キャッシュレス化が小学生の金銭感覚を狂わせるのか。少年の万引きによる摘発・補導件数に占める小学生の割合は3割を超え、長年ワーストだった中学生を2017年に逆転した。専門家はキャッシュレス化を要因の一つとして指摘する。現金を使う場面が減り、正しい金銭感覚を身につけにくくなっている可能性があるという。
万引き防止の啓発動画が掲載された警視庁のホームページ
東京都江戸川区の小学校近くにあるコンビニエンスストア。昨秋、小学校中学年の男児がレジの様子をうかがいつつ店を出た。不審に感じた40代の男性店長が追いかけて声をかけると、男児のかばんからは支払いを済ませていない人気カードゲームが見つかった。
店長は「小学生による万引き被害は半年の間に数回はある」。菓子類のほか、おもちゃの被害が多い。陳列棚に包装だけのダミーを置いたり、入退店時のあいさつを心がけたりといった自衛策を講じている。
警視庁によると、2018年に都内で万引きで摘発・補導された20歳未満の少年は1571人で、10年(4857人)と比べると7割減になった。中学生の減少が大きな要因で、摘発・補導された少年全体に占める中学生の割合は11年の41%から18年に23%に減った。
一方、小学生の摘発・補導は年間500人前後で推移し、中学生とは逆に微増傾向にある。全体に占める小学生の割合は17年に35%に達し、中学生(22%)を大幅に上回った。小学生の万引きの被害品(17年)は菓子などの食品が50%で最も多く、玩具(28%)、雑貨(8%)と続く。
小学生の万引きは店が警察に届け出ないケースがあり、実際の件数はさらに膨らむとみられる。警視庁幹部は「啓発活動も小学生には響いていなかったか」と焦りを見せる。
バンダイの19年の調査によると、小遣いを定期的にもらっている児童の割合は34.5%で16年の調査と同水準。もらっている児童の平均額は1カ月1662円で16年と比べて13%増えた。小遣い不足で万引きに走っているわけではないようだ。
子供の金融教育に携わるファイナンシャルプランナーの豊田真弓氏は背景の一つとして「キャッシュレスの普及」を挙げる。「日々の暮らしの中で子供が現金を見る機会が減っており、リアルな金銭感覚を養いにくくなっている可能性がある」と指摘している。
豊田氏によると、金銭感覚はお年玉や小遣いで手元の現金が増えたり、自分の買い物で減ったりするのを確認することで養われる。電子マネーを使う場合には、数字の増減を確かめることで同じような効果がある。豊田氏は「小遣い帳を使うなどして、お金の大切さを学んでほしい」と話す。
小学校やPTAから依頼を受けて親子向けマネー講座を開催する「キッズ・マネー・ステーション」(東京・杉並)の八木陽子代表は講座に参加した親の体験談に驚いた。親は子どもから「お店だとお金がかかる。ネットでクレジットカードで買えばタダですむよ」と言われたという。
八木代表は「電子マネーは必ず現金でチャージし、残高を気にする癖をつけさせることが重要」と力を込める。警視庁は19年、子ども向け映画の上映前に啓発動画を流すなど、小学生向けの対策を強化している。