©WWF / Folke Wulf

象牙問題とワシントン条約CoP18 アフリカゾウ生息国の苦悩:象牙取引の再開を望む国

この記事のポイント
高価で取引される象牙を狙った密猟により、絶滅の危機が指摘されているアフリカゾウ。2016年に採択された「ワシントン条約」の「決議10.10」により、世界各国は象牙の国内取引の禁止を含めた、厳しい対応を進めています。しかし、複雑な経緯と現状を抱えた、象牙をめぐる問題の解決は、決して容易ではありません。このシリーズでは、2019年8月17日より開催される、第18回ワシントン条約締約国会議(CITES-CoP18)を前に、象牙をめぐる世界の現状と日本に今、何が求められているかを解説します。第2回目の今回は、アフリカゾウの生息国の現状をお伝えします。

アフリカゾウ生息国の現状

現在、アフリカゾウが生息する国は37カ国。
ケニアやタンザニアなどの東部アフリカ諸国では、1960年代から80年代にかけて、野生動物の激しい密猟の嵐が吹き荒れ、アフリカゾウの数が一気に減少した歴史があります。

アフリカゾウの象牙は、1989年に「ワシントン条約」で国際取引、すなわち輸出入が全面禁止されましたが、その背景には、この時の大規模な密猟が大きな要因としてありました。

また、熱帯の森に覆われた中部アフリカの国々では、2000年代以降、各地の内戦などに乗じたゾウの密猟が頻発。保護区やその体制も打撃を受け、幾人もの自然保護官(レンジャー)たちが、密猟者との戦いで命を落としました。

一方、近年まで比較的に個体数が安定し、一部増加の傾向を続けてきたのが、南部アフリカの国々です。これらの国々では、自然死などによるゾウの牙を集めて管理し、国際取引の再開を求めてきました。

アフリカゾウの生息数や、その生息国の政情にはそれぞれ違いがあり、統一した政策を実施することが困難な状況にあります。

南部アフリカ諸国の思い

現在、南部アフリカには、アフリカゾウ全個体数の約7割が生息しています。

地域 環境 推定個体 レッドリスト(※)
中央部 カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ民主共和国、コンゴ、赤道ギニア、ガボン 森林地帯 24,000 EN(絶滅危惧種)
西部 ベニン、ブルキナファソ、コートジボワール、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、リベリア、マリ、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、シエラレオネ、トーゴ 乾燥地帯 11,000 VU(危急種)
東部 エリトリア、エチオピア、ケニア、ルワンダ、ソマリア、南スーダン、タンザニア、ウガンダ 草原地帯 86,000 VU (危急種)
南部 アンゴラ、ボツワナ、マラウィ、モザンビーク、ナミビア、南アフリカ共和国、スワジランド、ザンビア、ジンバブエ 乾燥地帯 293,000 LC (低危険種)

推定個体数=IUCN(国際自然保護連合),2016より
IUCN SSC African Elephant Specialist Group(AfESG): African Elephant Status Report 2016, IUCN(2016)./ African Elephant Database

(※)レッドリスト:IUCNによる絶滅の危機の度合いを評価したもの

特に、南部アフリカの国の中で、象牙の輸出再開を望んでいる国は、ボツワナ、ナミビア、南アフリカ共和国、ジンバブエ、そしてザンビア です。

個体数の安定しているこれらの国々は、象牙を国の自然資源として利用する権利を主張し、その取引によって利益を得ることを、一つの経済政策と捉えています。

そのために、1989年に象牙の国際取引が禁止されて以降、自然死したり、有害駆除したゾウの象牙を、密猟されたゾウの象牙とは別にして保管し、取引の再開に備えてきました。

南アフリカ共和国のクルーガー(Kruger)国立公園で保管・管理されていた象牙(2006年当時)
©WWF / Folke Wulf

南アフリカ共和国のクルーガー(Kruger)国立公園で保管・管理されていた象牙(2006年当時)

またこうした国々では、象牙の輸出で得た資金を、アフリカゾウなどの保全活動に充てるとし、実際にそうした取り組みを行なうとしています。

この背景には、単に経済的な理由から、象牙を取引したいという意図だけでなく、多くのアフリカゾウが生息する国が抱える、深刻な現状があります。

たとえば、世界で最も多くのアフリカゾウが生息するボツワナでは、近年その数が増加傾向にあり、農園や集落に出没して、人の生活を脅かす存在にまでなっています。

相手が群で行動する巨大な動物であるだけに、被害を回避しながら保全を十全な形で行なうのは、容易ではありません。

また、輸出再開を望む国々では、保管している象牙が密猟など違法に取得したものとは、明確に区別できるように、厳しい監視や管理が必要とされます。それを着実に実施することにも、やはり大きな困難が伴うのです。

ワシントン条約会議への提案

しかし、南部アフリカ諸国が求めている、象牙の国際取引を再開するためには、ワシントン条約の規制を変更する必要があります。

そこで、ボツワナ、ナミビア、南アフリカ共和国、ジンバブエ、そしてザンビアが、2019年8月に開催される、第18回目となるワシントン条約締約国会議(CITES-CoP18)に、アフリカゾウの国際取引の再開を求める内容の議題を提案。

条約の締約国が集まり、条約の規制対象となる動物・植物について協議する締約国会議で、各国の合意を取り付け、国際的なルールのもとで、取引を再開する意思を示しています。

ザンビアのサウス・ルアングワ(South Luangwa)国立公園を歩くアフリカゾウ
©Richard Barrett / WWF-UK

ザンビアのサウス・ルアングワ(South Luangwa)国立公園を歩くアフリカゾウ

こうした提案は、過去にも行なわれており、1989年以降、限定的に2回、合意され、実際に象牙の取引が行なわれたこともありました。

条約事務局の監視のもと、1回目は1999年にボツワナ、ナミビア、ジンバブエの3カ国から日本に、2回目は2008年、南アフリカを加えた4カ国から中国と日本に、政府が保管、管理する在庫の象牙が「合法的」に輸出されたのです。

これは「ワン・オフセール(一回限りの取引)」と呼ばれ、この限定的な取引により、日本にもたらされた象牙は、今も国内市場で取引される在庫象牙の多くを占めていると考えられています。

しかし、こうした合法的な象牙は、違法な、つまり密猟の犠牲を伴って得られた象牙と区別しづらい、という問題があります。

このため、ワン・オフセールが成立した時にも、密猟や違法取引の増加を懸念する指摘は、たえずなされてきました。

とりわけ、密猟の影響を強く受け、アフリカゾウの個体数も少ない、他のアフリカ諸国は、全く別な政策を取ることを主張。
南部アフリカ諸国とは逆の、より厳しい象牙の取引規制提案を、条約会議に対して行なっています。

次回は、アフリカゾウの生息国の中で、また立場を異にする国の主張と現状について解説します。


シリーズ「象牙問題とワシントン条約CoP18」第3回アフリカゾウ生息国の苦悩:厳しい取引規制を望む国へ続く。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは世界約100か国で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP