

皆さん お世話さまでした。
ありがとう。

せめて 今夜は
ゆっくり 飲んでって下さい。

(一同)ありがとうございます。

お母さん?

私は 明日があるから
失礼させてもらうよ。

では 明日 お目にかかります。

母さん。

平井って青年 どうですか?

あかねの婿にって
思ってるんですがね。

いいでしょ? ああいう青年が
田倉の一族に加わってくれれば

田倉は 万々歳ですよ。

♬~

≪(一同の笑い声)

♬~

翌日の早朝
おしんは 誰にも知らせず

一人で 旅に出ていた。

新しい店のオープンの日に出奔した
おしんの真意を知る者は

誰ひとり いなかった。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

スーパー たのくら17店目の
オープンの日に

おしんが 家を出てから
ひとつき余りが過ぎ

山形 東京 佐賀 伊勢と歩き続けた
おしんの旅も

ようやく 終わろうとしていた。

(圭)たのくらが そんな事に
なってるなんて 知らなかった…。

じゃあ 仁おじさんだって
大変なんじゃないか!

大手スーパーが進出してくる事も
もう 耳に入ってるだろうし…。

(おしん)帰ったら もう
うちなんか

無くなっちゃってるかも
しれないよ。

おばあちゃん!

ねえ 圭 もう一日
ここで のんびりしていこうよ。

帰ったら もう どんな修羅場が
待ってるかしれないんだから

うんざりだよ。

そんな のんきな事
言ってる場合じゃないじゃないか。

ひどいよ おばあちゃんは…。
たのくらが 一番 大変な時に

知らん顔して
逃げ出してきたんだから。

仁おじさんだって 誰より
一番 おばあちゃんの事を

頼りにしてるのにさ。
たのくらは もう 仁の代だ。

潰そうが どうしようが
仁の勝手だよ。

おばあちゃんが出る幕じゃないよ。

結局 おばあちゃん ゴタゴタに
巻き込まれるのが嫌だから

旅に出たんだ。
卑怯だよ そんなの!

まあ そう思われても
しかたがないだろうね。

仁が たのくらを どう
始末つけるかは 知らないけど

おばあちゃんは
おばあちゃんなりに

気持ちの けじめを
つけたかったんだよ。

たとえ どんな事になったって

笑って 諦められる覚悟だけは
持っていたかった。

おばあちゃんだって
6つの時から苦労して

いつか 自分の店を持とうという
夢を持って

この年まで 頑張ってきたんだ。

やっと 念願がかなったというのに
また 潰れたりしたら

泣くにも 泣けないじゃないか。
おばあちゃん…。

ただね つまずくには
つまずくだけの理由があるんだ。

それを
じっくり 考えてみたかった。

それさえ 分かったら

どんな逆境だって
甘んじて受け入れられるし

また一から出直す事だってできる。

もう 随分 長い事
お金の心配もしないで

ぜいたくをさせてもらった。

貧乏時代の事なんか
忘れちゃったよ。

でも よかった。 旅 行って。

すっかり忘れてた事
昨日の事のように思い出した。

あのころの事 考えたら
丸裸になったって

怖いもんなんかない。
根性さえ あったら

いくらだって
また のし上がってみせるさ!

圭 やっぱり 今日 帰ろうよ。
嫌だって言ったって

帰らないって訳にいかないんだし
1日延ばしにしてたって

嫌な思いは 同じだからね。
あ~あ 怒られるんだろうな!

いざとなると 敷居が高いね。

だから
「早く 帰れ 帰れ」って言うのに

いつまでも くっついてくるから。
覚悟してますよ!

後悔だってしてません。

僕は 僕なりに
すごく よかったなと思ってんだ。

いろんなとこ 行けたし
それにさ うまいもんだって

たくさん 食べられたし
よかったよ。

それだけかい?

やっぱり 早く追い返すんだった。

ねえ おばあちゃん 田倉の家が
無くなってたら うち おいでよね。

おばあちゃんの事なんかよりも

あんた さっさと
お父さんのとこ 帰りなさい!

