自分で見てて「それはどうなんだ?」って思うところも多々ありますがこれ以上は能力的に無理だったんです。はい
それじゃどうぞ…………
ナザリック守備隊指揮所
「敵の…全軍が動いた?」
クリプトの驚きの声を受け、陣幕内は俄かに騒がしくなった。
アンデッド達は地図の上に置いた駒を素早く動かし、予定していたプランを取り止めて 別のプランの中でどれが最適かを議論し出した。
そんな中でクリプトは一切発言しない。
それ以上に自身の胸中を占める疑問の方が個人的に重要だったからだ。
(何故王国側は動いたのだ)
騎兵が主体の帝国軍と比べて歩兵が主体の王国軍はナザリック守備隊との相性が極めて悪い。
その上、王国軍の主兵装は接近戦時に振り回すのが困難な長槍だ。
対するナザリック守備隊の主力は見るからにアンデッド。それもスケルトン系のモンスターを前衛として配置しているのだから長槍はあまりに現実味に欠ける装備と言わざるを得ない。
無論、石突きでの打撃や薙ぎ払いであれば多少の効果はあるが元々は農民である王国の兵達にそれが出来るとは思えない。
よって、王国軍の最も効果的な布陣は槍衾を形成し、敵を退けつつ、負傷した帝国騎士達を受け入れる、セーフゾーンとしての働き。と言うより、それ以外ではリスクが大きすぎるのだ。
(さっぱり分からない。もしかすると政治的、感情的な理由なのか。……はぁ、これ以上は考えても無意味、か)
クリプトが片手を挙げると議論を続けていたアンデッド達は一様に口を閉じ――元々動かないが――クリプトに注目した。
「来ると言うならば迎え討つのみ。全隊に通達せよ、総力戦だ!」
―――――
地鳴りの如き轟音と共に同盟軍が前進を始めた。
右翼を帝国、左翼を王国という具合に鶴翼の陣形を取って進むが歩調を合わせる為、帝国騎士達も進軍はゆっくりとしている。
しかし、重装騎兵は温存の為に待機したままだ。
同盟軍の前進から少し遅れてナザリック守備隊、総数三万の内前衛を務めるスケルトン系のアンデッド、一万五千が魚鱗の陣で進撃を開始する。
スケルトン達はその身軽さと統率のとれた動きにより同盟軍に急接近した。
雄叫びが空気を揺らし、両軍の先鋒がぶつかり合おうとしたその時、ナザリック守備隊から無数の影が飛び立ち、同盟軍の中を通り抜けた。
その直後、突如として同盟軍の動きが止まる。
通常、集団の先頭が急に止まったなら勢い余った後続に踏み潰される事だってある。
だが同盟軍ではそのような事は一切起こらなかった。
何故なら、後続もまた止まっていたからだ。
つい先程まで、ナザリック守備隊へ向け突撃していた筈の十万を超える同盟軍が一様に その場で立ち止まってしまった。
しかし、その理由はすぐに明らかとなる。
先程までに倍する空気の震え。
だがそれは戦いの雄叫びではなく、恐怖から来る絶叫だった。
戦闘を前にした兵士達が恐怖から動きを止めていたのだ。
突如、兵士達が恐怖に駆られた理由は当然、両軍の陣形を駆け抜けていった影だ。
その影の正体は
非実態アンデッド達は物体を透過するその肉体と恐怖のオーラによって敵軍の中をすり抜けながら、その動きを止めたのだ。
種が分かれば拍子抜けするほど単純だが、こと戦場において、この作戦は極めて効果的である。
そして、恐怖が駆け抜けた後に草刈りが始まる。
スケルトン達は接近した勢いのままに同盟軍に飛び掛かり、斬りつけた。
いくらスケルトンの装備が錆びた剣だけとは言え、恐怖によって逃げ惑っている敵であれば問題無く倒す事が出来る。
それにアンデッド達の疲労も、痛みも、恐怖も無い肉体から放たれる攻撃は全てが全力の一撃だ。
最初の衝突で同盟軍は多大な損害を出した。
特に被害が大きかったのは恐怖に抵抗する事が出来なかった王国側で、逆に訓練や実戦によって恐怖への耐性を身に付けている帝国騎士達は素早く恐怖から立ち直り、既に応戦を開始していた
