野菜と魚と米の三位一体「アジのマデイラ風グリル定食」

新刊『ムイト・ボン! ポルトガルを食べる旅』も絶好調な馬田草織さんのレシピ連載。今回も、新刊には収めきれなかった、馬田さんがポルトガルで出会った料理をご紹介します。日本の食材でも簡単にできる「アジのマデイラ風グリル定食」とはいったいどんな料理でしょうか? cakesに連載中の『ムイト・ボン! ポルトガルを食べる旅』とあわせてお楽しみください。

cakes読者のみなさま、こんにちは。

今回も新刊『ムイト・ボン! ポルトガルを食べる旅』にちなみ、ポルトガルの旅先で出会った料理を紹介します。

普通ならリスボンから1時間半のフライトで気軽に到着のはずのマデイラ島。だのに私の場合、飛行機が視界不良で隣の島に緊急着陸し、さらに闇夜の船旅と、12時間かけてやっとこたどり着くという珍道中。リスボンから1000キロ離れたクリスチアーノ・ロナウドの故郷って、プライベートジェットがないと結構遠いじゃん、なんて小市民的グチをつぶやいてみたり。

と、いきなりアクシデントの大盛りで始まった旅が、翌日からは今度はいいこと色々でした。しょっぱなに理不尽続きでめげそうになったところに、今度は急に優しくされる的なギャップマジックもあって、一気にマデイラ島が好きになりました。単純だな、私(旅の詳細は、ぜひ新刊で楽しんでください!)。

ポルトガル本土よりむしろアフリカに近いこの島は、11月でもTシャツで過ごせる暖かさ。翌日は軽く朝食を済ませたら、まずは首都のフンシャルにあるレブラメント市場へ。市場は南国らしく色鮮やかな花と果物で溢れていて、メロンパッションフルーツ、トマトパッションフルーツ、バナナパッションフルーツと種類豊富なパッションフルーツがあちこちに山盛り。なんだそれ、とつぶやきながら片っ端から味見させてもらって、最後の方は何の果物を食べているのか分からなくなるぐらい、パッションフルーツの洗礼を受けました。ちなみに、名物は島バナナですが。

野菜や香辛料、ハーブにナッツなど市場のカラフルゾーンをひと通り見たら、いよいよ目当ての魚売り場へ。だってマデイラ島は、大西洋にぽつりと浮かぶ島ですもの、やっぱりハイライトは魚市場でしょ。マグロを解体する様子を見たり、ずらりと並ぶ黒太刀魚のグロテスクな顔を冷やかしたりしながら歩いていると、人懐っこい感じのおじさまと目が合って、突然呼ばれました。素直に近づいていくと、なんと魚の食べ方をレクチャーしてくれるじゃないですか。

写真左のフェルナンドさんは、少し離れた漁村の漁師。そばにあったピチピチのアジを手に「こいつはどうやって食べたらうまいか、お前さん知ってるかい?」と、具体的にアジを手にとり、教えてくれました。干物でしょ、とか、そういう余計なことはもちろん言いません。

「こうやってお腹をきれいに掃除したらさ、オレガノと塩をたっぷり詰めて塩焼きするんだよ。焼き上がったらレモンを絞って食べると、うんまいぞぉ」。おお、その様子をイメージしたら、アジが急に洒落た魚に思えてきた。これには白ワインかな、いや、ロゼどうかな。ヴィーニョヴェルデの赤もいいな。でもビールも合うし、んー迷うなあ。

市場を出たらちょうどランチタイム。その足で近くの店に入り、食べたのはマグロのステーキ定食。ここのマグロも、やはりオレガノで風味づけ。ほんのりにんにくをきかせてふっくらグリルしていました。しっとりした焼き加減にやさしい塩加減。魚のこと、皆さんよくわかっていらっしゃる。それをごはんや野菜と一緒に食べるのがおすすめの作法だと聞いて、きょろきょろしながらまねっこして食べました。なんてことない食べ方だけど、日本人である私にとっては、野菜と、グリルした魚と、米を混ぜていただくってなんか非常に新しい。野菜と魚と米の三位一体、これいいじゃん! しかもよく見ると、皿にのっている素材は日本でも手に入るものばかり。