仁や道子に会ったら また
何 言われるか分かんないよ。

平気さ。 僕は おばあちゃんの
ボディーガードなんだから

最後まで つきあうよ!

おばあちゃん まだ ちゃんと
田倉の表札が掛かってるよ!

ホントだ。
まだ ふんばってるようだね。

ただいま。

(道子)お母さん…。

勝手して悪かったね。
みんな 変わりないかい?

圭…。

あっ 話は 後で ゆっくり…。

あ~ やれやれ
やっと 帰ってきました。

何にも変わってないじゃない。
おばあちゃんの話 聞いてると

たのくら
今にも 潰れそうだったのに…。

心配して 損しちゃった。

でも 道子おばさん
相当 おっかない顔してたね。

かなり怒ってるよ あれ。

そうだね。 あの顔じゃ
お茶も くれそうにないね。

(仁)おふくろが帰ってきたって
本当か!?

辰則が 出先へ連絡くれたよ!

今頃 よくまあ のこのこと
帰ってこられたもんだわね

お母さんも。
道子…。

こんな時に 一人 のんきな顔して。

私は 絶対に許しませんからね!

うちが どうなってるか
おふくろ 何にも知らないんだ。

しかたがないじゃないか。
まあ 元気で

帰ってきたんだ。 それだけでも
よかったと思わなきゃ。

冗談じゃありませんよ。 私は もう
お母さんとも嫁とも思いません!

だって そうでしょ? あなた。
私たちに ひと言も言わずに

このうち出てって ひとつき以上も
何の連絡もしてこないなんて!

こんな 人をバカにした話って
ありますか!

お母さんが
私たちを無視なさるんだったら

私たちだって お母さんの事
無視したって構いませんでしょ?

あなたから よ~く お母さんに
おっしゃっといて下さいね!

≪(禎)上がらせてもらうわよ!

お兄ちゃん!
圭と一緒に帰ってきたそうだ。

おふくろとは
よく話し合ってみるよ。

たのくらが こんな事になったのも
おふくろ 何も悪い事ないんだよ。

まあ お前の気持ちも分かるが
機嫌 直して。

ホントに 人の気も知らないで!
圭ちゃんも 圭ちゃんよ!

母さんに ついて歩いてたんなら
途中で 様子ぐらい

知らせてきたっていいでしょ!
私が止めたんだよ。

「いちいち 報告しなくったって

便りのないのは
元気な証拠だ」って。

(禎)そりゃね 道子さんにだって
気に入らない事は

あるでしょうよ。 道子さん
なかなか難しい人だから。

でも 私たちにまで黙って…。
道子とは関係ないよ。

だったら 何が不足で?
禎 もういいよ。

何がいいの? 一番
心配してたのも 怒ってたのも


お兄ちゃんじゃないの!

母さんが 留守の間
お兄ちゃん一人 苦労して…。

道子さん 機嫌が悪いし
かわいそうよ お兄ちゃん。

禎。 圭も ちょっと
席 外してくんないか。

母さんと 二人っきりで
話したい事があるんだ。

圭 あんた もう お帰り。

ちゃんと おばあちゃん
送り届けたんだから

あんたの役目は
もう終わったんだよ。

うん。 じゃあ また来るから。

いいよ! 早く 東京 帰って
学校 行かなきゃ。

おじさん いろいろ
申し訳ありませんでした。

いやいやいや…。 君が
ついててくれるっていうんで

安心したんだよ。 ありがとう。

父さんに よろしく言っとくれ。
「おばあちゃん 元気だから」って。

うん。

(障子が閉まる音)

随分 待ちましたよ。

母さん…。

このとおりです。
並木さんに 頼みに行って下さい。

母さんなら 並木さんだって
折れてくれるかもしれません。

いや 思い余って 直接 私が
お願いにあがったんですがね

駄目でした。

あとは
母さんだけが頼りなんです。

昔のよしみで なんとか…。

じゃあ 並木さんは

まだ 土地を譲っては
おいでにならないんだね?

