チョコレートはパリパリしていますが、口に入れるとすぐに溶けていく不思議な食べ物です。発酵と焙煎によって生まれる風味は複雑で、ハマる人が多いのも頷けます。
チョコレートの原料はカカオ豆。カカオ豆を発酵させ、乾燥したものを焙煎し、それを何度もすりつぶしていきます。カカオ豆には脂肪分が多く含まれているため(この脂肪分をカカオバターといいます)すりつぶしていくと液状になります。これはカカオ固形分をカカオバターが包み込んだ状態。それを冷やし固めたものが、チョコレートです。
チョコレートには大量生産品から高級品まで様々な種類がありますが、最近はコンビニエンスストアなどでも高品質な製品が売られるようになりました。
ところで『カカオ分70%』などと表示されているチョコレートがありますが、この意味はわかりますか? これはカカオバターとカカオ固形分があわせて70%、残りの30%が砂糖ということ。つまり『カカオ分62%』と表示があればその他の成分が38%ということです。ほとんどの場合は砂糖のほかに口溶けをよくするための少量のレシチンが加えられています。
カカオ分が多いほど、苦味や渋味も含めてチョコレートの風味が強いので、お菓子作りにはそうしたチョコレートを選ぶのがいいでしょう。
さて、バレンタインディナーのデザートにチョコレートムースはいかがでしょう? チョコレートムースは普通、溶かしたチョコレートに泡立てた卵黄や生クリームなどを加えてつくります。
しかし、今回、ご紹介する作り方はフランスの化学者、エルヴェ・ティスが考案したもので、普通の作り方とはまったく違います。材料もチョコレートと水のたった2つだけ。
必要な機材は小鍋と金属製のボウル、それに氷水です。空気が入って口溶けは軽いですが、生クリームや卵黄を使っていないので、純粋なチョコレートの味がするはず。
チョコレートムース
ビターチョコレート…100g
水…100g
今回使用したのはコンビニエンスストアなどで購入できるmeijiのTHE Chocolateコンフォートビター(カカオ分70%)とロッテのガーナブラックチョコレートです。チョコレートは混ぜることでまた違った味わいが生まれます。
チョコレートの種類は好みのものを使えばいいのですが、さきほど述べた通りカカオ分が多いチョコレートの方がデザートには向いています。
作り方
1.鍋で水を沸騰させ、火を止めたところに砕いたチョコレートを加え、よくかき混ぜて溶かす。(Tips1 チョコレートと水)
2.鍋の中身を金属製のボウルに移し、氷水を当て、生クリームを泡立てる要領で泡立て器で混ぜる。
3.チョコレートが次第にムース状にもったりしてくるので、容器に移して冷蔵庫で1時間ほど冷やし固めれば完成。
強くかき立てるほど固く、しっかりとしたムースができます。以前、「冷やし固めたチョコレートに空気が入っただけでは?」という質問を受けたことがありますが、いわゆるエアインチョコレートとは性質がまったく異なり、こちらはチョコレートの脂肪分が水中に拡散し、空気を抱え込んだ状態。つまり、ホイップクリームと同じ状態です。
盛り付ける際にはスプーンですくって、フルーツを添えるとさっぱりします。今回はいちごのスライスとダークチェリーを添えてみました。
★レシピの解説
【Tips1】チョコレートと水
チョコレート作りには水は大敵と言われています。例えば溶かしたチョコレートに少量の水を混ぜ込むと、硬いぼそぼそのペースト状になってしまいます。
液体を加えるのに硬くなるというのは不思議な現象ですが、水に溶けた砂糖粒子が、接着剤のようにカカオ固形分同士をくっつけてしまうのです。
ところがこのレシピでは水にチョコレートを加えています。お菓子作りを趣味としている人が見たら驚くかもしれませんが、さきほどの述べた通り、チョコレートに水を加えると失敗する理由は砂糖粒子でカカオ固形分がくっついて塊になるからで、もっとたくさんの水を加えると砂糖がシロップ状になるため、粘着力を失います。そうすればカカオ固形分がくっつかないので、固まらない、というわけ。
たくさんの水分を入れればチョコレートはぼそぼそに固まったりしません。この原理を知れば本格的なホットチョコレートも簡単に作れます。
超濃厚ホットチョコレート
ビターチョコレート…50g
牛乳…150cc
塩…0.2g〜0.3g(人差し指と親指でつまんだ量)
1.ビターチョコレートを刻む。
2.小鍋で牛乳を沸かし、沸騰し火を止めたところに、チョコレートを一度に入れて、よくかき混ぜる。
3.ごく少量の塩を加えて、カップに注ぐ。
隠し味にほんの少量の塩を加えています。塩は甘みを引き立てる(対比効果といいます)意味もありますがチョコレートの苦味を抑えてくれます。ちなみにこの『少量の塩を加えることで苦味が抑えられるのはなぜか?』という謎はまだ解明されていません。
この時、温めた牛乳を少しずつ刻んだチョコレートに加えるのはNG。さきほど述べた通り、少量の水分が加わると溶けた砂糖がくっつきの原因になる場合があります。必ず熱くした液体にチョコレートを加えるか、刻んだチョコレートに熱い液体を一気に注ぐようにしましょう。これは他のチョコレート菓子すべてに共通するコツです。
このレシピはチョコレートと牛乳だけでつくるので超濃厚な味が特徴。チョコレートの香りを生かした軽い仕上がりにする場合は水を加えます。とっておきのレシピをnoteで紹介しているので、ご興味があれば参考になさってください。
チョコレートを使ったデザートは難しいと一般に思われていますが、チョコレートはそれ自体がすでに完成された食べ物なので、少々のことでは失敗しません。この連載ではおなじみの調理科学に詳しいフードライター、ハロルド・マギーは「料理では50℃ほどに温めて溶かすだけだが、90℃強に熱しても大失敗とはならないことも多い。分離することもなく、撹拌せずに直火で加熱し続けたり電子レンジで温めたりしなければ、焦げつくこともない」と書いています。
チョコレートデザートは気軽につくれるうえにロマンティックな味なので、ぜひ誰かにつくってあげてください。あなたの好感度が上がる……かも知れません。
<次回は2月16日(土)に更新予定です>