マデイラには魚の食べ方の新しいヒントがあちこちにあって、嬉しくなって浮かれ気味の私。魚介類好きの土地にはワルはいないってことなのか、私が単純ってことなのか。しかもこの定食が5ユーロほど。マデイラ、ちょっと住んでみたい。私にできる仕事はあるかな。

この魚のグリルがすっかり気に入ったので、昨年11月に旅から帰ってすぐ、マグロの代わりにめかじきを使っためかじきのオレガノグリルとタイムごはんをご紹介しました。そして今回は、レブラメント市場のフェルナンド直伝、アジのマデイラ風グリルをご紹介します。

まさにこれから夏にかけてがアジの旬。どんどんおいしく、そして安くなる。ちなみに、この料理に使ったふっくら太ったアジは、都内の鮮魚店で1尾100円でした。旬のものは味も良くて安いし栄養豊富だから、食べない手はない、食べるべきです。いつもの刺身や塩焼きとはひと味もふた味も違うマデイラスタイル、きっと好きになりますぞ。それと、アジはフライパンで焼きます。クッキングペーパーを使うので後片付けも瞬時に終わります。皮が張り付いた焼き網の掃除とか、面倒じゃないですか。フライパンならその必要がありません。ね、なんか簡単でいいでしょ。

では、新鮮なアジを使って、パパッと作っていきましょう。

Menu do dia 本日のメニュー

「アジのマデイラ風グリル定食」

材料 1人分
アジ 一尾
トマト(やや硬めを推奨) 1個
レモン 1/2個
ニンニク 1片
ドライオレガノ 大さじ1/2
ワインビネガー 大さじ1
オリーブオイル 小さじ1
塩 適量
ごはん(押し麦やもち麦を2割ほど入れると、ぱらっと軽くておすすめ) 好きなだけ

つくり方
ニンニクは粗みじん切り、トマトは小さめに乱切りする。アジは頭と内臓、尾に近いところに張り付いている硬いゼイゴを取り(買った店で処理してもらうに限る。後片付けもなく断然ラク)、両面に1㎝以上、深めに飾り包丁を入れる。こうすると中まで早く火が通る。20㎝以上上からまんべんなく両面に塩をふって10分ほど置き、浮いてきた水分をキッチンペーパーでしっかり拭き取る。臭みが軽減し、塩味も入る。

ドライオレガノと塩(オレガノ大さじ1/2に対し塩小さじ1/2)を軽く合わせ、

アジのお腹にまんべんなくしっかりまぶす。みじん切りのにんにくも少々詰める。

両面の飾り包丁の切れ込みに、にんにくをぐいぐい詰める。

これをフライパンで焼く。フライパンにクッキングペーパーをしき、中火で温める。温まったら油(分量外)を軽くひき、アジのお腹をむこう向きに置く。盛り付けるときに上になる面から先に焼くと、仕上がりがこんがりおいしそうになる。

火を中弱火に弱め、約10分焼く。この間、絶対にアジを触らないこと。ここがこの料理の一番のコツ。まだかなーってちょいちょい触ると、身が崩れるので、タイマーをかけて放置するぐらいのイメージで。焼き時間は魚の大きさに合わせて調整、今回は長さ約20㎝で10分焼くと皮パリパリで中までふっくら。ちなみに、表面が少しぐらい焦げた方が安心。これからの季節は太ったアジが出回るので、多少の焦げより中までしっかり火を入れる方が大事。