直接 確かめた訳じゃありませんが
調べさせたところでは

並木の調印は
遅れてるらしいんです。

今なら まだ 間に合います。
なんとか 母さんの力で…。

道子だって 今度の事
いろいろ 参ってるんですよ。

あかねの問題があったりして…。

あかねちゃんが
どうかしたのかい?

あのバカが
ろくでもない男に惚れて!

いや 道子も つきあいを
許してたらしいんですよ。

まあ それが たのくらが
危ないって噂が流れると

急に冷たくなったとかで…。

まあ 結局 たのくらの
財産目当ての男だったんですよ。

まあ それが分かって
かえって よかったんですがね。

あかねも道子も
ショックだったんでしょう。

おかげで 家の中
メチャクチャになってしまいましたよ。

もし 大手スーパーに出てこられると

噂のとおり たのくらの命取りにも
なりかねません。

なんとか
母さんと並木さんのつきあいで

食い止めてもらえるように…。

疲れてるだろうけど
今から 車で送るから。

(希望)お~! ハハハハハ!

ただいま!
おばあちゃんも 元気だってね。

辰則さんから 電話もらったよ。
うん。

(初子)帰ってきたの? 圭ちゃん。
初子おばさん!

私も 辰則さんから
電話もらったんだけどね

田倉は 道子さんが苦手だから
とにかく 圭ちゃんから

事情 聞いて
それからにしようと思って…。

心配かけて 悪かった。
心配は してないけど…

圭ちゃんがついてながら 母さんの
行き先も言ってこないなんて

一体 父親として
どういう教育してるんだって

父さん 仁おじちゃんから
うんと 嫌み言われたんだから!

私は 何を言われようと平気だが
母さんは 風当たりが強いだろ。

何にもなけりゃ
笑って済まされる事も

いろいろ 難しい問題
抱えているからね。

母さんは 「知らぬが仏」だから
のんきに 旅行なんかしてるけど。

これはね 仁おじさんたちには
話せない事だろうけど

おばあちゃん 何もかも承知で…。
知ってたから 旅に出たんだよ。

(初子)そんなバカな! じゃあ
母さん たのくらが大変な事

分かってて!?
うん。 潰れるのも覚悟してた。

あきれた! 母さん
一体 何 考えてんだろ…。

ハハハハ! 母さんらしいじゃないか!

冗談じゃないわよ!

たのくらは ひっくり返るような
騒ぎだったっていうのに!

でもね 最初
仁ちゃんが慌てた割には

話は 進んでないみたいね。
なぜだか 土壇場になって

並木さんが 調印に渋ってるって
言うんだけど…。

♬~

その日 おしんは
再び 浩太の家を訪れた。

留守の間に
何もかも終わっていたと

覚悟して帰ってきたのに

まだ 土地を売り渡していない
という 並木の思惑が

おしんには 測りかね
戸惑っていた。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

(道子)お母さんが 並木へ
頭を下げにいらしたからって

並木が 土地を譲るのを
やめるとでも言うんですか?

(仁)いや そりゃ
どうなるかは 分からんよ。

しかし おふくろの努力も
買ってやらなきゃ。

長旅で疲れてるのに
嫌な役目 引き受けて

並木に会いに行ってくれたんだよ。
そんな事 副社長として

当然でしょ? でも
お母さんが いらしたからって

並木が 態度を変えるとは
思えませんね。

たのくらは もう駄目なんです!

どんなに あがいたって
なるようにしか なりませんよ。

(辰則)お姉さん! そう
取り越し苦労なさったって…。

今のところ オープンしてから
売り上げは 順調に伸びてます。

もし 大手のスーパーが出てきても

営業するのは
1年先になるでしょう。

その間に たのくらの信用さえ
つけておけば

そう 食われる事はありませんよ。

辰則さん あなた いっつも
そんな気休め おっしゃるけど

大手のスーパーを相手にして
たのくら風情が

どんなに背伸びしたって
勝負は 目に見えてますよ!

