年越しそばの決定版レシピ

食の博識、樋口直哉さんによる科学的「おいしい料理」のつくり方。30回目のテーマは『年越しそば』です。今年の年末は、おいしい年越しそばを手作りしてみませんか? ポイントはたっぷりのお湯で茹で、そばを優しく扱うこと。アレンジメニューとして「豚バラのつけそば」もご紹介します。

年越しそばを手作りしましょう。年末になるとお蕎麦屋さんの店先で生麺の販売がはじまりますが、おすすめは安価に購入できる干しそば(乾麺)。そばの風味は上等な手打ちにはかないませんが、上手につくればなかなかいけます。

おそばを茹でるためにたっぷりの湯が必要なこともあり、生麺をお店のように茹でるのはなかなか難しいもの。しかし、乾麺なら家庭でも比較的、簡単に茹でることができます。なにより、年末の忙しい時期に生麺を買いに行くよりも今から乾麺を準備しておく方が楽です。


年越しそば

材料(2人前)
干しそば…200g
かけだし
 醤油…100cc
 ミリン…100cc
 水…1L
 鰹節…30g
ネギ…半本

作り方

1.かけだしをつくる。鍋に醤油100cc、ミリン100cc、水1L、鰹節30gを入れて、強火にかける。まわりが沸いてきたら弱火に落として、アクをとりながら5分間煮た後、ザルで濾して、鍋に戻しておく(Tips1『かけだしの割合は10:1:1』)


2.ネギは小口切りにして、水に1分間さらし、水気を切っておく。

水にさらすことで辛味が抜け、シャキシャキとした食感が出ます。ネギの味や香りは抜けますが、そばの香りを活かすためにネギは脇役になってもらいましょう。


3.鍋にたっぷりの水を入れ、強火で沸かす。この時、鍋の湯の一部を使って、丼をあらかじめ温めておく。


4.沸騰を確認したら、火加減を中火に落とし、乾そばをパラパラと入れる。はじめの1分間だけ混ぜ、吹きこぼれそうであれば火を弱める。鍋のなかでそばが対流するくらいの火加減を目安に袋の表示時間どおり茹でる。


5.そばをザルにあけ、流水で洗う。この時、両手で拝むようにやさしく表面を洗うようにする。手荒に扱うとそばが切れるので注意。洗ったそばは水気をよく切っておく。Tips2『そばは優しく扱う』)


6.熱いかけだしに5のそばを入れて、強火で温める。沸騰させる必要はないが、かけだしの温度が80℃くらいになるまで加熱する。器に入れてあったお湯を捨て、おそばを盛り付ける。薬味のネギを添えればできあがり。(Tips3『そばを整える技』)


★レシピの解説

【Tips1】かけだしの割合は10:1:1

この連載でいつも使っているそばつゆの割合は、水5:醤油1:ミリン1。これは冷たいおそばの割合で、温かいかけそばにする場合は倍量の出汁で薄めます。つまり、水10:醤油1:ミリン1です。

かけだしには昆布を使わず、キリッと仕上げるのが江戸前の味です。今日は鰹節しか使っていませんが、鰹節の1/4量程度の宗田節を混ぜるのが本来の関東流。宗田節の代わりにサバ節を混ぜる手もありますが、たくさんの種類の出汁素材があっても使い切れないので、今回のように鰹節だけで充分です。


【Tips2】そばは優しく扱う

そばを茹でるときはたっぷりの水が必要、というのは前述しました。そばはパスタと違ってグルテンを含まない(あるいは少ない)ので、湯に多くのデンプン質が流れ出ます。
デンプンが流れ出るとどうなるのでしょうか? 湯に濃度がつき、対流が起きづらくなりますし、麺同士がくっついてしまったり、ひどいときはそばが水分を含まず芯まで煮えないという問題が起きます。そのためデンプンを薄められる程度のたっぷりの水が必要なのです。