その間に付け合わせのトマトを用意。ボウルにトマト、塩少々、白ワインビネガーとオリーブオイルを加えて軽く混ぜる。好みでにんにくのみじん切りやイタリアンパセリを加えると、風味や味に幅が出る。これを冷蔵庫でしっかり冷やす。トマトひんやり、アジあつあつ、ごはんぬるめが混ざって、そこにレモン汁をじゅっと絞るとこれからの夏にぴったりの味になる。

アジは10分して香ばしい香りがしたら反対に返す。フライ返しなどを使っても。しっかり焼けていれば、身が崩れることはないが、うっかり菜箸などで身を刺さないように注意。

返したら反対の面を5分ほど焼いて完成。

ちなみに、クッキングペーパーをしいて魚を焼くと、片付けが夢のように簡単。ペーパーを取れば、フライパンはきれいなまま。皮がくっついた焼き網の後片付けってちょっとした憂鬱だけど、それもなし。これで焼き魚のハードルもかなり下がる。

ご飯を盛った皿にアジを置き、トマトを添えていただきましょう。

この定食の推奨食べ方は、まずアジは中骨を外して皮ごと身をほぐし、冷たいトマトとご飯と一緒に軽く混ぜ、レモンをたっぷり絞って全部一緒に口の中へ。

トマト以外にも、たとえばきゅうりやセロリ(葉もうまい!)を乱切りしたり、玉ねぎスライスを加えるなど、好きな野菜をプラスしてみてください。紫玉ねぎなんかを少し加えると、一気に洒落た感じになります。辛みが欲しい人は、ハラペーニョソースなど酸味のあるホットソースを振ってもいいですね。ビールはポルトガルのビールでも、日本のビールでも、お好きなものを。

それでは、泡もうんまいすっきりビールと、ハーブ香るアジの爽やか定食で、良い週末を!


『ムイト・ボン!ポルトガルを食べる旅』発売記念トークイベント
6月15日(土)18:00~ 湘南 蔦屋書店
特典 おすすめのワインとプチおつまみの試食
申込方法 電話/0466-31-1510(湘南蔦屋書店代表・イベントの日時とタイトルをお伝えください) 
店頭/1号館1階BOOKカウンター
オンライン受付/湘南 蔦屋書店オンラインショップ イベント詳細・予約ページ https://store.tsite.jp/shonan/event/travel/6670-1...

6月21日(金)19:30~ 西荻窪 旅の本屋のまど
特典 おすすめのワインとプチおつまみの試食
申込方法 電話/03-5310-2627
メール/info@nomad-books.co.jp(お名前、ご連絡先電話番号、参加人数を明記してください)
【イベント詳細】 http://www.nomad-books.co.jp/

「ポルトガル食堂」
実際にポルトガル料理とワインやビールなどが楽しめる食事会を、都内で毎月開催中です。
申し込み・お問い合わせ pufu@lilac.plala.or.jp
詳細 http://badasaori.blogspot.jp/ 
7月14日(土)13:10~15:30 タスキーニャスタイル
ヴィーニョヴェルデなど爽やかなものからマデイラやポルトなどの酒精強化まで、8種類のワインを飲み比べるタスキーニャ(居酒屋)スタイル。ポルトガルの旬なおつまみ4種にごはんものまで、立食で気軽に楽しんでいただきます


人生を変えてしまうような味に会いたい!

ケイクス

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ポルトガル食堂

馬田草織

ポルトガルや南蛮絡みのエピソードが大好きな編集者・ライターの馬田草織さんが、仕事現場や旅先、日常で気になった食のサムシングと、それにちなむおつまみ&ぴったりなお酒を月替わりでご紹介していく、家飲みも外飲みも楽しむ人へ捧げる至福のほろ酔...もっと読む

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    ikazo_y 今日はこれ https://t.co/mQOPVx1GTf 17日前 replyretweetfavorite

    feilong 1件のコメント https://t.co/KX7TWHsieA 9ヶ月前 replyretweetfavorite