現に 世間じゃ もう とっくに

たのくらに 見切りを
つけてるじゃありませんか!

出入りの業者だって 銀行だって
冷たくなってるし…。

それは お前の気のせいだよ!
何も変わっちゃいないよ。

それじゃ どうして
あかねの恋人だった人は

あかねとの結婚の約束を
破ったんですか?

たのくらに 将来性がないって
分かったからでしょ?

それでも たのくらは安泰だって
言い張るんですか?

いい加減にしないか!

辰則だって 私だって
精いっぱいの事は してるんだ!

お前は
愚痴か文句 言うばっかりで

たのくらのために 一体
何をしてきたって言うんだ!

もう たくさんだ! 顔さえ見りゃ
朝から晩まで クドクド!

ええ。 お母さんは ご立派ですよ。
たのくらが どうなろうと

あかねが
どんなに苦しんでいようと

知らん顔して 圭ちゃん 連れて
大名旅行なさって…。

あ~ もう 嫌! 逃げ出したいわ!

こんな不安な気持ち 抱えて
毎日 毎日!

あかねの事さえなければ

こんなうち
すぐにだって出ていくのに…。

(禎)お姉さん。 母さんは
何にも知らないで 旅に出たのよ。

だから
帰ってきて びっくりして

並木の所へ
飛んでったんじゃないの。

母さんは 母さんなりに
努力してるんだから。

あの お母さんの事です。 きっと
うまく収めて下さいますよ。

私たちとは違ったキャリアも
おありになるし

何と言っても 年の功です。

何でも
「お母さん お母さん」って!

大の男が 2人で雁首そろえてて

結局は お母さんを頼らなきゃ
何にも できないんですか!?

情けない! そんなんだから
いつまで たったって

お母さんが 大きな顔
なさるんですよ!
何だと!?

社長! お姉さんは 心労で
疲れておられるんですから。

だからって 言っていい事と
悪い事がある! そんなに

偉そうな事 おっしゃるんだったら
ご自分で 並木へ行ってらしたら

いいじゃありませんか!
お前に そんな指図は受けん!

でもね 今度ばっかりは
お母さんに

どんな力が おありになったって
通用しませんよ!

何てったって 並木は
たのくらを憎んでるんです。

意地だって 譲りゃしませんよ!

もし お母さんが
うまく収めていらしたら

私は 町じゅう
逆立ちして歩いてみせますよ!

あ~ いいだろ!
その言葉 忘れるな!

お前には 必ず 町じゅう
逆立ちして歩いてもらう!

必ず 歩かせてやるからな!
お兄ちゃん…。

(道子の泣き声)
(禎)お姉さん!

(浩太)どこに行ってらした?
ひとつきも。

待ちくたびれましたよ。

(おしん)方々へ…。 いい旅でした。

困った お人だ。
至急 相談したい事があったのに。

まあ お帰りになったら
寄って下さるとは

思ってましたが…。
何か?