特に生そばはくっつき防止のための打ち粉をたくさん振ってある製品が多く、茹でるのに注意が必要です。しかし、今回使用した家庭用の干しそばであれば打ち粉がないので、比較的少なめの湯でも茹でることができます。
ちなみに流れ出た成分を含んだ茹で汁は「そば湯」としてあとで飲むことができるので、心に余裕があれば捨てないでとっておきましょう。そば湯にはデンプン以外の成分も溶け出しているので、栄養も豊富です。

そうめんを茹でた時はキュッキュと音を立てるくらいまでよく洗いましたが、そばの場合はそこまでする必要はなし。そばはそうめんやうどんと違って切れやすいので優しく扱うことが大事です。
通常のそば店では水で洗ったそばを湯で温め、丼でかけだしとあわせますが、今回はかけつゆのなかで温めています。こうするとそばとつゆの一体感が生まれるので、干しそばをおいしく食べるにはいい方法です。


【Tips3】そばを整える技

最後に盛り付けたそばをきれいな形に盛り付けるテクニックをご紹介します。

箸でそばをできるだけ多く掴んで、一度持ち上げます。

それから寝かせるようにすると麺の方向が揃います。小さなコツですが、見栄えがだいぶ違います。


【アレンジ】豚バラのつけそば

盛りそばは5:1:1の割合、かけそばは10:1:1でしたが、冷たいそばに温かいつゆを添える場合はどれくらいの割合が適正なのでしょうか?
答えはやや濃い目の8:1:1です。次は鴨せいろの鴨の代わりに豚バラ肉を使ったレシピをご紹介します。

材料(2人前)
干しそば…200g
豚バラ肉(スライス)…100g
ネギ…1本
醤油…100cc
ミリン…100cc
水…800cc
鰹節…25g

作り方

1.鍋に醤油、ミリン、水、鰹節を入れて強火にかけ、まわりがふつふつとしてきたら弱火に落として5分間アクをとりながら煮る。ザルで濾す。

2.フライパンに豚バラ肉を並べ、中火にかける。焦げ目がついたら長ネギを入れて軽く炒めあわせ、1のそばつゆを加えて煮立てる。

3.鍋に湯を沸かし干しそばを表示時間どおり茹でて、ザルにとって水で洗う。水気を切って、皿に盛り付ける。


最後に干しそばの選び方を。干しそばはJAS法によって、そば粉の量が1割未満であっても「そば粉使用量1割未満」と表示すれば「そば」と名乗れ、30%以上そば粉が入っていればなにも書かずに堂々と「そば」と名乗れる不思議な食べ物です。

様々な干しそばが売られてますが、あまりにもそば粉の使用量が少ない乾麺は「そば粉が入ったひやむぎ」のような気もしますので、裏の原材料表示を確認して「そば粉、小麦粉」の順番に書かれている製品を選ぶのがベスト。原材料表示は使用している原材料の多い順に記載されているので、小麦粉よりもそば粉が多い製品を選ぶとそばの風味が味わえます。

<次回は12月29日(土)に更新予定です>


クリスマス目前! 樋口直哉さんのnoteではローストチキンのつくり方も紹介されています。

この連載について

初回を読む
おいしい」をつくる料理の新常識

樋口直哉

食の博識、樋口直哉さん(Travelingfoodlab.)が、味噌汁、ハンバーグ、チャーハンなどの定番メニューを、家庭でいちばんおいしく作る方法を紹介します。どういう理由でおいしくなるのか、なぜこの工程が必要なのかを徹底的に紹介し、...もっと読む

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    コメント

    kohei_0321 メモ。 https://t.co/l71JDZuau7 約1年前 replyretweetfavorite

    keitaigarashi 明日はこれを作る予定。そばはやったことないけど、チャレンジ! 約1年前 replyretweetfavorite

    SetunaHearts #スマートニュース 約1年前 replyretweetfavorite