シャキシャキの肉野菜炒めは、低温の湯に通してつくる!

36回目のテーマは定番の『肉野菜炒め』。簡単な料理に思われていますが、水っぽくべちゃべちゃになってしまいがち。失敗を防ぐポイントは、あらかじめ野菜を低温の湯で茹でること。肉は加熱を高温短時間で済ませることでこんがりジューシーに仕上がります。この連載もベースとなった『新しい料理の教科書』が1月17日に発売されました。

今回のテーマは『肉野菜炒め』。野菜を主役に据え、上品な塩味で仕上げました。
一般的に『肉野菜炒め』は〈簡単〉と思われていますが、じつはこれまで紹介した料理と比べると難易度はやや高め。肉と野菜という異なる性質の食材を適切に調理する必要があるからです。今回、ご紹介する技は野菜を炒める前に低温の湯に通すこと。


シャキシャキ肉野菜炒め

材料(2人前)
豚バラ肉薄切り…80g
玉ねぎ…100g(1/2個)
もやし…200g(1パック)
キャベツ…200g〜240g(1/4個)
サラダ油…大さじ1
塩…3g
砂糖…1g
醤油…大さじ½

作り方

1.玉ねぎは繊維に沿って6〜7mm厚に切り、キャベツは芯をとりのぞき、2〜3cmのざく切りにする。豚バラ肉の薄切りは5cmの長さに切っておく。塩と砂糖は混ぜ合わせておく。


2.26cm〜28cmのフライパンに湯を沸かし、火を止める。キャベツともやしを入れ、30秒間茹で、ザルで水を切る。(Tips1 低温の湯で茹でることでシャキシャキに)


3.同じフライパンを中火にかけてサラダ油大さじ1を敷き、豚バラ肉の薄切りを並べ、上に玉ねぎをのせる。豚バラ肉に焼き色がついたら裏返し、塩と砂糖の混合物を半量振り、強火にする。(Tips2 イメージとしては片面焼き)


4.2の野菜を入れて、残りの塩で味付けをする。醤油大さじ1/2を加えて、ざっくりと混ぜたらできあがり。


★レシピの解説

【Tips1】低温の湯で茹でることでシャキシャキに

野菜炒めは強火で……と思われるかもしれませんが、終始強火で調理するとやがて水が出てきて、ベシャベシャの仕上がりになってしまいます。
野菜を調理する際、鍵を握るのはペクチンの性質です。何度も紹介していますが、野菜の細胞の壁はセルロースとペクチンという二つの成分からなります。セルロースが骨組ならペクチンは壁のセメントの役割。ペクチンは80℃で溶けはじめます。

強火で調理すると野菜のなかに火が入る前に、外側のペクチンの一部が溶けてしまうので、細胞から水分が出てきて、水っぽい仕上がりになってしまうのです。
逆に弱火のまま調理したらどうでしょうか? やはり、水が出てきて、ベシャベシャの仕上がりになってしまいます。弱火でグズグズと炒めていると、今度は出てきた水分が飛ばないからです。また、フライパンの容量よりも多い野菜を入れると、上部の野菜が加熱されないため、均等に火を入れるのが難しくなります。

絶対に失敗しない方法はあらかじめ30秒ほど低温の湯で加熱する、というもの。フライパンで炒めるだけだとムラが生じやすいですが、湯なら全体を均一に加熱できます。また、ペクチンは80℃で溶けはじめますが、それよりも低い60℃〜70℃の温度では生の状態よりも硬くなる『硬化』という現象が起き、野菜がシャキシャキになるのです。冷蔵庫の野菜室から出したての冷たい野菜を火を止めた熱湯で加熱すると、この温度帯での加熱ができます。
また、キャベツともやしが温まるのでこの後の強火で炒める工程でフライパンの温度が下がらないというメリットも。野菜を炒める前に湯通しするのは中国の広東料理の技法ですが、調理科学の観点から見ても非常に合理的だとわかります。

注意点をひとつだけ。茹でる湯に塩を加えてはいけません。以前、ジャガイモを調理したときに「塩はペクチンを溶けやすくする」ということを紹介しました。野菜を炒める場合にはジャガイモを調理した時とは逆に、最後のタイミングで塩を加えるようにしましょう。


【Tips 2】イメージとしては片面焼き

低温で調理した野菜に対して、肉は中火で加熱します。メイラード反応を起こすためです。ただ、薄切り肉の場合、両面を加熱するとぱさつくので、イメージとしては片面焼きで、裏側の加熱は短時間に留めます。
野菜を加える前に火を強め、高温で野菜の表面の水分を飛ばすイメージです。肉と野菜、それぞれの調味に塩と砂糖の混合物を使っていますが、好みによって砂糖ではなくうま味調味料(グルタミン酸ナトリウム)を使ってもいいでしょう。

味付けは塩の量がポイントなので、できたら野菜と肉を一度計ってもらうとおいしくつくれると思います。うま味調味料は買っても使い切れないという場合、他にどんな選択肢があるでしょうか?
例えば市販の塩昆布にはたいていうま味調味料=アミノ酸系調味料が添加されているので、刻んで加えるというのはどうでしょう。あるいは醤油の代わりにめんつゆを使うという選択肢もあります。
もっともうま味調味料を加えると味がくどくなりがち。さっぱり上品に仕上げるなら塩だけがオススメです。

ここでは味付けを2回に分けています。はじめに肉に味をつけ、次に野菜に味をつけます。肉からは水分が出てくる心配が少ないので注意点は特にありませんが、さきほどの説明した通り、野菜に味をつけてからは加熱のしすぎは厳禁。野菜から水分が出て、水っぽい仕上がりになってしまうからです。

食べ終わった皿の底に水分が溜まっているようであれば失敗。上手につくると上の写真のように水気がまったく出ません。肉野菜炒めは簡単そうに見えますが、肉と野菜で適切な加熱温度が異なるため、おいしくつくるには慣れが必要です。

好みでウスターソースをかけると味の変化が楽しめます。この料理が上手につくれるようになると焼きそば(今後、紹介する予定です)など他の料理に応用ができます。一つの料理がつくれるようになると、五つくらいの料理が一気にできるようになる、といういい例です。

<次回は2月9日(土)に更新予定です>


忽ち重版決定! この連載noteの記事をベースに、書き下ろしレシピも加えた『新しい料理の教科書』が発売されました。ハンバーグ、チャーハンなどの定番メニューを家庭でいちばんおいしく作る方法をご紹介しています。

『定番の“当たり前”を見直す 新しい料理の教科書』

この連載について

初回を読む
おいしい」をつくる料理の新常識

樋口直哉

食の博識、樋口直哉さん(Travelingfoodlab.)が、味噌汁、ハンバーグ、チャーハンなどの定番メニューを、家庭でいちばんおいしく作る方法を紹介します。どういう理由でおいしくなるのか、なぜこの工程が必要なのかを徹底的に紹介し、...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

    コメント

    restart20141201 逆に中華の青菜炒めのように、ビシャっとスープに浸かっているものも好き。 約1年前 replyretweetfavorite

    mori_kananan |樋口直哉 @naoya_foodlab |「おいしい」をつくる料理の新常識 料理は、化学…!!! https://t.co/mHKlPNidJq 約1年前 replyretweetfavorite

    nacht_nacht_ なるほどペクチン(理解していない顔) 約1年前 replyretweetfavorite

    naoya_foodlab cakesの更新です。今日の料理はちょっとむずかしい肉野菜炒め。 約1年前 replyretweetfavorite