お正月に欠かせないのはお雑煮。立派なお節料理を用意できなくても、お雑煮さえあればとりあえず新年は迎えられます。
今日はオーソドックスな江戸風雑煮と関西風の白味噌雑煮をご紹介します。江戸風雑煮は柏肉(鶏肉)とかまぼこ、浅草海苔が入ったものとされていますが、実際には決まりはありません。白味噌雑煮も同様で各地域で具材は様々。
雑煮に定義はありませんが、基本的には海と山の食材と餅を入れた汁物です。お正月らしくちょっと整えることを心がけましょう。
江戸風雑煮
鶏もも肉…1/2枚(160g〜180g)
水…1L
鰹節…10g
塩…2g
醤油…小さじ2
みりん…小さじ 1/2
ニンジン(7mm厚)…2枚
かまぼこ(5mm厚)…4枚
絹さや…6枚
しいたけ…2枚
餅…2枚(半分に切る)
柚子の皮…適宜
作り方
1.鶏もも肉と水1Lを鍋に入れて、中火にかける。沸騰してきたらアクをとりのぞき、弱火に落として20分間煮る。20分経ったら肉をとりだし、冷ましておく。(Tips1『鶏だしのとり方は旨味を増やす酵素が働く時間を長く』)
とりだした鶏肉はラップをしておくと表面が乾きません。
2.鍋に残った出汁に鰹節を加え、2分待ってから濾す。濾したもの700ccに対して塩2g(小さじ⅓)、醤油小さじ2、みりん小さじ1/2で調味する。最終的には塩で好みの味加減に調整する。
ここでしっかりと味見をして、好みの味加減に調整します。
3.そのあいだに他の野菜を準備する。絹さやはスジをとりのぞき、1分間ほど茹でてから水にとって冷ます。同じ鍋で小松菜を茹でて水にとり、水気をしぼる。
ニンジンはかぶるくらいの水と塩(小さな鍋であれば200ccが目安、塩は200ccにつき1g加える)でやわらかくなるまで煮る。(Tips2『野菜の下処理』)
具材を準備しておくと、慌てないで済みます。
4.フライパンを中弱火にかけて、餅としいたけをじっくりと焼いていく。しいたけに先に火が入るので、箸で持った感じがやわらかくなったら、2の汁に加える。
餅は両面に焦げ目がついて、同じく箸で持った感じがやわらかくなるまで裏返しながら焼く。(Tips3『おもちの焼き方』)
しいたけに先に火が通ります。後から温めるので、もしも硬すぎたら5の工程で長く温めてください。
5.2の汁に3の野菜と鶏肉、かまぼこを入れ、温める。熱くなったら具材と焼けた餅を器に盛り付けて、汁を張る(出汁の量は一人前200ccが目安なので、少しあまります)。柚子の皮を最後にのせる。
具材を先に器に盛り付けておくと、仕上がりがきれいになります。お正月なのですから折り目正しく、きっちり揃えて盛りましょう。
★レシピの解説
【Tips1】鶏だしのとり方は旨味を増やす酵素が働く時間を長く
鶏と水を鍋に入れて、弱火で煮出せば鶏だしになります。言ってみればチキンブイヨンです。はじめは濁りますが、弱火で炊いていると次第に澄んできます。20分間加熱すると、水分が蒸発するので、仕上がりは700cc〜750ccくらいになります。これくらい目安で、少なかったら水を足し、多ければもう少し煮てみてください。
お湯を沸かすときははじめから強火ですが、スープをとる時は沸騰するまで中火くらいの火にかけます。これは肉に含まれるタンパク質を分解し、旨味に変える酵素が働く温度帯の35℃〜50℃の時間を長くとりたいから。お店では一度にたくさんスープをとるので強火でいいのですが、家でつくる量は少ないので、火加減を調整する必要があります。
なお、中火にかけるとレシピに書きましたが、これは熱伝導率のいいアルミ鍋を使っている場合で、ステンレスや鉄の鋳物などの熱伝導率の低い鍋の場合は強火で加熱しても大丈夫です。
【Tips2】野菜の下処理
小松菜1/8、ニンジン2枚という具合にレシピに書きましたが、これは使用量です。実際に茹でる時はその通りにつくる必要はなく、小松菜を買ってきたらたくさん茹でておき、こんな風に出汁に浸しておけばいいのです。(小松菜の茹で方は以前、ご紹介しました)
塩茹でしたニンジンも煮汁や余った出汁に浸しておけば数日は持ります。もう火は通っていますので、別の料理に使うのも簡単ですし、そのまま食べることもできます。一度に調理することで、手間を減らしましょう。
写真、右側はお正月用の里芋。アレンジで紹介する白味噌雑煮に使います。里芋は皮を剥いて茹でて、熱いうちにおひたしの時と同じように味をつけた出汁に入れ、冷ましてから冷蔵庫で保管します。
【Tips3】餅の焼き方
餅はどんな風に焼いてもいいのですが、おすすめはテフロン加工のフライパンです。くっつかず手間もかかりません。
餅という食材の性質を知っておくと、慌てないですみます。ある論文によると市販の餅は硬くなった状態で売られていますが、内部温度が50〜60℃になると急激にやわらかくなり、食べられるようになります。ちなみに膨らみはじめるのは70℃を超えてから。また、90℃の液体につけると外周から溶け出していき、内側がやわらかくなるころには弾性を失ってしまう、とのこと。
餅を煮たタイプのお雑煮が好きという方は膨らむ手前(内部温度が70℃前後)まで焼いてから、出汁のなかに入れるようにすれば必要以上に表面が煮溶けることがありません。
今回は中弱火にかけたフライパンで、表面がこんがりするまで裏返しながら焼きます。ふくらませる必要はない(つまり70℃以上に加熱する必要はないということ)ので、箸で持ってやわらかくなればOKです。
【アレンジ】白味噌雑煮
関西風の白味噌雑煮です。関西は丸餅ですが、入手しやすい角餅でつくっています。白味噌雑煮のポイントは「えっ」と驚くほどの量の白味噌をつかうこと。普通のお味噌汁の感覚でつくると失敗します。はじめは感覚がつかめないと思うので、計量してください。
昆布だし…400cc
白味噌…100g〜120g
もち…2個
青のり…適量
塩ゆでした大根とニンジンの輪切り…適量
作り方
*昆布だしのとりかた
昆布3cm角を水に入れて6時間置くか、30分置いてから中火にかけて沸騰直前にとりだす。
1.昆布だしを強火で温めながら、白味噌を溶く。白味噌の量はとろみがつくくらいが目安。沸騰したら火を止めておく。
2.餅は中火にかけたフライパンで焼き、表面に焦げ目がついてやわらかくなったら、弱火かけた1の鍋で1分間煮る。
3.器に盛り付け、大根とニンジンの輪切りを添え、青のりを載せる。
味噌汁は煮えばなといってひと煮立ちした瞬間を味わいますが、白味噌の場合はしっかり加熱しても問題ありません。むしろ、少しコトコトと炊いた方が麹特有の癖が抜けて、おいしくなります。
日の出に見立てた大根とニンジンの輪切りはお雑煮の定番の浮身です。本来の関西風ではここに里芋が入るので、好みで入れてください。元旦はお澄まし、二日は白味噌仕立て、という具合に変化をつけると、楽しいと思います。
一年あっという間ですね。みなさまが、新しい一年を明るく暮らせることを心よりお祈りいたします。どうぞよいお正月をお迎えください。
<次回は1月5日(土)に更新予定です>
参考文献
餅肌の調理科学 永島伸浩 日本調理科学学会誌 1996 年 29 巻 2 号 p. 138-144