実は 今度 売却する予定に
なってる土地の中に

私名義のものも ありましてね。

まあ 伜に言われて
気が付いたんだが…。

そうなると
判を押すのが ためらわれて…。

私が 「うん」と言わなければ
たのくらは助かる。

おしんさんにも つらい思いを
させなくて済む。 そう思うと…。

そうですか。 それで いまだに
あの土地が そのままに…。

まあ おしんさんの考えは
前に 一度 伺って

分かったつもりなんだが…。

今 たのくらを
苦境に追い込むには 忍びない。

おしんさんが
せっかく ここまでにした店だ。

それに おしんさんの苦労を
見てきてるだけに

私には できない。

浩太さん…。

おしんさんと私の
長い つきあいを考えても

してはいけない事でもある。

たのくらの事を
そんなに心配して下さって…。

いや たのくらのためじゃない。
おしんさんの事だけを考えて…。

では お心遣いは
無用でございます。

私の気持ちは
何にも変わっておりません。

とっくに 店の事は 覚悟してます。
ですから 旅にも出かけたんです。

どうぞ 私には遠慮なく 土地を
お売りになって下さいまし。

いや おしんさん…。

実は 今日 お伺いしましたのは

お察しのように
仁から 「並木さんに

なんとか お願いしてくれ」と
泣きつかれまして…。

そりゃ そうでしょ。
仁さんも 必死でしょ。

でも 私は そんな事は 毛頭…。

おしんさん…。 私は
そうしてもいいと思ってます。

だから おしんさんが
お帰りになるのを待ってました。

もう一度 おしんさんと相談して

おしんさんの本心を
お伺いしたい。

では 改めて
ご辞退させて頂きます。

おしんさん…。

私 山形や酒田を歩いてきました。

東京へも 佐賀へも
行ってきました。

もう すっかり忘れた昔の事を
いろいろ 思い出しました。

随分 つらい事ばっかりですけど
今 思うと みんな懐かしくて…。

でも 旅をしたおかげで

もう どんな どん底が来ても
怖くは なくなりました。

あんな惨めさにも
耐えてきたんです。

今だって
耐えられないはずは ありません。

それに どん底から はい上がれる
自信も持てました。

浩太さん… 私は もう大丈夫です。

おしんさん…。

たのくらは
身分不相応に伸び過ぎました。

この辺で 仁や孫たちに

これまでの生き方を考え直す
機会を与えるのも

母親としての
私の最後の務めだと思ってます。

もし それでも
たのくらが潰れるようなら

仁には それだけの力しか
なかったんです。

相変わらず 厳しいお人だ
おしんさんは…。

居直る気持ちになれたら
ホントに さっぱりしました。

♬~

(圭)僕は
おばあちゃん 見直したよ。

僕が物心付いた時は
もう 60過ぎてて

店の方も
うまくいってたらしかったから

いいご身分の女主人って
感じだった。

それがさ 小さい頃から
あんな苦労した事あったなんて

ホント びっくりしたよ。

(初子)私は 9つの時に
田倉に 奉公に来たから

それからの事は
よく知ってるけど

それ以前の事は 何にも
聞かされてなかったからね。

ただ 私が奉公に来た時に

母さんが 「まるで 幼い頃の自分を
見るようだ」って

そりゃ 大切にしてくれたの。
その母さんの言葉を聞いて

母さんにも つらい奉公の時代が
あったんだなと思ったけど

それ以上は 何にも
しゃべってくれなかったからね。

とにかく 明治って
ひどい時代だったんだ。

そんな暮らしが たかだか
80年にもならない前に

この日本にあったなんて…。
それを知っただけでも

ホント すごいショックだ。 今でも
信じられないくらいなんだよ。

(希望)そりゃ
圭には いい旅だったな。

でもね 並木さんが
母さんの初恋の人だったとは

知らなかったわね。

僕から聞いたなんていうのは
おばあちゃんに ないしょだよ。

(初子)分かってる。
うん。

でも 安心したわ。
そういう おつきあいだったら

母さんを困らせるような事
なさらないわよ 並木さんも。

そうだといいがね…。

大丈夫だよ。 浩太さん 今だって
おばあちゃんの事 愛してるんだ。

いや 一生のうちで
ホントに愛したのは

おばあちゃんだけだったんじゃ
ないかな。

そういう 男と女の愛も
あるのね…。

じゃあ 私 帰るわ。

圭ちゃん 早く 東京へ帰って
学校に行きなさいよ。

はい…。

風呂 入って 少し休んだらいい。

父さんに迷惑かけて
ホントに すまなかった。

いや…。

父さん。
うん?

僕ね いつか 加賀屋の暖簾を
再興してみせるよ。

そう決めたんだ。

僕は 加賀屋の大奥様や
それに お加代様の事が

大好きになっちまった。
僕の この体の中には

その人たちの血が流れてるんだ。
すごいじゃないか 父さん。

父さんの やれなかった事を
俺 やってみるよ。

やってみせる。 できるさ。

圭…。

母さん!
母さん!

