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【埼玉】

<ひと物語>少年らの更生見守る 保護司・小笠原孝子さん

「更生には、居心地の良い居場所と仕事が大切」と話す小笠原さん=いずれもさいたま市で

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 世話好きで、困っている人は助けずにいられない-。さいたま市南区の小笠原孝子さん(76)は、犯罪や非行に走って保護観察処分になったり、少年院や刑務所から仮釈放になったりした人らの立ち直りを支える保護司を二十年間務め、百人以上と向き合ってきた。

 保護司になったのは二〇〇〇年。地域の知り合いから「なってみない」と勧められた。当時は、少年たちと面談するのは保護司の自宅がほとんど。活動内容もよく知らなかった。「非行や犯罪をした人を家に入れ、暴れられたり、逆恨みされて殴りこまれたりしたら」などと家族からは心配された。それでも、「子育ても終わったし、人の相談に乗るのも好き」と、軽い気持ちで引き受けた。

 失敗も経験した。保護司になりたての時に担当した女子高校生もその一人。両親が離婚し、父親と新しい母親との間に疎外感を感じて心が荒(すさ)み、友人を殴ってしまった子だ。なかなか家に来たがらず、電話での対応を繰り返していたが、そのうちに連絡が途切れた。

 「あの時もっと家に来るよう誘っていたら」。その後、不良グループと接しているとの話を聞くたび、悔しさがあふれる。以来、なるべく家に来てもらえるように心掛けている。

 「よく来たね」と少年たちを褒め、「おなかすいてない?」とお茶とおにぎりを出す。話題も趣味など話しやすい内容に。「ここに来るまでに、堅苦しい法律用語が多かったはず。気さくなおばさんと思ってもらい、距離を縮めたい。『一緒に更生しよう』などと言っても、煙たがられるだけ」

 痛感したのは、親との関係がうまくいかなかったり、相談できる人がいなかったりして非行に走る子が多いこと。だからこそ、相手が話すこと全てに耳を傾け、あいさつをすれば「いいことしたね」と励まし、時間が許す限り向き合う。

 担当した少年たちが更生し、やりがいのある仕事を見つけたり、家庭を持った後に家族であいさつに来てくれたりする時に大きな喜びと安心を感じる。

 現在は、全国に更生保護サポートセンターが設置され、そこで少年たちと面談できる。以前は「保護司の家に来る子を見ると、悪さをしたのかなと想像された」ため、施設面の充実を感じる一方、「核家族化や地域のつながりもなくなり、悩みごとを相談する場所が減っている」とも。

 「居心地のいい居場所と仕事があれば、非行には走らないことを社会がもっと理解してほしい」と願い、少年たちの見守りを続けていく。 (森雅貴)

<おがさわら・たかこ> 大宮市(現さいたま市)生まれ。県内の高校を卒業後、東京の証券会社に入社し、結婚後に退職。3人の子どもを育て上げ、2000年に保護司に。これまでに100人以上と向き合ってきた功績がたたえられ、19年には藍綬褒章を受章した。保護司の傍ら、趣味の花作りや合唱にも打ち込んでいる。

小笠原さんが使う保護司手帳。少年らとの面会スケジュールですぐにいっぱいになる

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