みなさんこんにちは!
4月後半、春のど真ん中ですね。
ときどきは寒い日もあるけれど、
よく晴れた日の暖かい空気が肌に触れると
やっぱり春の心地良さを感じます。
暖かいと、心もゆるりとほどけるなあ。
店先には、春が盛りの食材もたくさん並んでいますね。
歯触り抜群のたけのこ、
甘くてやわらかい春キャベツ、
しゃきしゃき食感が楽しい新たまねぎ、
小粒で水分豊富な新じゃが、
たらのめやこごみなど、独特の香りやほろ苦さがたまらない山菜も出揃っていますし、
もちろん前回の連載で取り上げたそらまめも、
カゴに山盛りでよく見かけます。
さらにさらに、身近な魚介類では
あさり!
これまたおいしい季節のど真ん中です。
あさりって、つくづく素晴らしい食材。
だって、うまみがたっぷりだから
そのまま蒸すだけでも十分おいしい!
「あと一品」に困ったときは思わずあさり頼みになってしまいます。
つい先日、
仕事で築地市場を取材する機会があったので、
貝専門の仲卸の方に
あさりについてちょっと伺いました。
まず、あさりのうま味のもとはコハク酸という成分。
日本酒にも含まれる有機酸で、
酒のうまみを生む重要な成分のひとつでもあるそう。
じゃあ、あさりの酒蒸しなんてコハク酸だらけじゃないですか!
なんて思わずつぶやいてしまいました。
それから、獲れる地域で多少の差はあるものの、
産卵直前にあたる3~5月初旬(まさに今!)と9月頃が、
身に栄養を蓄えて最もおいしくなる旬なのだそう。
旬の頃は身に栄養がまわる分、殻が薄くなるので、
洗うときなど割れないように注意が必要だそうです。
また、殻の色は貝が育った産地の砂に影響を受けやすく、
黒々しているものよりは色の薄い白っぽいものの方が、
砂の環境が良かった証拠だそう。
最近売られているものは砂出し済みのあさりがほとんどですが、
できればもう一度塩水に漬けて、
砂や汚れを出しておくと安心。
また、あさりは殻についた汚れなどが料理の味をにごらせる原因にもなるので、
砂出しだけでなく、殻の表面をしっかり洗うことも大事です。
さ、豆知識はこのくらいで、
料理の話にまいりましょう。
酒蒸しやみそ汁、あさりご飯にパスタと食べ方は無限大ですが、
私の好きなポルトガルでも、
あさりはやっぱり人気もの。
とくに有名なのが、あさりの蒸し料理
「ameijoas a Bulhao Pato(アメイジョアス ア ブリャオン パト)」です。
こんな感じ。
なんか味の想像がつくなあ、と思ったあなた。
その想像とは、ちょっと違うかもしれません。
だって、意外なものが使われていますから。
料理名を訳すと「あさりのブリャオン・パト風」。
ブリャオン・パト???
何?
どこ?
誰?
調べてみるとブリャオン・パトとは、
フルネームはライムンド・アントニオ・デ・ブリャオン・パトという
19世紀のグルメなポルトガル詩人の名前だそう。
この料理の名前は、
グルメなパトさんに敬意を表してつけられたらしいよ、と
ポルトガルの料理人から聞きました。
ふむふむ。
材料はシンプル、
作り方もものすごく簡単です。
でも、ちょっと珍しい材料が入るので、
あさりが旬の今、ぜひ試して欲しい。
とくにあさりでワインを飲みたい方におすすめです。
その食材とは香菜(シャンツァイ)!
