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【社説】

特措法の改正 独断への懸念は消えぬ

 改正新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)が成立した。新型コロナウイルスによる感染症の拡大に備え、あらゆる対策が必要なのは確かだが、政府の独断を許す懸念は残ったままだ。

 私権を制限する権限を政府や自治体に与える法律だ。一度立ち止まり慎重な議論をすべきだったが、改正案の国会審議はわずか三日で成立した。

 法案審議では、制度の不備を改善するための議論が十分になされず、新型コロナ感染症に対しても政府は緊急事態を宣言し権限の行使ができるようになった。

 国会が役割を果たしたとは言い難い。

 緊急事態が宣言されれば政府や自治体が外出の自粛要請や、劇場、学校などの使用制限の要請・指示ができる。集会や移動の自由が大きく制限されかねない。

 土地などを所有者の同意なしに強制使用できる権限もある。

 不透明なのは政府が宣言を出す際の手続きだ。国民の生命や健康に重大な被害を与える恐れがあり、全国的かつ急速なまん延で国民生活と経済に甚大な影響を及ぼす恐れがあると政府が判断する場合だが、改正法でもどういう場合に該当するのかあいまいだ。

 政府は宣言発令の際、専門家の会議に諮ると言うが、全国知事会が判断基準の明確化を求めているのもうなずける。

 野党は、事前の専門家への諮問や国会承認を要件に加えるよう求めたが、法案修正はされず、強制力のない付帯決議に国会への事前報告を盛り込むことで決着した。

 だが、政府が「緊急でやむを得ない」と主張すれば事前報告は骨抜きになる。これだけ私権を制限する権限を与える法律だ。政府判断が妥当なのか監視するために、国会の事前承認は不可欠だろう。

 二〇一二年の特措法成立時の付帯決議では、不服申し立てなど私権制限に関係する権利利益を救済する制度の整備を求めている。

 この課題の置き去りも無視できない。実際に安倍晋三首相がイベント自粛や一斉休校を専門家の意見を聞かず独断で決めたことで、国民生活に混乱が広がっているからだ。経済対策が後手に回るだけではなく、人権への配慮も足りないのではないか。

 世界保健機関(WHO)が世界的流行を意味するパンデミックを表明した。感染症の封じ込めへ手を緩められないが、政府はまず情報公開を進め、説明責任をしっかり果たすべきだ。

 

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