低温加熱がコツ! しっとりやわらか「鶏はむ」のしくみ

連載52回目のテーマは、鶏はむ。とても簡単につくれるメニューですが、おいしく仕上げるための、塩漬けと低温加熱の原理をお伝えします。アレンジメニューとして、鶏はむにあわせるよだれ鶏風ソースもご紹介。

ここ数年、大きく消費を伸ばしている鶏胸肉。その背景にはサラダチキン(蒸した鶏むね肉を真空パックにした商品)の躍進があります。最近ではブームも落ち着いて、食卓に定着した感もあります。

サラダチキンの前にちょっとしたブームになった料理がこの『鶏はむ』です。元々は2001年にインターネット掲示板の「2ちゃんねる」に書き込まれたレシピで、ネット発祥という歴史も面白いですが、鶏胸肉を塩漬し、低温で加熱する作り方はサラダチキンとまったく同じ。ネットには様々なレシピが溢れていますが、今回は基本となるようなシンプルな作り方をご紹介します。学ぶべきは塩漬によるタンパク質の性質の変化と、加熱温度によるタンパク質の凝固の違いです。


鶏はむ(鶏ハム)

材料(2人前)

鶏胸肉…1枚(300g相当)
塩…小さじ1(6g 肉の重量の2%)
上白糖…小さじ1(3g 肉の重量の1%)

作り方

1.鶏胸肉は皮がついていたら剥ぎ、厚い部分の中心に切り込みを入れ、そこから左右に切り開いて、厚みを均一にする。(観音開きという切り方です。剥いだ皮は塩を振って焼くとおいしいです)


中心に切り込みを入れます。下まで切らないように注意。


そこから左に包丁を寝かせるようにして切り開きます。


鶏肉をひっくり返して、同じように包丁を寝かせて今度は右側を切り開いていきます。鶏胸肉が一枚に広がりました。観音開きはなにかを巻き込むときにつかう切り方です。


2.1の鶏胸肉に砂糖と塩を混ぜたものをまんべんなく振り、冷蔵庫で1時間以上(上限は24時間〜48時間までが目安)置く。(Tips 1 塩漬の原理)


鶏肉から水気が出て、身が締まったこんな状態になればOK。


3.鶏肉から出てきた水気を拭き取り、ラップで円筒形に整形し、両端を縛る。


鶏胸肉の下を持ち上げて巻き込んで、円筒形状に整形します。


ラップの両端をキャンディのように縛るときつく巻けます。しっかりと巻くと出来上がりがハムのように丸くなります。


4.厚手の鍋にたっぷりの湯(80℃〜85℃)を準備し、鶏肉を沈め、蓋をして1時間放置する。(Tips 2 やや低温で加熱する)


温度計が無い場合のお湯の温度を見分け方はこちら


5.とりだして冷ませば出来上がり。


★レシピの解説

【Tips 1】塩漬の原理

肉に塩を振ってから時間を置くと、水分が出てきます。この時、塩が肉にしみこむ『拡散』という現象が起きます。塩が浸透するとタンパク質の一部が結びつき、水分を抱え込むので、肉がしっとりします。これがハムの基本原理です。

注意点は塩が移動するのには時間がかかること。この現象を早めることはできません。肉の厚みなどの個体差を考慮して、今回は1時間と設定していますが、一般的には最低でも40分はかかる、とされています。


【Tips 2】やや低温で加熱する

沸騰している100℃の湯で鶏肉を加熱するとやがてパサパサになってしまいます。その理由はタンパク質の凝固温度にあります。
肉のタンパク質の一部は約50℃から凝固をはじめます。やがて60℃まで上昇するとさらに多くのタンパク質が凝固し、タンパク質とそれを取り巻く水分とがはっきりと分離をはじめます。65℃になると肉汁がたくさん出て、肉はあきらかに縮み、歯ごたえも強くなります。

鶏胸肉の最終的な加熱中心温度はこの60℃〜65℃のあいだ。100℃で加熱を続けるとどうしても温度が高くなりすぎ、パサパサになってしまうので、それを防ぐためには今回は80℃〜85℃に熱した湯に鶏肉を入れ蓋をし、火を止めた状態で放置しました。

レシピでは1時間としましたが、実際には湯の量、鍋の材質と形状、室温などによって大きくブレが出てきます。湯の量が少なかったり、薄いアルミの鍋を使えばすぐに温度が下がってしまうでしょう。そのためこの部分は肌感覚で憶えていくしかありませんが、「なるべく厚手の鍋を使い」「たっぷりの湯で茹でること」で、仕上がりは安定します。また薄いアルミ鍋であればバスタオルで包むなどして保温すれば厚い鍋のように温度を維持できます。色々と工夫してみるのもいいでしょう。

鶏ハムは冷蔵庫で3〜4日ほど保存がききますが、自作したものなのでできるだけ早く食べきりましょう。



【アレンジ】鶏はむのよだれ鶏風

鶏はむができていれば冷やし中華やラーメンに載せたりとアレンジは無限です。今回は辛味の強いソースをかけて、前菜にしてみました。

よだれ鶏風ソース

材料(2人前)

豆板醤…小さじ1〜
ゴマペースト…20g
一味唐辛子…好みで
サラダ油…大さじ3
醤油…大さじ2
砂糖…大さじ1
ニンニクのすりおろし…少々
ラー油…好みで

作り方

1.金属のボウルに豆板醤小さじ1、ゴマペースト20g、一味唐辛子を好みの量入れ、小鍋で熱したサラダ油を少しずつ注ぎながら混ぜる。サラダ油の温度は200℃〜210℃、薄っすらと煙が立つくらいが目安。


2.1のボウルに醤油大さじ2と砂糖大さじ1を加えてさらに混ぜ、冷ます。皿に鶏はむ、キュウリの千切り、ミニトマトなどを盛り付け、ソースをかけたら出来上がり。

<次回は6月8日(土)にカレーライスをご紹介予定です>

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おいしい」をつくる料理の新常識

樋口直哉

食の博識、樋口直哉さん(Travelingfoodlab.)が、味噌汁、ハンバーグ、チャーハンなどの定番メニューを、家庭でいちばんおいしく作る方法を紹介します。どういう理由でおいしくなるのか、なぜこの工程が必要なのかを徹底的に紹介し、...もっと読む

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    zaksim @saru_gooner いろいろ調べ始めてます。いまは田舎にいるんで、自宅筋トレしか出来ないので、ダンベル、チューブも購入しました。これ、↓ご存知かもしれませんが、簡単に作れて、美味しいです、鶏ハム。https://t.co/zKfZPzEC7o 7ヶ月前 replyretweetfavorite

    wadanuki00 「鶏はむ」制作中… 樋口直哉さんのレシピだよ… https://t.co/XJDhtD6B85 https://t.co/xdv0d0ybLx 9ヶ月前 replyretweetfavorite

    wkrnikt 樋口直哉さんの鶏ハムつくるぞ〜!ハムハム〜! https://t.co/LupJkY9IIP 9ヶ月前 replyretweetfavorite

    shogokusumure |「おいしい」をつくる料理の新常識|樋口直哉|cakes(ケイクス) 最近鶏ハムに異常なほどハマってるけどこれは良かったのでリピートします https://t.co/fqLrNjRGgT 9ヶ月前 replyretweetfavorite