お疲れさまでした!
どうだった?

やっぱり まだ
調印は してなかったでしょ?

間に合ったんですね?
(禎)並木は 何て言ったの?

一応 頼む事は 頼んできたよ。

だから 返事は?
そんな事 すぐには…。

そのうち 何か お話があるだろ。
母さん!

私の役目は
ちゃんと済ませたんだから

ちょっと 休ませてもらうよ。

(仁)禎! 母さん やるだけの事
やってくれたんだよ。

もういいよ 十分だよ。

きっと うまくいくさ。
大丈夫だよ。

明日には 何もかも
分かってしまうだろうと

おしんは 思っていた。

そのあとの たのくらや
自分の立場が どうなるか

おしんは 十分 承知していた。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

(仁)おふくろは?
声 かけたのか?

(道子)召し上がりたかったら
いらっしゃるでしょ。

そんな言い方あるか。
呼んでくるんだよ。

お母さん ご自分で
勝手な事なさってるんですから

なにも 私たちが心配する事は
ないじゃありませんか。

そりゃ 勝手に
家を空けたかもしれんよ。

しかし 帰ってきたら
すぐ 並木へも行って

する事は
ちゃんと してくれてるんだ。

いつまで つまらん事を
根に持って 膨れてるんだよ。

お母さんが
並木へ行って下さったからって

まだ どうなるもんでも
ないんでしょ。

どんな話をしていらしたんだか…。

文ちゃん 文ちゃん!
文ちゃん 使いに出しましたよ。

あなた!
はっきり言っときます。

私は お母さんの女中じゃ
ありません。 お母さんに

こき使われる理由なんか
何にもないんですからね。

私が 今まで
お母さんに仕えてきたのは

お母さんが たのくらにとって
大事な方だと思っていたからです。

でも お母さんが
たのくらの事など 知らん顔で

好きな事なさるんだったら
これからだって

どんどん そうなされば
いいじゃありませんか。

おふくろはな…。
あなたに 私の悔しさなんか

分かりゃしませんよ。

行き先も理由も言わずに
黙って うち出てって

あんなに心配させられたあげくに
みんなには まるで

私が いびり出したかみたいな事
言われて…。

しかも 留守の間に
たのくらの命取りに

なりかねないような事が
起こったっていうのに…。

あなたも私も
こんなに 神経 すり減らして…。

圭ちゃんと2人で
ケロッとした顔して帰っていらして

無事で よかったなんて
喜べますか!

嫁の私の事なんか 全然 眼中に
おありにならないんだから!

はあ…。 私が 今まで
できない苦労もして

お母さんに仕えてきたのは
一体 何のためだったんですか?

バカバカしい!
(辰則)失礼します!

あっ 申し訳ありません。 急いで
お知らせしなきゃならない事が

あったもんですから
勝手に上がらせて頂きました。

昨日 並木が とうとう
土地譲渡の契約に応じたそうです。

いよいよ
対決って事になりました。

(道子)そ~れ ご覧なさい。
お母さんなんて もう

何の力も おありにならないじゃ
ありませんか!

あなたも
これで 目が覚めたでしょ!

母さん!

母さん 一体 昨日 並木に
どんな話をしに行ったんですか?

何のために わざわざ
並木に会いに行ったんですか?

母さん
並木は 母さんを裏切って…。

(おしん)並木さんが

ご自分の土地をどうなさろうと
勝手だよ。

母さんには 何の義理も
おありにならないんだから。

母さんと並木は 特別な
つきあいじゃなかったんですか?

商売の事は 別だよ。
母さん!

母さんには どうにもならないね。

じゃあ たのくら どうなっても
いいって言うんですか?

しょうがないじゃないか…。

そんな無責任な! 並木さえ
土地を売らなかったら

大手スーパーと競争するような事態に
ならずに 済んだんですよ!

だから 何としても 母さんには
説得してもらいたかった!

母さんの腕で
たのくらを守ってこそ

道子だって 子どもたちだって

母さんを大事にしようって
気持ちになるんですよ!

