野外で食べる食事には格別のおいしさがありますよね。日本ではタレにつけた薄切り肉を焼く『焼肉スタイル』も多いようですが、ここはゆとりを持って楽しめるバーベキュー(以下、BBQ)に挑戦してみましょう。
BBQのコツは下準備。ビールやワインを片手にリラックスしてつくるために、事前に段取りをつけていきます。ソースを事前につくっておき、肉をあらかじめ準備しておけば、成功は間違いなしです。
BBQはグリル調理の一つです。グリル調理はフライパンでの調理とそれほどの違いはないので、フライパンでステーキを焼いた時のテクニックがそのまま使えます。塊肉の場合は何度も裏返すというよりも転がすように全体に火を通していく方がいいでしょう。また、肉に油を塗っておくのも重要なテクニック。油が熱を伝えるので全体が均一に加熱できます。同じ温度であれば加熱時間はフライパン調理とほぼ同じですが、炭火焼きの場合は火力調整ができないので少し慣れが必要かもしれません。
牛もも肉のグリル 玉ねぎのジャム添え
■牛もも肉のグリル
牛もも肉…200g〜300g
塩…肉の重量の1%
ニンニク…1片
オリーブオイル…大さじ2
黒胡椒…適量
■玉ねぎのジャム
玉ねぎ…2個
オリーブオイル…大さじ3
塩…3g(小さじ½)
ワインビネガー(または酢)…50cc
砂糖…25g
塩…1.5g(小さじ1/4)
ワインビネガー…大さじ1
作り方
1.玉ねぎのジャムをつくる。玉ねぎ2個は薄切りにして、耐熱ボウルに入れ、オリーブオイル、塩3gで和え、ラップをかけてから600wのレンジに5分かけ、5分休ませる。休ませたら再びレンジに5分かけ、5分休ませる。取り出すときはボウルがかなり熱くなっているので注意。
ラップを取り外すときは蒸気に注意します。包丁で穴を空けて蒸気を逃してからラップを外すといいでしょう。
2.鍋にワインビネガー50ccと砂糖25gを入れて、中火で茶色く色づくまで加熱する。(Tips 1 ガストリックの科学)
3.茶色く色づいてきたらボウルの玉ねぎを加えて混ぜる。この時も蒸気がでるのでやけどに注意。
4.鍋をかき混ぜながら4分間中火で煮詰める。木べらで玉ねぎを潰すようにしてソース状にするのがポイント。煮詰まってきたら塩1.5gとワインビネガー大さじ1で味をととのえる。冷ましてから密閉容器に入れておく。
5.牛もも肉はワインの瓶などで叩いてから、重量の1%の塩を振る。潰したニンニク1片、オリーブオイル大さじ2を絡めて30分以上置く。(常温なら30分、冷蔵庫なら数時間置き、焼く前に30分間常温に戻す)(Tips 2 塩はいつ振るのが正解?)
6.BBQグリルの炭火か、ガスコンロの強火で熱したグリルパンで肉を焼いていく。ガスコンロを使う場合は強火のままだと温度がやや上がりすぎるので、中火に落とした状態で、1分間ずつ転がしながら焼くと効率的に火が入る。次の工程で肉を休ませているあいだに中心温度は2〜3℃ほど上がるので、この時点では中心温度52℃〜54℃が目安。写真の大きさで計6分間で目標温度に達する。
温度計がなくても大丈夫。触って肉に弾力が出れば火が通っています。目安を知るためにはまず左手の親指と中指でOKサインをつくります。次に右手の人差し指で左手の親指の付け根(てのひらの膨らんだ部分)を触った時の感触がミディアムです。(左手の親指と人差し指で輪をつくった時の付け根の感触がレア、薬指でミディアムウェルダン、小指でウェルダンです。力を入れてしまうと意味がないので、力を抜くのがポイント)
7.皿の上で肉を5分間、休ませる。(この時、皿の上に裏返した小皿を置き、その上で休ませると出てきた肉汁で肉が湿らない)
8.切り分けて、黒胡椒を振り、ソースと塩を添える。
★レシピの解説
【Tips 1】ガストリックの科学
甘酸っぱい玉ねぎのジャムは肉料理のソース兼付け合せです。ポイントは酢と砂糖を焦がしたもの。これをフランス料理の世界でガストリックといいますが、酢と砂糖を混ぜてから焦がすことで複雑な風味を引き出します。
そのメカニズムはこうです。通常の砂糖(ショ糖)を加熱するとプリンなどに使うカラメルになります。しかし、酢を加えて加熱することでショ糖が果糖+ブドウ糖に分解し、酢に含まれるわずかなアミノ酸とも反応し、メイラード反応を起こします。これが単純なカラメルとは違う、複雑な風味を生み出すのです。
玉ねぎに多く含まれる硫黄化合物は焼いた肉の「肉っぽい香り(meaty flavor)」を引き出します。だから、古典的な料理には玉ねぎと肉の組み合わせが多いのです。そこにガストリックのメイラード反応をプラスすると味わいがさらに深まります。
【Tips 2】塩はいつ振るのが正解?
