魚のムニエルはバターの力でしっとりする!

35回目のテーマは『魚のムニエル』。しっとりやわらかに焼き上げる調理法と付け合わせの粉ふきいものつくり方を学びます。サーモンだけでなく、ヒラメやタラなどでも同様につくれます。食の博識、樋口直哉さんによる科学的「おいしい料理」のつくり方。この連載もベースとなった『新しい料理の教科書』が1月17日に発売となりました。

『魚のムニエル』は小学校や中学校の家庭科の時間に作ったという方も多いのでは。ムニエルとは『粉屋さん』という意味で、魚や肉の切り身に小麦粉をはたいて、フライパンで焼いた料理を指します。失敗の少ない初心者向けの料理ですが、バターの性質を理解しておくと、味が格段に上がります。付け合せは定番の粉ふきいもです。


サーモンのムニエル

材料(2人前)
サーモン(切り身)…2枚
塩…魚の重量の1%
オリーブオイル…大さじ1/2
バター…30g
レモン…1/2個

粉ふきいも
 ジャガイモ…2個
 塩…適量

作り方

1.粉ふきいもをつくる。ジャガイモは皮を剥き、2.5cm角に切る。鍋にジャガイモとかぶるくらいの水、適量の塩を加えて強火にかける。沸騰したら弱火に落として8分〜10分間、竹串がすっと刺さるくらいまで茹でる。


2.鍋の湯を捨ててから、鍋をゆすりながら弱火にかけて、表面に粉が吹くまで加熱する。(tips1 粉ふきいもの原理)


3.皮をとりのぞいたサーモンに塩を振り、小麦粉をまぶす。小麦粉は両面につけてから両手ではたき、薄めにつけるとさっぱりとした味に仕上がる。(tips2 サーモンの選び方)


4.フライパンにオリーブオイル大さじ1/2とバター10gを入れ、中火にかける。バターが泡立ってきたら、3のサーモンを入れる。スプーンで油をかけながら加熱していく。サーモンの外周の色が変わったら裏返して、油を一度ふき取る。(tips3 バターで加熱することでしっとりした食感に)


5.残りのバター(20g)を加えて、火を弱火に落とす。再びバターをかけながら、1分間火を通す。火を止めて、レモン汁を絞り入れる。


6.粉ふきいもと一緒にお皿に盛り付ける。フライパンに残ったバターを仕上げに小さじ1程度かけて完成。


★レシピの解説

【tips1】粉ふきいもの原理

粉ふきいもはサーモンのムニエルと同様に『家庭科の時間に作った』という方が多い定番メニュー。

2.5cm角とレシピには書きましたが、丸いジャガイモを四角く切るのはもちろん困難なので、厳密である必要はなし。それよりも重要なのは大きさを揃えること。サイズは便宜的なものに過ぎません。
今回は半分に切ってからスライスしましたが、ジャガイモが大きい場合は縦四等分に切ってから、横に切っていきましょう。大きさを揃えることで均等に茹で上がります。

コツは適切な塩分濃度の塩水で茹でること。ジャガイモはデンプンの粒の入った袋が集まり、それをペクチンという成分が繋いでいます。イメージとしてはペクチンはセメントの役割。塩を加えることでペクチンが溶けやすくなる=組織がゆるんでやわらかくなり、ホクホクに茹で上がるのです。

こうしたレシピに塩の量が適量と書いてあった場合、お吸い物程度の塩加減(0.8%〜1%)が目安です。味見をしながら塩を加えていき、おいしいと感じる味の濃さになればOK。
もしも、塩を入れすぎた!と思ったら水を足して濃度を薄めればいいので、落ち着いて、何度も味見しながら調整していきましょう。

ジャガイモは男爵やキタアカリなど、ホクホク系のジャガイモを選んでください。メークインなどの粘質系のジャガイモは加熱しても上手に粉が吹いてくれません。


【tips2】サーモンの選び方

スーパーに行くと、様々な種類の鮭やサーモンが売られています。ムニエルに向いているのはシロザケやギンザケなどの日本の鮭ではなく、外国産のキングサーモンやアトランティックサーモン、他にマスの仲間であるトラウトサーモンなど。スーパーでは鮭ではなく「サーモン」という名前で売られているので、選ぶ目安にするといいでしょう。また、刺身用として販売されているのは100%サーモンです。贅沢をするなら刺身用のサーモンを購入し、中心部分に少しだけ生の部分を残すようにして調理すると美味です。


【tips3】バターで加熱することでしっとりした食感に

ムニエルは表面に粉をまぶすことで、魚の水分を逃さずしっとりと焼き上げる調理法。そこで重要な働きをするのがバターです。
バターは他の油脂とは成分が大きく異なり、約2割が水分です。バターを加熱すると泡立つのは水分が沸騰しているのです。

その他の油脂をフライパンで加熱すると、温度がどんどん上がっていきますが、バターは水分が残っている限り、蒸発する際の気化熱によって冷やされるため、温度が上がりにくいのがメリット。泡立っている状態でおよそ100℃、泡立ちが収まりバターが色づく一歩手前の状態が120℃前後と憶えておきましょう。

魚を高すぎない温度で加熱することでしっとりとした食感にすることができます。

今回、バターは二度に分けて加えています。一度目に焼いたときに使用したバターには魚の油脂分が溶けているので、一度ふき取ると魚特有の匂いが減ります。次に新しいバターを加えることでフライパンの温度が上昇するのを抑え、新鮮なバターの香りをつけることができます。
また、最初に加えているオリーブオイルはバターのタンパク質を希釈し、風味をやわらげる働きがあります。油脂を使いこなすことが加熱調理、上達への道です。

今回皮は外して焼きました。(皮の外し方はnoteで紹介しています)皮と身では火の入り方が異なるので同時に焼き上げるのが難しいからですが、皮付きのまま焼いても問題ありません。焼いてからのほうが皮を外すのが簡単です。


おまけ 音でも楽しめる料理

サーモンムニエルにはアーモンドスライスを添えると楽しいですし、よりおいしくなります。アーモンドスライスは弱火のフライパンで香ばしい香りが出てうっすらとした茶色に色づくまで炒ります。

炒りたてのアーモンドスライスをサーモンにのせて、急いでレモンを絞ると「ジュワ~」と音がして、舌だけではなく、耳も楽しませてくれます。

<次回は2月2日(土)に更新予定です>



この連載noteの記事をベースに、書き下ろしレシピも加えた『新しい料理の教科書』が発売されました! ハンバーグ、チャーハンなどの定番メニューを家庭でいちばんおいしく作る方法をご紹介しています。

『定番の“当たり前”を見直す 新しい料理の教科書』

この連載について

初回を読む
おいしい」をつくる料理の新常識

樋口直哉

食の博識、樋口直哉さん(Travelingfoodlab.)が、味噌汁、ハンバーグ、チャーハンなどの定番メニューを、家庭でいちばんおいしく作る方法を紹介します。どういう理由でおいしくなるのか、なぜこの工程が必要なのかを徹底的に紹介し、...もっと読む

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