ポルトガルの、とくに南部は香菜をよく使います。
レモンと一緒に、どちらも“たっぷり”使うのがポイント。
あさりを蒸したときに出るうま味たっぷりのスープと重なって
おいしいソースになり、
まさにこのソースが主役の料理です。
香菜ってさ、あの匂いがダメなんだよねという方。
そんな方はぜひ、
代わりにイタリアンパセリで作ってみてください。
こちらはさらに上品ですっきりした仕上がりになります。
材料はこちら
2人分
- あさり(砂抜きしたもの) 300g
- オリーブオイル 大さじ1
- にんにく(あらみじん切り) 1片
- 水 大さじ3
- 香菜(みじん切り)、白こしょう 各適宜
- レモン 1/2個
- バゲット(スライスしてカリッと焼いたもの)適宜
あさりは砂抜きをします。
平たいバットなどに並べ入れ、
海のしょっぱさと同じぐらいの3%濃度の塩水
(水300mlなら塩小さじ2程度)に1~2時間ぐらい漬け、
新聞紙などをかぶせて暗い静かな環境をつくります。
そうすると、あさりは元気に水管(顔みたいな部分)を伸ばし、
ピューピュー水を吐きながら、汚れも一緒に出します。
砂抜きが終わったら、
流水の中であさり同士をやさしくこすりあわせながら
殻の表面の汚れを取り除き、
ざるに上げておきます。
ここでしっかり洗っておくと、
料理の味もにごりません。
次に、フライパンにオリーブオイルと粗みじん切りしたにんにくを入れ、
弱火で炒めながら香りを出します。
にんにくがいい色に変わって香りが立ったら
焦げないように先に水を入れ、
あさりときざんだ香菜を加えます。
そして、ふたをして中火で蒸します。
貝が開くまで加熱し(1分半ぐらいが目安)、
全体の半分ぐらいが開いたら火を止めてふたをし、
さらに1分ほど余熱で蒸します。
直火より余熱で蒸す方が身は硬くならず、
あさりからたっぷり出ているスープで身もしっとりし、
ふっくら仕上がります。
その間、レモンを準備します。
レモンはまるごと1個をまな板の上でごろごろ前後に押し、
転がしながら果肉をほぐして絞りやすくします。
そして半分に切ります。
ふたを開け、あさりの口が全部開いているのを確認したら、
レモンをギューっと絞りながら全体に回しかけます。
こんな感じに写真がブレるくらい力強くレモンを絞ってください!
というのは冗談ですが、
左手でレモンを絞りながら、
右手にカメラを構えて頑張ってみた結果、このとおり残念な写真に!
失礼しました。
でも、レモンはたっぷりのほうが、
おいしいスープになります。
辛いのが好きな方は、
ここで白こしょうを適宜加えて下さい。
黒より白の方が、このスープの風味にはより合うと思います。
調味料を加えたら、
スープとあさりを軽く混ぜて全体に絡めます。
スープが馴染んだら器に盛って完成。
レモン好きの方は、さらにレモンを添えて好みで絞ってください。
あさりの身もおいしいのですが、
最もおいしいのはなんといっても皿にたまったあさりのスープ。
レモンの酸味と香菜の風味、
にんにくのうまみ、あさりのコハク酸を合わせると、
スープに不思議なボリューム感が出るんです。
ゴクゴク飲むというよりは、チビチビなめたい凝縮感。
あさりのうまみを中心に、レモンの酸味が全体をまとめています。
ワインは少し香りの華やかなものや、
クリスピーな風味の白をしっかり冷やすと
相性抜群だと思います。
カリッと焼いたバゲットにスープを含ませながら
あさりの身と一緒に楽しんで下さい。
ちなみにこのあさりのブリャオン・パト風は、
パスタと合わせてもおすすめ。
できあがりに合わせてパスタをゆであげ、
フライパンで絡めれば完成です。
パスタにする場合は、
あさりを蒸す前に小麦粉小さじ1を加えておくと
ソースがパスタに絡みやすくなります。
それから、今回合わせたワインはこちら。
ポルトガル・テージョ地方の「カポエイラ」です。
ラベルの雄鶏(ポルトガル語で「ガロ」。幸せの象徴です)のイラストが可愛らしく、
春のテーブルを楽しく演出できますね。
このワインは第6回の「たらとじゃがいものピポグラタン」でも御紹介しましたが、
ソーヴィニョン・ブランと土着種フェルナン・ピレスを合わせた
ライトボディのフレッシュな白ワイン。
やわらかい口当たりにまるい酸味が心地良く、
軽いわりに華やかな香りも楽しめます。
とくに魚料理と合わせやすく、
香菜のひとクセある香りとも好相性だと思います。
このワインは、こちらのお店で買えます。
「ポルトガルワイン崖の上」
それにしてもあさりの蒸しものって、
ほかにもいろんな味のアレンジが可能なんですよね。
書き出したらきりがないぐらい。
参考までに私がブリャオン・パト風以外でよく作る定番の味つけは
にんにく+しょうが+オイスターソース+しょうゆ+豆板醤=中華
にんにく+唐辛子+ベーコン+生トマト=イタリアン
にんにく+しょうが+ナンプラー+ごま油=アジアン
などの組み合わせです。
野菜や肉との相性もいいので、
さっと焼いた豚バラと合わせたり、
レンジで軽くチンした新キャベツを加えてもいいですね。
旬のもの同士の組み合わせはだいたい相性がいいので、
店先の食べたい野菜と組み合わせてオリジナルに挑戦してみてください。
なにしろコハク酸たっぷりのあさりなので、
多少の冒険でも料理はおいしくできるはず。
来週は、まだまだ旬のあさりを使った
ポルトガル風ご飯を御紹介する予定です。
ビバ、あさり!