無論、王国側も戦士達など戦闘訓練の経験を持つ部隊を前方に出そうとするが逃げ惑う民兵達によって上手く交代出来ていない。
そして、更なる追い討ちがかけられる。
ナザリック守備隊後方、ナザリックオールドガーダーやスケルトンアーチャーからなる弓隊が射撃を開始した。
目標はナザリック守備隊の被害が拡大しつつある右翼、帝国軍。
もしこれが普通の、人間の軍隊ならこの様な攻撃は行われないだろう。
なにせ前方では敵味方が入り乱れる乱戦が起こっている、同士討ちになるのは火を見るように明らかだ。
しかし、刺突への完全なる耐性を持つスケルトン達を前衛としているナザリック側は問題無く射撃出来る。
とは言え、もし前衛が
理由は兵士達とアンデッド達の命の価値の違いだ。
ナザリック守備隊はポップするアンデッドを主体に編成されている為すり潰すような使い方をしても問題無いし、クリプト自身その許可を主人より受けている。
矢の雨が降り注ぎ、幾多もの血飛沫が上がる。
スケルトン・アーチャーの弓では弓勢が弱く騎士達の身を包む鎧を貫くことが出来なかっただろう。
だが、それを補う為のオールドガーダー達だ。
彼らが持つ魔法のかかった弓なら元々の弓勢も相まって騎士達の鎧も容易く貫ける。
友軍の危機を察した帝国軍重装騎兵達が主戦場を迂回し弓隊に近づこうとした。
だが、そう易々と弓隊への接近を許す者など居ない。
弓隊の前方に布陣する護衛部隊の内半数を占める
小型の個体は低い位置から馬用重装鎧に覆われていない騎馬の脚部に喰らい付き、大型の個体は突進の勢いのままに騎兵、騎馬共々吹き飛ばしていった。
重装騎兵達も応戦するが脚を噛まれ倒れた馬や、放り出された味方が邪魔になり持ち味の機動力が発揮出来ない。
その上、馬上から騎士槍で攻撃しようにも小型の個体は動きが早すぎてこちらの攻撃が当たらないし、大型の個体は体力にあかせて突っ込んで来るのでどのみち効果的とは言えない。
それでも一部の騎兵達は
王国兵の入れ替えが終わり、スケルトン達の数が半数を切ったところで同盟軍陣地から引き太鼓が鳴った。
帝国軍は重装騎士を、王国軍は戦士達を殿として撤退を始めた。
殿軍も無理に戦おうとはせずゆっくりと後退する。
相手が追撃を仕掛けてきたら応戦するつもりだった。
だが……。
ナザリック守備隊は文字通り微動だにしなかった。
―――――
「クリプト様、追撃を行いますか?」
訪ねてきたエルダーリッチに頭を振って否定を示す。
「何故ですか?スケルトン隊は壊滅状態ですが、まだスケルトン・ウォリアー達も居ます。今追撃を仕掛ければ敵を一気に殲滅出来ます」
「だから、だよ」
クリプトの返答に疑問を示したエルダーリッチの方へ向き直り説明する。
「殲滅出来てしまうから、だ。我々の目的は圧勝する事であって奴らを殺し尽くす事では無いのだぞ」
そう。彼らの任務は同盟軍相手に圧勝する事であって、殲滅や虐殺は禁じられている。
何故ならこの戦いはいずれ起こるかもしれない『戦争』の為の実験なのだ。
至高の主人や守護者に頼らない。国対国の戦いの為の。
「はっ。申し訳有りません。失念しておりました」
「気にするな。私とて出来るなら奴らを殺し尽くしてしまいたい」
これはここにいる者達だけでなくナザリックに連なるほぼ全ての者に共通する意思だろう。
「とは言え勝手な行動は許されていないのだ。今は堪えるしかあるまい」
これもまたナザリックの中で共通する考えだ。
至高の存在がそうせよと命じたのなら、それを完遂することこそ配下の務めなのだから。
「それより死体の回収を急がせろ。敵に回収される前に済ませないとな」
「目下城壁の中に戦利品共々運ばせております。クリプト様、集めた死体はいかがいたしましょう?」
「適当に重ねておけば良い。終わり次第シャルティア様に連絡しろ。私はデミウルゴス様の元へ報告に行く」
虫食いでないさん誤字報告ありがとうございます