大人から子供まで幅広く愛されるメニューの『鶏の唐揚げ』。どんな風に揚げてもおいしいメニューですが、下味の配合や粉の選択、揚げ方など様々な作り方があります。1月に刊行された僕の料理本『新しい料理の教科書』(マガジンハウス)にもベーシックなレシピを掲載していますが、それは「家庭的な唐揚げ」の作り方でした。
家庭的な唐揚げとプロの唐揚げの違いはなんでしょうか? まず家庭の唐揚げに求められるのは子供から大人まで受け入れられる〈やわらかな食感〉と〈冷めてもおいしいこと〉。家庭では食事時間がずれることもままあり、できたてを提供できないこともあるので、おいしさを長持ちさせる必要があります。
この課題を解決するには〈下味に水分を入れること〉と〈粉を2種類〉使うことです。このスタイルでつくった唐揚げはお弁当にもオススメ。
一方のプロの唐揚げに求められる要素は肉の持ち味を100%生かすこと。もちろん、表面はカリッとクリスピーでなければいけません。今回は鶏のポテンシャルを100%引き出したプロスタイルの唐揚げをご紹介します。
それではまず家庭的な唐揚げの作り方から。
家庭的な唐揚げ
鶏もも肉…280g〜300gくらい(1枚)
醤油…大さじ2
酒…大さじ2
にんにく…1/2片(すりおろす)
小麦粉…35g
片栗粉…適量
揚げ油…適量
作り方
1.鶏もも肉は1口大(2.5cm〜3cm角)に切る。(Tips1 一口大とは?)
2.切った鶏もも肉が入ったボウルに、醤油、酒、にんにくのすりおろし少量を入れ、軽く混ぜる。(Tips2 下味に酒を使ってジューシーに)
3.2のボウルに小麦粉を入れて、さっくりと混ぜる*)。フライパンに高さ1cm〜1.5cmくらいに植物油を注ぎ、中火にかけて揚げ油とする。
*料理用語で小麦粉と水分を混ぜ合わせるときは<さっくりと混ぜる>という表現を使います。これは混ぜすぎないようにざっと混ぜるという指示です。粉類を扱う際には多出するので憶えておきましょう
4.鶏肉の表面に片栗粉をまぶし、フライパンに入れていく(Tips3 小麦粉と片栗粉)。温度は泡が立つくらい(130〜140℃*)で、中火のまま、2分間加熱する。表面が固まるまでは触らないこと。
*濡らしてから水気をふき取った菜箸を油にしずめ、箸先から細かい泡が立つくらいの温度
5.裏返して火を弱火に落とし、1分間、加熱する。表面が固まったら一度バットにとりだして、3分間休ませる。フライパンが小さい場合は鶏肉を何度かに分けて揚げるとよい。その場合は鶏肉を休ませているあいだに、次の鶏肉を揚げていく。
6.揚げ油を強火にかけて、今度は高温(180℃*)で鶏肉をもう一度揚げる。表面の水分を飛ばすイメージ(Tips4 二度揚げでカリッと仕上げる)。こんがりとした揚げ色がついたら(目安は1分)とりだし、油を切る。器に盛り付ける。
*濡らしてから水気をふき取った菜箸を油にしずめ、全体から勢いよく泡立つ温度
★レシピの解説
【Tips1】 一口大とは?
料理書によく一口大という言葉が出てきます。口の大きさなんてみんなバラバラじゃないか、とへそ曲がりな人は思いますが、日本料理では一口に入る大きさは1寸(約3cm)が基準。例えばお刺身もこの大きさが基準になっています。
逆にタケノコなど噛んで食感を味わって欲しい食材は一寸五分(約5cm)に切り、噛んで食べてもらうようにします。切るところから食感のデザインははじまっているのです。
【Tips2】下味に酒を使ってジューシーに
下味に酒を使ったのはジューシーな仕上がりにするためです。鶏肉を揚げると水分が蒸発しますが、あらかじめ酒の水分を吸い込ませることでそれを補うことができ、結果としてジューシーに仕上がるのです。水でもいいのですが、アミノ酸が豊富な酒を使うと贅沢に仕上がります。また、酒を使うことでアルコールが肉の繊維のあいだに入り込むので、鶏肉がやわらかくなります。
【Tips 3】小麦粉と片栗粉
唐揚げの衣には小麦粉を使う場合と片栗粉を使う場合があります。揚げたてを食べるなら片栗粉、時間を置くなら小麦粉と憶えましょう。
この二つの材料はともにデンプンを主成分としたものですが、小麦粉にはタンパク質が含まれているのが特徴。このタンパク質が衣のふっくらさと香ばしさをもたらします。一方でカリカリ感の持続力は片栗粉に劣ります。
片栗粉は純粋なデンプンで、カリッと仕上がるのが特徴です。ここでは小麦粉をあらかじめまぶしてから表面に片栗粉をまぶすことで、小麦粉の衣で鶏肉の水分を吸収させ、片栗粉でカリッとした食感を出しています。
【Tips4】二度揚げでカリッと仕上げる
一度目の揚げる工程で鶏肉を取り出した後も、表面の熱が内側に移動し、加熱が進みます。予熱を使って調理することで鶏肉に火が通り過ぎるを防ぐわけです。
一方で内側の水分が外側に移動するわけですから、表面はしっとりとした状態になります。二度揚げすることでこの外側の水分が飛び、カリカリに仕上がるのです。
さて、次はプロの唐揚げです。
プロの唐揚げ
鶏もも肉…300g
醤油…1/3カップ
片栗粉…適量
揚げ油…適量
作り方
1.鶏肉は4cm角に切り、醤油に5分間浸し、ザルなどにあけて水気を切る。
2.スプレーボトルなどを使って、片栗粉に水気を含ませる。ややしっとりするくらいが目安。(Tips1 片栗粉に水分を含ませる技)
3.鶏肉の皮を外側にするようにして成形しながら、表面に片栗粉をしっかりとつける。
4.150℃の油に入れて、1分間待ってから、裏返しながらさらに2分間揚げる。家庭の唐揚げに比べて油の量はやや多め。全体が浸る程度を目安にする。
*油の量を増やすことで温度が安定し、全体から均一に加熱することができます
5.一度とりだして4分間休ませる。
6.休ませているあいだに揚げ油の温度を185℃まで上げる。二度目の揚げは1分間〜2分間ほど。表面がカリッとして、きつね色になるまで揚げる。器に盛れば出来上がり。大きなピースと小さめのピースがあるので、大きいものを下にして積み上げるようにする(結果として蒸らし時間が長くなり、上手に火が通る)。
★レシピの解説
【Tips1】片栗粉に水分を含ませる技
片栗粉にスプレーボトルなどで水分を含ませるとカリカリ感がまします。片栗粉に水分を含ませると局所的に塊ができ、油に入れるとそこから水分が抜け、ガリッとした衣になるのです。
家庭的な唐揚げとプロの唐揚げの違いは見た目で一目瞭然。プロの唐揚げは香ばしさとガリッとした表面が魅力。水分を添加していないので、カリカリ感が強調されるのです。
自分自身、料理店で働いた経験がありますが、一般的に高級店とされる店の料理ほど材料はシンプルです。つまりその分、素材の質と技量が問われるということ。
また、今回の場合でいえば下味にたっぷりと醤油を使いますが、これは再利用できないので、その分だけコストがかかります。しかし、こうした使い方で味の差が出ることもたしか。上質な鶏肉を使い、できたてを食べるならすごくおいしいレシピだと思いますので、ぜひお試しください。
<次回は3月23日(土)に更新予定です>