法相答弁の迷走は、東京高検検事長の定年延長を巡る政府の主張が破綻していることを改めて印象付けた。違法、脱法の決定は撤回すべきだ。
森雅子法相は9日の参院予算委員会で野党の小西洋之氏(無所属)から、検察官の定年延長を可能にする法解釈の変更が必要と考えた理由を問われ、「東日本大震災の時、検察官は福島県いわき市から国民、市民が避難していない中で最初に逃げた。その時に身柄を拘束している十数人の人を理由なく釈放して逃げた」と唐突に言及した。
これを受け、11日の衆院法務委員会で山尾志桜里氏(立憲民主党)が「検察官が最初に逃げた」「身柄を拘束していた十数人を理由なく釈放した」というのは事実なのか、とただした。
森氏は「はい、事実でございます」と答えた。政府見解なのかと追及されると、「逃げた」「理由なく」の部分は個人的見解だと述べている。
森氏は同日の参院予算委で「検察の活動について個人的見解を述べたのは不適切だった。個人的見解だと示すことなく述べたのも不適切だった」として撤回を表明した。
ただし、「事実でございます」と答えたことについては「3月9日にご指摘の答弁をしたことが事実であると申し上げた」と釈明した。
詭弁(きべん)以外の何物でもない。山尾氏が事実かとただしたのは検察官が逃げたこと、十数人を理由なく釈放したことであって、答弁の有無を聞いたのではない。
13日の衆院法務委で一連の言動について謝罪した際、「事実ですと答弁したのは、誤解を招きかねない表現だった」と述べたが、誤解の余地があったとは思えない。
森氏は民主党政権下の2011年、東日本大震災の際に国の機関の中で裁判所と検察庁だけが逃げたとして、当時の法相を参院法務委で追及していた。そのことが答弁の下地になっていたようだ。
11日の衆院法務委では、解釈変更と先の答弁の関連を問われ、「大規模な災害があるときに、勤務延長を1日たりともしないということがあり得るのか、と当時も思った」などと答えている。
これもおかしい。森氏はこの間、国家公務員法の定年延長が検察官に適用されないとする過去の政府見解を知った時期を「1月」と説明していたからだ。11年の時点で既に検察官の定年延長に関心を持っていたとは考えにくい。
政府は、検察庁法に反して黒川弘務東京高検検事長の定年延長を決定した。違法性が指摘される中で「法解釈を変更した」と開き直った。
法相の答弁が迷走を重ねているのは、後付けの理屈に次々とほころびが出て、もはや取り繕えなくなっているからではないのか。
森氏への信頼は既に失われている。閣僚の任に堪えられないのなら、自らけじめをつけるべきだ。