cakes読者のみなさま、こんにちは。
そろそろ冬はおしまい、でも春というにはまだ早い。そんな今の時季に食べて欲しい、たらの料理をご紹介します。
昨年、ワインの取材でポルトガルを訪ねたときのこと。1日オフになってポルトという古い街を朝から歩きまわり、昼時にお腹が空いたので、街中の狭い路地に並ぶ小さな食堂に入りました。狭いけれど明るい店内は、2組の家族連れが賑やかに食事中。店の壁には、お店の人のちょっと癖のある字で走り書いた本日のおすすめメニューが下がっていて、よく読むと私の好物のバカリャウ(干しだら)と千切りフライドポテトの卵とじ「Bacalhau a Bras(バカリャウ・ア・ブラシュ)」があり、嬉しくなって早速注文しました。
この料理は、マッチ棒のように千切りにしたポテトをカリッと香ばしく揚げ、細かくほぐした干しだら、玉ねぎを炒め合わせ、最後に溶き卵でとじるという、とても素朴な、素材の旨味たっぷりの、ポルトガル家庭料理の良さを集約したようなひと皿。だからメニューにこの料理名を見つけると、つい注文したくなるのです。店によって卵のとじ加減なんかの違いもあるから、比べてみたいし。
赤ワインをカラフェで頼み、1杯目をゆっくりひっかけながらオリーブをつまんで待っていると、オーダーを受けた調理場が次第に賑やかになり、何かを揚げる音や炒める音がして、しばらくして、はい、と男の子が出来上がった皿を持ってきました。でもこれが、頼んだはずのバカリャウ・ア・ブラシュとは全く違う料理。こんがり千切りフライドポテトとたらの卵とじの代わりに、たらの分厚い切り身と厚切りじゃがいものフライ、その上にたっぷりと玉ねぎのソースがかかっている。きつねうどんを頼んだのにカツカレーが来たぐらいの違いです。
どうしてこうなった!?「これ、私のお願いしたブラシュじゃないよね?」そう男の子に聞くと、彼はきょとんとして、それからしばらくすると「よく見て、ブラシュ(Bras)じゃなくて、ブラガ(Braga)だよ」と笑ってメニューを指さし、教えてくれました(写真の一番下の料理名)。見ると確かに、最後の字が違います。ブラガを好物のブラシュととっさに思い込んで読んでしまったらしい。はやる気持ちのなせる業。
思っていたのとは違ったけれど、これも何かの縁とブラガを食べました。ところがこれが、なんともいい味。玉ねぎソースのピリ辛でちょっと酸っぱい、でも玉ねぎの旨味と甘みがあと引く感じは、たらやじゃがいもの素材の味や塩気にぴったり。食べ終わったら早速厨房のお母さんに作り方を教えてもらって、東京に戻ってからもちょくちょく作るようになりました。
ということで、今回はこの間違って注文した、玉ねぎソースのブラガの方をご紹介します。
たらは粉を全面にはたいてカリッとソテー。じゃがいもは素揚げ。肝心の輪切り玉ねぎのソースは、ワインビネガーで酸味と旨味をきかせ、唐辛子の辛さもプラスします。軽めの白や、果実味のある軽い赤も合いますし、うま酸っぱい玉ねぎソースはごはんにもよく合います。玉ねぎは、炒め過ぎないように透明感を残すのがコツです。
Menu do dia 本日のメニュー
「バカリャウ・ア・ブラガ~たらのカリッとソテー&玉ねぎソース」
甘塩たら 1切れ(生のたらの場合は塩をふって10分ほど置き、水分を拭いて使う)
じゃがいも 1個
玉ねぎ 小1個
にんにく 1片
唐辛子 1本
ローリエ 1~2枚
ワインビネガー 大さじ1
オリーブオイル 大さじ3
塩、黒こしょう、小麦粉 各適宜
つくり方
じゃがいもはやや厚切り(7~8㎜幅ぐらい)、玉ねぎは5ミリ幅の輪切りにする。
フライパンにオリーブオイル大さじ2を入れ、冷たいうちからじゃがいもを並べ入れて中火でじっくり揚げます。
こんがり揚がったら取り出してザルなどにあげて塩をふり、余計な油を切ります。
甘塩たらは、余分な水分を拭いたら黒こしょうを挽き、全体にしっかり小麦粉をまぶし、揚げる直前に余計な粉を払います。
油の残っているフライパンに入れ、両面、皮の部分もこんがりと揚げ焼きします。たらは身が柔らかいので、いじくり過ぎはダメ。表面がカリッと固まるまで触らないでおく。
たらが焼き上がったら、取り出して一度フライパンをきれいに拭き、新たにオリーブオイル大さじ1を入れ、玉ねぎ、つぶしたにんにく、種を取った唐辛子、ちぎったローリエを入れ、中弱火でゆっくり炒めます。
ときどき上下を混ぜて玉ねぎ全体に油をなじませながら、じっくり甘みを引き出すイメージで炒めます。
3分以上炒め、玉ねぎがうっすら黄色くなってきたら塩を加えて味を調え、ワインビネガーを一気にふりかけ、全体をざっと混ぜてソースは完成。
皿にたらとじゃがいもを盛り、上から玉ねぎソースをかけてできあがりです。
この玉ねぎソースは、たら以外の白身魚はもちろん、鮭や鯵などでも合います。玉ねぎの食感が残っているので食べ応えがあり、ポークソテーにたっぷりかけてもおいしいですよ。魚や肉がない、あれ、玉ねぎしかない、というときは、実はこれだけでもつまみになります。
今回この料理に合わせたのはこちらのワイン。今回も、ポルトガルの緑のワイン「ヴィーニョヴェルデ」からの1本です。
「キンタ・ダ・アヴェレーダ ヴィーニョヴェルデ」 1155円
ポルトガルではよく見かける、ポピュラーでカジュアルな1本。すっきり軽やかな飲み心地で、花のような香りやトロピカルフルーツの香りも楽しめます。こんがり焼いたたらの旨味や塩気、玉ねぎソースの甘みやワインビネガーの酸味が、アルヴァリーニョ&ローレイロのぶどうの旨味を引き立てます。
では、どなたさまもよい週末を!