素材の風味が際立つシンプル筍ご飯

45回目のテーマは、いまが旬の「タケノコご飯」。サツマイモ、栗など炊き込みご飯全般に応用がきく考え方をご紹介します。ポイントは出汁のきかせ方とお米への吸水のさせ方。ご飯の甘みとタケノコの風味がいきたタケノコご飯が作れます。

旬の食材を味わうことは料理の楽しみですが、慣れない食材は購入することをためらいがち。タケノコはそんな食材の一つではないでしょうか?

タケノコの最盛期は4月から5月のGWの手前くらいまで。この時期はスーパーでも生のタケノコが出回ります。自分で生から茹でるとひと味もふた味も違いますが、そこにハードルを感じる方には新タケノコの水煮を使うのがおすすめです。

今日はタケノコご飯をつくりながら、炊き込みご飯のコツを解説します。考え方さえわかれば夏はトウモロコシやショウガ、秋にはサツマイモや栗、冬は牡蠣や大根など自由自在。上手に炊けたタケノコご飯からはトウモロコシのような甘い香りがして、かすかに残るほろ苦さが春を感じさせてくれるはず。

この連載の第一回でご飯の炊き方を解説しましたが、炊き込みごはんはその応用。注意点は調味料を加えるタイミングです。それではさっそくつくってみましょう。


タケノコご飯

材料(2人前)
タケノコ…200g(水煮1パック)
米…2合(300g)
出汁…400cc弱が目安で炊飯器の目盛りにあわせる
 昆布…10g
 鰹節…ひとつかみ
醤油…大さじ1
(好みでえんどう豆(グリーンピース) 6房〜)

作り方

1.出汁をとる。鍋に600cc〜800cくらいの水をとり、昆布を入れて中火にかける。鍋底に細かな泡が浮いてきたら(およそ70℃)、火を止めて15分以上置く。
*昆布と鰹節出汁をおいしく引く秘訣を知りたい方はこちら


2.昆布をとりだし、再び中火にかける。今度は底の泡が浮かんできたら(およそ80℃)火を止め、鰹節を加えて1分間置き、ザルなどで漉す(Tips 1 炊き込みごはんには薄めの出汁を)。冷ましてから使う必要があるので、急いでいる場合は氷水に当てるなどして冷やす。


3.お米はザルを使って研ぎ、濡らしたクッキングペーパーか布巾をかぶせて30分〜1時間吸水させる。(Tips 2 米は事前に浸水させておく)


4.炊飯器にお米を入れて、醤油を大さじ1加え、少なくとも常温まで冷めた出汁を炊飯器の目盛りまで注ぐ。(調味料を先に加えると水分調整がしやすい)


5.お米の上に半分に切って薄切りにしたタケノコ、えんどう豆を散らし、通常通りに炊飯する。


6.炊き上がったら切るように混ぜる。


★レシピの解説

【Tips 1】炊き込みごはんには薄めの出汁を

以前に紹介した出汁のとり方の応用です。タケノコには旨味がないため、鰹節と昆布の合わせ出汁を使ったほうがおいしくできますが、もちろん昆布出汁でも、あるいはそれも面倒という場合は水を使っても同様につくることができます。ただ、水だとさすがに味が弱いので、顆粒だしを小さじ1/2ほど加えて補ったほうがいいでしょう。

以前、紹介した出汁の配合はなんにでも使える万能出汁でしたが、炊き込みごはんはあまり出汁の味を効かせすぎるとくどく感じます。だから、今回は鰹節の量を控えた薄めの出汁をとり、素材(この場合はタケノコ)の風味を生かします。

出汁を冷やしておくのもコツ。熱い出汁を注ぐと湯炊きの状態になり、お米に芯が残ったりします。余裕があれば事前に準備して冷蔵庫で冷やしておくといいでしょう。

【Tips 2】米は事前に浸水させておく

炊き込みごはんは調味料の入った出汁で炊飯しますが、調味料には米の吸水を妨げる働きがあるので、先に米に水分を含ませておくのがポイントです。

ここでは連載第1回の『ご飯の炊き方』では採用しなかったざる上げをとりいれています。ザル上げをすることで米の吸水状態を一定に揃えることができるからです。とはいえ、ザル上げは以前述べた通り、米が乾燥し割れるリスクがあります。必ず、濡れた布巾やキッチンペーパーで乾燥を防ぎ、丁寧に扱ってください。