それくらいの事してくれたって!

母さん…
母さんには 今度の事が

たのくらにとって どんな重大事か
分かってるんですか?

17号店の用地の買収と建築費には
今までの16店のほとんどと

この家まで 担保に入れて
ばく大な金を借りてるんですよ。

毎月の利息だけでも
16店の利潤を

相当 つぎ込まなきゃ
ならないんですよ。

また 17号店の売り上げが

当初の予想より はるかに
下回るような事になったら

もうけるどころか たちまち
借金の返済にも困る事態に…。

だから 17店をやめろって
言ったじゃないか!

なにも こんな不景気に無理して

あんなバカでかい物
建てる事ないだろ!

おまけに 並木さんには
恩を仇で返すようなまねしといて。

不景気だからこそ 無理してでも
やらなきゃならなかったんですよ。

今までの店は みんな 小さくて
売り上げだって 頭打ちですよ。

今 新しい所を開拓して
飛躍を図らなきゃ

たのくらは これ以上
伸びようがないんですよ。

(辰則)そうです! 社長の目に
狂いは なかったんです!

できるだけ大きな店にする事も
これからは 客のニーズが

多種多様になってくるのに
対応できるためなんです。

順調にいけば 17号店だけで

今までの16店全部の売り上げにも
匹敵する商いができる

売り場面積と商品の種類を
確保しました。

現に オープン以来

私たちの目標どおりの売り上げを
達成してるんです。

私たちの計画に 誤りはなかったと
自負してます。

このままでいったら 17号店は
たのくらの救世主に

なってくれるはずだったんです!

それで 社長の長年の夢も
果たせたんです…。

大手スーパーの進出さえなければ…。
よせ!

今になって 何を言っても
無駄だよ。

俺たちは 賭けに負けたんだ。
ツキに見放されたんだよ。

何 情けない事 言ってんのよ!
大の男が 2人も寄って!

そんなに自信を持って
始めた店だったら

大手のスーパーが
出ようが何しようが

とことん やるべきじゃないか!
クヨクヨするんじゃないよ!

母さんは
何にも分かっちゃいないんだよ。

俺たちが どんなに努力したって

大手には
かないっこないんだからね。

だったら
裸になりゃいいじゃないか。

母さんなんてね
いくつも 店を潰してきたよ。

それでも
なんとか はい上がって

また その度に強くもなったし
肝っ玉だって据わった。

お前たち まだ 50過ぎだろ。
母さんはね

50から やり直したんだよ!
オタオタするんじゃないよ!

みっともない!
昔とは違うんだよ!

一旦 つまずいたら なかなか
やり直しなんてできやしないんだ。

家庭だって
崩壊しかねないんだからね。

あ~ どん底が辛抱できないような
女房や子どもたちだったら

別れちまえばいいじゃないか!
別れる前に 向こうで

逃げ出すだろうけどね。
母さん!

丸裸になってみるっていうのも
いいもんだよ。

一度 貧乏を味わってごらんよ。
今まで 気が付かなかった

人の情けが ホントに ありがたいと
思えるようになるし

今まで 何でもなく してた事が
幸せだと思えるようになる。

結構な事じゃないか!
話にならんよ これじゃ…。

母さんも 年 取っちまったな。

母さんが
そんな気持ちでいるんなら

道子だって 腹 立てるのも
無理ないよ。

兄さん…。 こうなったら
後へ引く訳にいかないんです。

やるとこまで やるよりほかに…。
母さん しばらく

初ちゃんか禎の所へ
行ったら どうですか?

希望だって 行けば
喜んで 置いてくれるでしょ。

(辰則)兄さん!
道子と うまくいかないんじゃ

うちにいたって
母さん つらいだけだろ。

私は 平気だよ。

(仁)俺が たまんないんだよ
間へ入って!