「塩はいつ振るか?」ということがBBQでよく議論になります。塩を振るタイミングは肉の性質によって使い分けることが肝心です。写真は同じ牛もも肉(ランプ)ですが、左は黒毛和牛のランプ肉、右は今回使用したアメリカ産牛もも肉です。
和牛の方は赤みのなかに細かい脂肪が交雑しているのがわかります。脂肪は焼いた後も縮まらず溶けるだけなので、こうした肉は加熱後もやわらかさを保ってくれます。しかし、アメリカ産の牛もも肉のように脂肪の少ない肉は加熱後に固くなりがちです。
その問題を解決するためにここでは肉を叩きました。肉を叩くと筋繊維が切れたり、傷ついたりして、繊維感が弱まるので、肉がやわらかくなります。叩くときは肉が薄くならないように側面を叩くようにしましょう。
肉を叩く効果はそれだけではありません。筋繊維をまとめる結合組織に傷がつき、タンパク質が外に出てきます。そのタンパク質が肉の水分を吸うので、結果的に焼き上げた肉がジューシーになるのです。弱点は肉の食感が変わってしまうこと。なのでもともとやわらかい肉(例えばさきほどの和牛のような)の場合は叩く必要はありません。
今回はさらにやわらかくするために加熱する30分以上前に塩を振りました。肉に塩を振ると「塩の脱水作用で肉から水分が出てきてしまうため、肉に塩を振ってはいけない」という人がいます。しかし、塩を振ってからと、塩を振らずに焼いた場合を比較すると、焼き上がりの重量には差がないばかりか、むしろ塩を振ってから焼いた方が多い場合すらあります。なぜでしょうか?
たしかに肉に塩を振ると水分が出てきますが、それは加熱によって失われる自由水です。塩を振ることでタンパク質の一部が外に出てきて、それが肉の水分と結合します。結合水は加熱後も蒸発しないため、結果的にジューシーになるのです。重要なことは塩を振ってから充分な時間を置くこと。そうすれば表面に浮いてきた水分が再び肉に吸収されるので、肉がパサつくことはありません。
デメリットはまたしても肉の食感が変わること。塩を振るとタンパク質の一部が変性し、言ってみればハムのような食感になるため、それが嫌だという人もいます。そのため、はじめからやわらかい肉(しつこいようですがさきほどの和牛のような)は事前に塩を振る必要はなく、仕上げに振りかけるだけでもいいでしょう。しかし、安価な肉をおいしく食べるためにはあらかじめ塩を振っておくことはかなり効果的です。
【注意】グリル調理には筋の少ない部位を
最近、スーパーなどではステーキ用として肩ロース肉が販売されています。肩ロース肉は中心に複雑な筋が入っているので、ステーキには不向き。シチューなど煮込み料理にするかバーベキューソースを絡めて低温のオーブンで長時間焼くような料理に向いています。グリル料理には筋の少ない部位(もも肉以外にもサーロインやリブロース、ヒレ、ハラミなど)を使ってください。
豚バラ肉のBBQ
豚バラ肉をBBQにすることもできます。その場合はあらかじめ火を通しておくのがコツ。
たっぷりの水を鍋に張り、弱火でコトコト、アクをとりながら1時間半ほど煮て、そのまま冷まします。
火加減に注意して、あまり沸かさないようにしてください(理由はビーフシチューの回を参照)。また、口径の大きな鍋を使うのもコツ。表面積が大きければ蒸発される気化熱によって煮る液体の温度が下がり、やさしく加熱することができるからです。やわらかい火加減で煮れば、やわらかな味になります。
仕上げにBBQグリルかグリルパンで表面がカリッとなるまで加熱すればOK。焦げ色がついたら塩を振りますが、豚バラ肉には脂があるのでやや多めに振ってもおいしいです。
相性のいい粒マスタードを添えて。さきほどの玉ねぎのジャムもよくあいます。あとは簡単なサラダ(僕のnoteではケールのサラダのレシピを紹介しています)を添えて、ワインと一緒に楽しむだけです。
<次回は5月11日(土)に更新予定です>