料理とは『温度をコントロールすること』ですが、今回のテーマである『冷凍』もその一つ。冷凍という概念をマスターすると、食材を余らせたり、無駄にしたりということが少なくなります。
ところが、この冷凍。活用できる人とそうでない人がはっきりと分かれる技術です。上手に使うには最低限の知識が必要だからでしょう。
そこで今回から何回かのシリーズで〈冷凍〉について、説明していきます。最初のテーマは『野菜の冷凍』です。
野菜を上手に冷凍するために覚えておきたい2つのこと
その前に冷凍とはなにか、を復習しておきましょう。
冷凍とは食品を-18℃以下にすることです。日本の冷蔵庫についている冷凍庫の温度は工業製品に定められたJIS規格によって、-18℃以下に設定されていますが、この温度の根拠は微生物が活動できず、安全が保たれるからです。冷凍することにより食品の保存期間は飛躍的に伸びます。
ただ、肉や魚などは家でも比較的簡単に冷凍できますが「野菜の冷凍は難しい」と感じる人も多いのでは? その理由は食品に含まれる水分にあります。
試しに冷凍庫で青菜を凍らせてから解凍すると、こんな風にしんなりとしてしまいます。冷凍した食品を解凍すると元の食品とは性質が変わってしまうのです。
左が冷凍前、右が解凍後の青菜
青菜はなぜ、やわらかくなってしまったのでしょうか?
これには二つの理由があります。1つ目は物理的な理由で、冷凍をすることで青菜のなかの水分が凍り、できた氷の結晶が細胞膜や細胞壁を傷つけてしまうからです。細胞膜や細胞壁が壊れることでやわらかくなるのは、原理的には加熱をしたのと似た状態。
「かぼちゃやニンジン、アスパラガスやブロッコリーといった野菜を解凍するとグニャグニャになってしまう」
という声を聞きますが、これは言ってみれば加熱のしすぎのような状態です。それを避けるためにはあらかじめて野菜を小さく切ってから、冷凍すること。早く凍らせることができれば氷結晶が小さくなるので、食材に与えるダメージを減らすことができますし、やわらかくなってしまう繊維をあらかじめ断ち切ってしまえば食べるときに気になりません。
ちなみに工業用の冷凍設備ではできるだけ早く-40℃ほどまで温度を下げていますが、その理由はできるだけ早く、低い温度で凍らせることで氷の結晶が小さくなり、食品に与えるダメージが少なくなるからです。
解凍する時にも氷結晶には注意が必要です。なるべく早く解凍するか、氷の結晶が大きくならない氷点近くの温度で解凍するのがベター。
もう一つの理由は化学的なものです。水分を凍らせるとそこに含まれる酵素などが一部で濃縮され、保存中や解凍中に反応を起こし、色が悪くなったり、味が落ちたりします。そのため、野菜を冷凍する場合には事前に軽く火を通す=ブランチングという処理を施すことが一般的です。
左が生の状態で、右がブランチング(沸騰した湯で1分間加熱したもの)
さきほど並べた野菜も軽く茹でて酵素を失活させてから冷凍すると、色が悪くなりません。これらの野菜を冷凍しておけばスープや味噌汁を作るときには便利です。もちろん、前述の氷結晶による物理的な影響は受けるので、硬めに茹でておくのが原則。また、解凍速度を早めることでやはりダメージを減らすことができるので、凍ったまま調理するのもコツです。
氷結晶と酵素反応。この二つを理解すれば冷凍は様々な料理に応用できるのです。
冷凍野菜で火を使わず簡単おひたし
冷凍、解凍をすることで加熱をしたのと似た状態になることを利用して、『小松菜のおひたし』を作ってみましょう。
小松菜…1束
醤油…適量
炒り胡麻…適量
作り方
1.小松菜は根元に十字に切り込みを入れて、よく洗う。4cmを目安に切る。
2.保存袋に入れて、冷凍する。(冷凍庫に入れる際はアルミのバットの上に載せると早く凍ります)小松菜を平らに伸ばしておくと、必要な分だけ折って使えるので便利。
3.食べる分だけ、冷蔵庫で解凍する。器に盛り付けて、適量の炒り胡麻と醤油をかける。
夜のうちにぱきっと折って、冷蔵庫に入れておけば、朝には食べることができます。火も使わないので手軽ですし、加熱によって湯に味が抜けないというメリットもあります。
もうひとつの特徴はカラシに似た風味。非加熱のため、小松菜の酵素が失活しないので、アブラナ科の野菜特有の風味が強く出るのです。他に水菜、白菜の白い部分、キャベツ、チンゲン菜なども同様の調理で、おひたしにできます。キャベツは小松菜と同様に酵素が破壊されないので、ピリッとした強い風味が残るでしょう。
ただし、ほうれん草のようなアクがある食材はやはり湯通し(ブランチング)してから冷凍するのが無難です。冷凍しておけば小松菜と同じように解凍するだけでおひたしや味噌汁、炒めものなどに活用できます。保存期間の目安は2週間ですが、冷凍庫の開けしめなどの温度変化の影響を受けるので、一概に言い切れないのが難しいところ。早く使い切るに越したことはありません。
冷凍する際の注意点は袋をきっちりと密封することです。というのも冷凍庫のなかは乾燥気味。長時間、食材の表面が乾いた空気にさらされると〈冷凍焼け〉という現象を起こすことがあります。冷凍焼けとは冷凍した食品内の水分子が直接気化してしまうこと。いわば局部的な乾燥で、そうなってしまうと硬くなり、風味も落ちてしまいます。今は便利なジッパー付の袋があるので、上手に活用しましょう。
冷凍野菜は素早く解凍させるのがいい
市販の冷凍野菜を使う場合も、氷結晶が食材に与えるダメージを考慮すると調理工程が変わります。便利な冷凍かぼちゃを使って、甘辛煮をつくってみましょう。
冷凍かぼちゃ…350g
水…200cc
砂糖…大さじ2
醤油…大さじ2
塩…1g
作り方
1.鍋に水と砂糖を入れ、強火にかける。沸騰したら弱火にし、皮を下にした冷凍かぼちゃを並べる。
2.2分間、加熱したら、醤油大さじ2と塩1gを加え、落し蓋をしてそのまま5分間煮る。
3.串がすっと刺さるくらいになったら火を止め、冷ます。30分以上放置し、皿に盛り付ける(もしくは保存容器に移して、冷蔵庫へ)
通常のかぼちゃの煮物は水から加熱しますが、冷凍かぼちゃの場合は沸いたところから加熱をはじめます。なるべく早く解凍することで、食材へのダメージを減らすことができるからです。これは他のすべての冷凍野菜に共通するコツです。
冷凍→解凍によってすでに組織の一部が壊れ、加熱したのと似た状態になっているので、生の状態から煮物をつくるよりもずっと短時間の加熱で調理することができます。冷凍による状態変化を欠点ととらえずに、それを活かすことができれば野菜を短時間で調理することもできるのです。
次回からは具体的に素材別に冷凍法をご紹介します。
<次回は3月2日(土)に更新予定です>