トマトソースは人によって様々な作り方があります。昔は香味野菜をしっかりと炒めて甘みを引き出し、長時間煮込んだトマトソースが多かったですが、今では香味野菜の量を控え、短い煮込み時間でトマト味を強調した仕立てが人気。
僕のnoteでは様々な料理に使える『基本のトマトソース』を掲載していますが、こちらではパスタ専用の『ダブルトマトソース』をご紹介します。香味野菜は省略し、オリーブオイルの量も控えめにし、ホールトマトとフレッシュトマトを両方使うのが特徴です。
スパゲッティ トマトソース
ホールトマト缶…1缶
にんにく…1片(6g〜7g程度をみじん切りにしておく)
赤唐辛子…半本(1本を手でちぎり、振って種をとりのぞいておく)
EVオリーブオイル…大さじ1
トマト(ピンク系、Tips1参照)…1個(150g程度)
スパゲッティーニ(1.6mm)…180g
塩…茹でる湯の1.5%重量
作り方
1.ホールトマト缶をザルでこす。(残った種と筋は捨てる)
2.トマトは湯剥き(「トマトの冷製パスタの回」参照)してから、ヘタをとりのぞき、7〜8mmのスライスにする。次にそのスライスを7〜8mmの棒状に切り、90℃向きを変えてからもう一度縦に包丁を入れると、7〜8mmの角切りができる。
(【Tips1】濃厚さとフレッシュさを両立させる時間差調理)
3.フライパンににんにくのみじん切りとオリーブオイルを入れ、中弱火にかける。
にんにくを加熱する時は焦げるのを防ぐために、必ずフライパンに冷たい油とにんにくを入れてから火にかけるようにします。
4.ニンニクが色づいてきたら、赤唐辛子、ザルでこしたホールトマトを加える。沸騰するまで強火で、沸いてきたら弱火にして、時々混ぜながら5分間煮る。
裏ごししたホールトマトを加える時、火が強すぎると跳ねる場合があります。一気に入れたほうが温度が下がるので安全です。
5.トマトの角切りを加えて、さらに5分間煮る。適度に煮詰まったらソースは完成
生で食べておいしいトマトを使うのがこのパスタソースのポイント。
ゴムベラでフライパンの底をなぞると一瞬、線ができるくらいがソースの煮詰め具合の目安です。
6.鍋に1.5Lの水を沸かし、1.5%重量の塩(22.5g)を加える。沸騰したのを確認してから弱火に落とし、パスタを茹でる。袋に記載されている時間から30秒引いた時間(今回は9分だったので8分30秒)が目安。
茹でる湯の塩分量の正確な計量がパスタ作り成功への道です。水の量が少なすぎるとパスタがくっつくことがあるので、パスタの8〜10倍重量の水が必要ですが、慣れてくればもっと少ない水の量でも茹でることができます。
湯が沸いたのを確認したら、火を弱めます。この時、束ねたパスタをひねり、やさしく押し付けながらゆっくり沈めていくのがコツ。そうすると手を離した時、パスタが放射状に広がります。
表面のデンプンが糊化していないはじめの数分だけかき混ぜるとパスタ同士のくっつきを防げます。3分くらい経てば放っておいても大丈夫。デンプンが糊化してしまえばもうくっつきません。
7.茹で上がったパスタを3のソースに加えて、箸でぐるぐると混ぜる。器に盛り付けて、完成。
(【Tips2】熱々パスタに熱々ソースがパスタの基本)
箸でぐるぐると混ぜると、パスタがちょうど泡立て器のワイヤーの役割を果たし、ソースの油分がよく混ざります。
★レシピの解説
【Tips 1】濃厚さとフレッシュさを両立させる時間差調理
トマトジュースの味とトマトソースの味を比較すると、まったく煮込んでいないトマトジュースに比べて、煮込んだトマトソースは味が濃厚で、深い味わいになっていることがわかります。これは長く煮込むことでトマトに含まれる糖がメイラード反応やカラメル化反応を起こすからです。
しかし、煮込む時間が長くなるほどトマトの新鮮な風味は失われてしまいます。長く煮込む必要はあるが、その分風味は失われてしまう……これが『トマトソースのジレンマ』です。
今回、採用した解決策はホールトマト缶とフレッシュのトマトの二つを時間差で加えること。ホールトマトで加熱したトマトの濃厚さを、フレッシュトマトで新鮮な風味を出します。
