浅漬けの極意

今日のテーマは『浅漬け』。暑い日にさっぱり食べられ、塩の分量をきっちり計れば失敗はしません。『きゅうり』『パプリカ』『ミニトマト』3種類の浅漬けのつくり方をご紹介します。

浅漬けとは当座漬けや即席漬けとも呼ばれる野菜に塩、昆布、唐辛子などを加え、数時間置いた漬物。発酵をともなわないので、シャキシャキした食感とフレッシュな味が魅力で、油を使わないヘルシーなサラダとして楽しめます。

ポリ袋があれば家庭でも簡単にできるので、挑戦してみましょう。ポイントは塩分濃度。材料を計れば失敗することはありません。今回は塩と野菜だけでシンプルに仕上げていますが、出汁をとるときに使う昆布を漬け込む際に一緒に入れれば旨味が増しますし、生姜(千切りにする)や大葉(仕上げに混ぜる)などで風味をつけることもできます。


基本のきゅうりの浅漬

材料

きゅうり…2本(200g程度)
塩…重量の2%

*注意:浅漬けは食中毒の原因になることの多い料理です。主な原因は野菜の表面に付着している菌なのでよく洗い、気になる場合は湯通しするなどして対策してください。適切に調理すればまず問題は起きません。


1.きゅうりはよく洗い、ヘタを落として乱切りにする。


乱切りの方法についてはこちらで解説


2.袋に入れて、分量の塩をまぶし、手で軽く揉む。(Tips 1 塩の種類は気にしない)


3.皿で挟んでペットボトルなどで重しをし、冷蔵庫で3時間ほど寝かせる。2日を目処に食べきる。(Tips 2 重しをするとどういうことが起きるのか)

3時間以上冷やせば食べられます。


★レシピの解説

【Tips 1】塩の種類は気にしない

スーパーに行くと様々な種類の塩が売られており、漬物には『粗塩(漬物塩)』という専用の塩があります。ニガリ成分を含んだ塩を使うとマグネシウムやカルシウム分が野菜のペクチン分と結合するので歯ごたえがよく仕上がる、というのが定説で、メーカーのウェブサイトなどにも掲載されています。

しかし、塩の種類には特にこだわる必要はありません。水分を含んでいる粗塩は溶けやすく、馴染みやすいというメリットもありますが、野菜から水分が出るので、出来上がりにはあまり関係ありません。粗塩でも食卓塩でも家にある塩を使えばいいでしょう。

塩のなかには高価なものもありますが、普通に料理に溶かして使う場合にはその違いはほとんど味に影響しません。塩の味の感じ方は主に結晶の大きさと形に影響されるからです。

例えば食卓塩のような結晶の小さいものは塩辛く感じ、逆に高価な天然塩などの大きな結晶の塩は舌の上でゆっくりと溶けるので、まろやかに感じられます。しかし、溶かしてしまうとその差はなくなってしまうのです。

微量に含まれるミネラル分が味に影響することはないのでしょうか? これについては議論がわかれるところですが、100ccの液体に1gの塩で味付けした場合の塩分濃度は1%。微量に含まれるミネラルはさらに希釈されていて、舌が味を感じる下限(閾値)に達しないため、味には影響しません。

この連載でお馴染みのマギーキッチンサイエンスでは

「未精製海水塩は不純物として有機物や無機物を含むので、精製塩よりも複雑な風味をもつこともあるが、塩を加える食材の風味でわからなくなる程度である」

とあります。『各種食塩の調理に及ぼす影響』(松本仲子他)という日本の研究では「精製塩」「並塩」「漬物塩」「赤穂の天塩」を漬物などに用いて、比較を行なっていますがそれぞれの味に有意な差はなく、しかも一部の料理では評価が良好だったのは自然塩ではなく、精製塩でした。宇都宮大学名誉教授の前田安彦さんがかつて行なった『にがり成分の多い塩で漬物をつくる』という実験でも「それぞれの食塩の味覚、色調、歯切れに対する影響はほとんどなく、白菜漬の一部試験を除いて全く識別が不可能であった」とあります。

だからといって高価な塩に意味がないわけではありません。焼いた肉や魚の上に振るなどして溶かさずに使えば、まろやかな味わいを楽しむことができます。しかし、漬物やスープのような料理に高価な塩を使う意味はありません。ようは使い分けが重要ということです。


【Tips 2】重しをするとどういうことが起きるのか

漬物をするときの重しにはどういう意味があるのでしょうか? 野菜を切って、ただ重しをしただけでは漬物にはなりません。ためしにきゅうりに重しをしたところでなんの変化もないはずです。

きゅうりもみを作った時を思い出して欲しいのですが、野菜から水分を抜いているのは塩です。重しは空気を押し出し、塩分を含んだ野菜の水分を均等に浸透させる働きがあります。また、その際に野菜内部の空気も押し出すので、野菜が引き締まり漬物らしい食感になるのです。

つまり、重しの重量はそれほど問題になりません。もちろん、野菜を大量につける時はその分の空気を押し出す必要があるので、重たい漬物石が必要ですが、少量であれば500ccのペットボトル程度で充分です。



パプリカの浅漬

浅漬けはセロリやパプリカなどサラダに使う野菜であればおいしくできます。パプリカの場合は米酢を入れて、味を引き締めるとフルーティーな味が引き立ちます。

材料

パプリカ…赤・黄 各1個
塩…パプリカの重量の2%
米酢…小さじ1


1.パプリカは種をとりのぞき、乱切りにする。(パプリカの効率的な切り方はこちらのTips2を参照)

2.袋にパプリカ、塩、米酢を入れて軽くもみ、皿で挟んで冷蔵庫で数時間冷やす。


ミニトマトの浅漬け

ミニトマトなどのやわらかい野菜は重しをすると潰れてしまうので塩水に漬け込みます。塩水の濃度は海水の濃度、和食で用いられる「たて塩」(3%)という液体が基準です。ミニトマトを漬け込むと塩味でかえって果物のような甘味を感じるはずです。

材料

ミニトマト…1パック
水…200cc
塩…6g


1.ミニトマトはヘタをとり、よく洗う。湯むきをするか、竹串で4〜5箇所ほど穴を開ける。


2.袋に塩水とミニトマトを入れ、一晩冷やす。

きゅうりとパプリカの浅漬けを混ぜると彩りも鮮やか。一皿あるだけで、夏の食卓が華やぎます。

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樋口直哉

食の博識、樋口直哉さん(Travelingfoodlab.)が、味噌汁、ハンバーグ、チャーハンなどの定番メニューを、家庭でいちばんおいしく作る方法を紹介します。どういう理由でおいしくなるのか、なぜこの工程が必要なのかを徹底的に紹介し、...もっと読む

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    コメント

    yestarina この方の連載はおいしくなる理由が書いていて好きです 8ヶ月前 replyretweetfavorite

    yasuhiko_tanaka |「おいしい」をつくる料理の新常識 *樋口直哉さん|cakes(ケイクス) https://t.co/YPzN96ywI9 8ヶ月前 replyretweetfavorite

    bunny5567 料理に溶かす時には塩の種類が味に影響しないという話が面白い 8ヶ月前 replyretweetfavorite