出汁の量をきちんと計量することが炊き込みご飯を上手に炊くコツ。炊飯器に材料を入れるときは先に調味料を入れてから、出汁を注ぐようにすると水分をきっちりと計ることができます。

調味料は今回、醤油だけしか入れていません。この分量は他の料理書に掲載されているレシピよりもかなり薄味。材料を極限まで削ることでご飯の甘みとタケノコの風味を味わえると思います。タケノコご飯はご飯を味わうものでもあるので、あまり濃い味は考えものです。
もちろん「薄すぎる!」という方は〈醤油を薄口に変える〉か〈塩を少量補う〉などして調整してください。また、「炊きあがったご飯がやわらかすぎる」という場合は出汁を注ぐ前に酒を大さじ1加えるといいでしょう。酒はご飯を引き締め、コシを出す働きがあるとされているので、効果的です。


生タケノコを茹でる

水煮たけのこを使ってもいいのですが、生のたけのこは今だけの特権です。安価で売られているので、ぜひ挑戦してみてください。

タケノコを調理する上で課題になるのは「アク」に由来する「エグミ」の処理です。昔ながらのアク抜き方法は、

たけのこは皮に切り込みを入れてまるごと、米ぬかと唐辛子を加えたたっぷりの湯で一時間ほど茹で、一晩そのまま冷ます

というもの。この昔ながらの方法は個人的には現代の家庭にはそぐわないと思っています。そもそもタケノコをまるごと茹でられる大きな鍋がない可能性もありますし、ぬか漬けを常備している時代ならいざしらず米ぬかがない場合もあります。

そこでタケノコは泥を落とし、まるごとではなく、切って茹でましょう。切って茹でてもまるごと茹でても味に大きな差はありません。もう一つ付け加えると唐辛子にはなんの意味もないことがわかっているので、加える必要はなし。

米ぬかもないのであれば入れなくても大丈夫です。そもそも米ぬか自体にアクの成分をなんとかする力はありません。

タケノコのアクの正体はホモゲンチジン酸とシュウ酸という成分で、問題はこのホモゲンチジン酸の方です。ホモゲンチジン酸はタケノコに含まれるチロシンというアミノ酸が酵素によって分解されたもの。酵素は収穫した瞬間から働き出すので、なるべく早く茹でる必要があります。

それではなぜ、米ぬかを使うのが常識なのでしょうか? それは米ぬかがアルカリ性の食材だからでしょう。実際、タケノコの水煮を製造しているメーカーでは重曹を使ってタケノコを茹でていますが、アルカリ性で茹でることでタケノコの組織が早くやわらかくなり、その分アクがよく抜けるのです。

つまり、アルカリ性の物質がアクをどうにかしているわけではなく、あくまでアクを水に溶けやすくしているだけということ。だから、米ぬかがなければ重曹で茹でてもいいですし、水でも別にかまわないのです。

ちなみにタケノコのあく抜きに関する研究というポスター発表によると10%米糠、0.3%重曹、50%牛乳、アルカリイオン水、1.75%そば粉(そば湯)でタケノコをそれぞれあく抜きをした結果、官能評価ではえぐみの強さに差は出なかった、とのこと。

差が出ないのであれば米ぬかを使う理由はありません。米ぬかを使わなければ洗い物も楽ですし、小さく切ってから茹でれば15分〜20分ほどで食べられる状態になるのもメリット。根本に串がすっと刺さるようになったら、この段階で味見をします。この時「エグみが強すぎるな」と思ったら、水を捨ててもう一度新しい水で茹でればアクはさらに抜けます。

また、僕のnoteでは昆布を入れた茹で方を紹介していますが、旨味を足すことでもエグみは緩和されます。ただ、タケノコはエグみも魅力のうち。気楽に茹でてみてください。

<次回は4月13日(土)に更新予定です>

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この連載について

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おいしい」をつくる料理の新常識

樋口直哉

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    コメント

    byyriica 【読んだ】 6ヶ月前 replyretweetfavorite

    mitsuparabbit たけのこの下ごしらえはもらってすぐでないと!って一昨日の夜やったのだけど、今晩たけのこごはんにしようかな、ということで。 → 10ヶ月前 replyretweetfavorite

    ymkkym 米ぬかも唐辛子もおまじないやったんか 笑 11ヶ月前 replyretweetfavorite

    yakuwa_nouen #Yahooニュースアプリ 11ヶ月前 replyretweetfavorite