トマトには赤系とピンク系の2種類があり、ホールトマトに使われるサンマルツァーノは赤系で、豊かな旨味が特徴の加熱用トマト。一方、フレッシュトマトとして使用した桃太郎はピンク系のトマトで甘さが特徴の生で食べておいしい品種です。この2つを混ぜることでソースの味は格段に上がります。
ところで、ホールトマトに使われる赤系のトマトは旨味が豊富ですが種や筋が硬いのが難点。そこでザルでこして除去しました。生で食べてもおいしいピンク系のトマトは種がやわらかく、そのまま煮込んでしまってまったく問題ありません。ちなみにトマトの旨味成分は種の周りのゼリー状の部分に最も多く含まれていることは憶えておくといいでしょう。
【Tips 2】熱々パスタに熱々ソースがパスタの基本
パスタ料理の難しさは塩加減です。プロは最終段階で味をすばやく決めますが、もたついているとパスタが伸びてしまいます。
そこで今回はソースにはほとんど味をつけず、パスタを1.5%塩分濃度の湯で茹でることでしっかりと味をつけ、味付けの問題を解決しました。これで味が足りない、と思うのであれば、塩を加えるよりも粉チーズやアンチョビなどの旨味と塩味を含んだものか、スパイスやハーブなどを足したほうがいいでしょう。特にトマトと相性のいいバジルはおすすめです。
茹で上がったばかりのパスタを顕微鏡で見ると、表面に穴が開いたような状態です。茹でたことでデンプンが茹で汁に流れたからです。ここで熱いソースを絡めると、穴がソースを吸収し、パスタとソースの一体感が生まれます。
麺が冷めていたり、ソースが冷たかったりすると、パスタが締まってしまい、ソースを吸い込んでくれません。つまり、熱いパスタと熱いソースを絡めるのがパスタ料理の基本、というわけです。
【アレンジ】モッツァレラチーズとベーコンのトマトソース
トマトソースができればあとのアレンジは自由です。あさりの缶詰を入れればボンゴレになりますし、アンチョビ、オリーブ、ケッパーをいれればプッタネスカという料理になります。アレンジでご紹介するレシピはベーコンとモッツァレラチーズを加えたピザ風(ピッツァイオーラと言います)です。
ホールトマト缶…1缶
にんにく…1片(6g〜7g程度)
赤唐辛子…半本
EVオリーブオイル…大さじ1
トマト…1個(150g程度)
スパゲッティーニ(1.6mm)…180g
塩…茹でる湯の1.5%重量
モッツァレラチーズ…1個(8mmにスライス)
作り方
1.ホールトマト缶はザルでこし、トマトは湯剥きして7〜8mmの角切りにする。赤唐辛子は種をとりのぞき、にんにくはみじん切りにする。ベーコンは細く切る。
2.フライパンににんにくのみじん切りとオリーブオイルを入れ、中弱火にかける。しばらく経って、香ばしい匂いがして、茶色く色づいてきたら、ベーコン、赤唐辛子、ザルでこしたホールトマトを加える。沸騰するまで火を強め、沸いてきたら弱火にして、時々混ぜながら5分間煮る。
3.トマトの角切りを加えて、さらに5分間煮る。適度に煮詰まったらソースは完成。
4.鍋に1.5Lの水を沸かし、1.5%重量の塩(22.5g)を加え、パスタを茹でる。
5.3のソースにモッツァレラチーズと茹で上がったパスタを順に加え、箸でぐるぐると混ぜる。器に盛り付けて、完成。
パスタを茹でる時の塩分濃度に注意して、熱いパスタに熱いソースを絡める時は火を止めるか、弱火で作業すれば失敗のリスクは減ります。
トマトソースに限らずパスタ料理はソースを作ってから、パスタを茹ではじめたほうが慌てずにつくれます。しかし、慣れてきたらソースとパスタを同時並行で進めると効率的です。ソースを作りながら時間差でパスタを茹ではじめ、ソースの出来上がりと同時にパスタが茹で上がっている状態にすれば12分〜15分程度で提供することができます。時間差で料理していくことをマスターすればパスタ料理はぐっと手軽に、おいしくなる、というわけです。
<次回12月15日(土)は「湯豆腐」をご紹介予定です>
樋口さんのnoteではこちらのナポリタンをはじめ、数多くのレシピを公開しています