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ちょっと女神様! このNPC、ラスボスなんですけど! 作者:ぽち
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七話 ソードマスター ワンフォーオーガ

 勝利を確信した状況だったからだろう。

 突然の乱入者――つまりは僕――を前に、オーガ達は混乱の真っただ中にいるようだった。


 僕はその隙を見逃さない。

 我ながら驚くべき速度で一番近くにいた個体の懐へと潜り込むと、手にしていた剣を振り下ろす。


 血煙が舞う。

 次いで、野太い悲鳴。

 僕の剣はオーガの纏う鎧の間を突き、喉元を切り裂くと、一撃にして相手の命を奪っていた。


「――!」


 恐らくは、群れのリーダー格なのだろう。

 一番大きな個体が、統制を取り戻そうと怒号を上げる。


 ――でも、もう遅い。


 他が応えるより(はや)く、僕の切っ先は次の獲物へと。


 殆ど自然体の行動。

 多分、呪文の詠唱と同様、身体(・・)に染み着いているからだ。

 おかげで思考するより先に身体が動き、的確に急所を貫いていく。


 宵闇の中、時間と共に動く影の姿は消えていき――。


 最後には、群れの長一匹だけが残されていた。





 対峙しつつ観察する。

 最後のオーガは、前述のとおり他の個体と比べてもかなり巨大で、僕の背丈の二倍――いや、三倍はゆうにあるほどだった。


 左手には、その巨体を半分ほど覆い隠す大盾が。

 一方、逆手には、未だ血痕の残る棍棒(クラブ)が握られていた。


 長としての特権だろうか。

 他のオーガは片手に武器だけしか装備していなかったけど、やつだけは身を守ることにも重きを置いているらしい。


 だとしてもやることは変わらない。

 僕は一瞬にして詰め寄ると、剣を振るった。


 柔らかな灯火が、鋭く弧を描く。


 ――先ほどまでと同格の相手なら、これであっさりとケリがついたのだろう。


 だけど、周囲に響き渡ったのは、ガキンという、金属同士がぶつかりあう音だった。


 大盾を切りつけた結果、手に残るのはじわりとした痺れ。

 それを払う余裕もなく、殺気を感じてすぐ左へと逃げる。

 ほんの少し前まで僕がいた場所には、棍棒が振り下ろされていた。


 追撃を警戒し、身構える。

 上手くやればカウンターを狙えるかもしれないと考えながら。


「……?」


 でも、僕の予想に反し、オーガは動かない。

 それどころか、大盾に身を隠し、軽く後ずさるほどだ。


 ……一見は消極的なこの動き。

 実のところ、僕にとってはもっとも厄介なものだった。


 イナンナは魔導剣士(ルーンナイト)というクラスもあって、筋力自体はさほどでもないキャラクターだ。


 つまり、ガチガチに守りを固められてしまえば、剣では大したダメージは与えられないわけで。

 奇襲をかけたのも、元はといえば、不意を突いて急所を狙いやすくするためだった。


 野性的な直感だろうか。

 それをあっさりと見破るのだから、戦い慣れている。


「……ハァッ!」


 長期戦は得策じゃない。

 鬼人と少女――それも、寝たきりから目覚めたばかり――、どちらがスタミナで勝っているのは明らかなのだから。


 それに、他の魔物が血の匂いを嗅ぎつけて乱入してくる可能性もある。


 どちらもゲーム的にはなかった要素だけど、今、僕の目の前に広がっている『ルフェリア』は現実なのだから、何が起きてもおかしくない。


 若干の焦りを込め、幾度となく剣を振るう僕。

 でも、大盾を前に攻めあぐねてしまう。


 押されては引き、引いたところを押してくる。

 肉体的なスペックでは僕の方が上なのだろうけど、身のこなしに関しては一日の長が向こうにあった。


 僕を睨み付け、獰猛な笑みを浮かべるオーガ。

 その瞳はどす黒く濁っていて、ただならぬ憎しみを感じさせた。


「……体力的にも残りの魔力的にも、あんまり使いたくはなかったんだけど」


 ……このままじゃ、埒が明かないのも確かだ。


 僕はぼそりと呟くと、バックステップで距離を取る。

 大よそ、十メートルほど。


 下手に体勢を崩せば隙を突かれかねないと理解しているのか、オーガも深追いはしなかった。


 予想通りとはいえ、好都合。

 僕は精神を集中し――勿論、オーガの動きから意識は逸らさない――口の中で詠唱。

 手にしていた剣へと魔力を流し込む。


「――」


 再度、煌めく刃。

 でも、剣に宿っているのは、先ほどまでのか細い光とは違う。

 髪色と同じ、煌々と燃え盛るような赤。


「……いくよ」


 正眼に構え、誰ともなしに僕は呟いた。

 そして、跳躍。


「―――!!」


 呼応するかのようにオーガが吠える。


 でも、それは威嚇のためじゃない。


 ――受けた痛みに対する呻き声だ。


 緋色に輝く剣は鋼鉄で出来た大盾を絹のように引き裂くと、勢いをそのままにオーガの左腕を切り飛ばしていた。


 何が起きたのかわからない。

 一瞬だけ見えた鬼人の顔には、そうありありと書かれていた。


 説明してやる義理もない。

 もっとも、言葉は通じないだろうけど。


 大勢は決した。


 宙を舞う大盾が地面に落ちるより早く、返す刀で僕は一閃。

 次に貫かれたのは纏われていた鎧で、血飛沫が夜露に濡れる草木を赤く汚す。


 巨体が崩れ落ち、怒りの雄たけびが断末魔へと変わるまで、そう時間はかからなかった。

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