道子だって 母さんに
黙って 旅なんかへ行かれたら

面白くもないだろ? 随分
嫌な思いさせられたんだからね。

その上 店の心配から
あかねの苦労まで しょって…。

母さんに いい顔しろったって
できる訳ないだろ。

俺だって かばいきれやしないよ。
それなら いっそのこと…。

私のうちは ここだからね。
誰の世話にも なりたくないよ。

あんたたち
朝御飯 もう済んだんだろ?

じゃあ 私も頂いてきましょう。

あかね…。

気分 どう?

少しは いいの?

会社にはね 退職届 出しといたよ。

出られるようになったって

あの人と 顔 合わせるんじゃ
嫌だろ?

だけど あんた 少しは
表へも遊びに行って

食べる物も 食べなきゃ…。

(あかね)お店 やっぱり駄目なの?

お父さんにも 愛想が尽きた。

あの年して まだ
おばあちゃん 当てにして…。

おばあちゃんだって もう 昔の
おばあちゃんじゃないのに

その事 分からないんだから。
もう 嫌になっちゃった!

あかね… たのくらが潰れたら

お母さんと あかねと みどりと
3人で暮らそう。

お母さん お父さんとは別れる。

(初子)母さん。
はい いらっしゃい。

何 やってるの?

アイロンなんて 文ちゃんに
やってもらえばいいのに…。

自分の事ぐらい 自分でやるよ。
ちょっと どいて。

いいのに…。
よかないわよ。

ねえ 母さん。 うん?
うちへ いらっしゃい。

迎えに来たの。
大丈夫だよ。

このうちもね
抵当に入ってるようだけど

追い立ても食わないで
もってるようだから。

そりゃ そうでしょうけど
いつ どんな事になるか…。

大手のスーパーの建設も
急ピッチで進んでるらしいし…。

完成すれば たのくらは 相当な
影響 受ける事になるんでしょ?

今日 仁ちゃんが うちへ来てね

「たのくらの寿命も
それまでだ」なんて…。

もちろん 冗談半分だろうけど

そうなったら
母さんを預かってほしいって…

仁ちゃん
わざわざ 頼みに来たの。

道子さん
母さんと 口もきかないし

何にもしてくれないそうじゃ
ないの。

あれじゃ 母さんが
かわいそうだって 仁ちゃん…。

商売が うまくいかなくなると
みんな ギスギスしてくるんだよ。

役にも立たない年寄りの
面倒なんか

見る気にもならないんだろ。
母さん 何とも思ってないよ。

そんな仕打ちされて なにも
こんな所にいる事ないでしょ!

私だって そんな事 聞いたら
黙っていられませんよ!

私は 何一つ 不自由してないよ。
御飯も 自分で作るし

掃除や洗濯だって
自分の事ぐらい…。

そんな寂しい思いしなくたって…。

ここにはね 父さんも雄も
みんな いるんだから

寂しい事なんて ないよ。

母さん…。

母さんはね
誰のお荷物にもなりたくないの。

道子さんに冷たくされて
かえって 気が楽になったよ。

私は ここにいて 仁のそばで
たのくらを見届けるのが

田倉の人間としての務めだと
思ってんだよ。

初子は
初子の店を しっかりおやり。

それでいいんだから。

♬~

大手のスーパーが 同じ町の駅前に
盛大に オープンしたのは

その年の暮れであった。

たのくらなど 足元にも及ばぬ
P.R.の中で

おしんは 仁たちが なんとか
乗り切ってくれる事を願っていた。

(仁)母さん…。

今 見てきたよ。
行ってこられたんですか?

うちは 閑古鳥が鳴いてたよ。

向こうの
オープンセールの間だけだろうって

今も話してたんですが…。
気休めだよ そんなのは!

やっぱり 向こうは 何もかも
1枚も2枚も うわてですよ。

手も足も出ません。
(剛)父さん…。

もしやって気持ちもありましたが
諦めました。

今の たのくらには とても
太刀打ちできる力は ありません。

母さん… 許して下さい。
私の見通しの甘さで

母さんが ここまでにした
たのくらを潰す事になりました。

申し訳ありません。

♬~