照り焼きは食卓の人気者。なかでも一番人気はブリの照り焼きでしょう。
美味しくつくるポイントは下味と火加減。普段、魚料理を食べないという方も一度、作ってみると、あたらしい定番になるかも。
今回は『生臭くなくて』『ふっくら』としたブリの照り焼きを目指します。
ブリの照り焼き
材料(2人前)
ブリ(切身) 2枚
塩 適量
小麦粉 適量
サラダ油 小さじ1
醤油 大さじ2
酒 大さじ2
みりん 大さじ2
上白糖 大さじ1
まずはブリの選び方から。スーパーに行くと高価な『天然物』と比較的安価な『養殖物』の2週類が売られています。ざっくり説明するとおいしいのは
いい天然物>今の養殖物>悪い天然物
の順番です。 天然物と養殖物の味の違いはブリが食べる餌に起因します。ブリはイワシなどの小魚を食べるのですが、天然物には身にその匂いが移っていることがあるのです。
しかし、養殖物は餌をコントロールし、匂いを抑えているので、味が安定しているのが特徴。一般人にはまずいい天然物は入手できないので、是非、養殖物を選択してください。
また、魚の生臭さはそれ自体だけでなく〈脂が酸化する〉ことによっても生じます。それぞれの養殖産地ではオリーブや柑橘など抗酸化作用のある飼料を餌に混ぜることで、個性を競っているので、養殖物は特に臭みが少ないのです。
脂の酸化防止はブリの照り焼きを上手につくるポイントで、調理中のそれを防ぐための方法はあとで詳しく説明します。
1.ブリの切り身は表面(最初に焼く面)に薄く塩を振り、10分間以上置く。
*塩を振るべきか、振らないべきか
ブリの照り焼きの一般的なレシピには、下味として塩を振るパターンと振らないパターンの2種類が存在しています。
この塩は必要なのでしょうか。照り焼きの味は表面のタレが果たす役割が大きいので、下味の塩の有無が大きく影響するのは表面の食感です。
塩を振ることで表面のタンパク質の性質が変わり、身が締まった──言ってみればかまぼこのような状態になります。この状態になるとひっくり返すときに身崩れを防げますが、ややしっとりするので、全体のふっくら感はわずかに減ります。つまり、塩を振る派はしっとり感と作りやすさを、振らない派は全体のふっくら感をそれぞれ優先しているわけです。
今回、紹介する作り方は塩を振る派、振らない派の折衷案。ふっくら感は欲しいですが、作りやすさも大事なので、最初に焼く面だけに塩を振っています。これで身崩れは防げますし、ふっくら感も充分に出せます。写真を見ればわかると思いますが味付けのための塩ではないので控えめで大丈夫です。
2.調味料(醤油大さじ2、酒大さじ2、みりん大さじ2、上白糖大さじ1)を準備しておく。
*調味料は事前に準備
あとで慌てないで済むように、調味料は事前に準備しておきましょう。写真はわかりやすくするために別々の器に入れていますが、醤油、酒、ミリンは一つの容器に混ぜておいても結構です。ただ、砂糖は溶けきれずに残ってしまったりするので、別にしておいた方が安全。
ブリの照り焼きはこの調味料の配合にも個性が現れますが、それはこの後の工程で詳しく説明します
3.ブリの切り身に小麦粉をまぶす。この時、皮目にはなるべく小麦粉をつけないようにする。
*小麦粉をまぶすわけ
塩を振ったので、ブリの身に水分が浮いているかもしれません。その水気に臭みがあればふきとってから小麦粉をまぶしますが、今回は臭みのないブリだったのでそのまま作業を進めてます。この小麦粉があとでタレのとろみになります。
調味料の配合で人によって大きく違うのは砂糖の量です。一般的に関西以西の人は甘めの味付けを好むので砂糖が多く、逆に関東では辛めの味付けが好まれます。また、お酒とあわせることになる料理屋さんでは砂糖を入れずに、すっきりとした味付けに仕上げることが多いでしょう。
砂糖の量は甘さではなく、タレのトロミ加減にも影響します。今回は大さじ1の甘さ控えめの配合にしたので、それだとトロミがやや弱くなります。そこで表面に小麦粉をまぶして焼くことで、トロミを補いました。
また、テフロン加工のフライパンならあまり関係ありませんが、小麦粉を振ることで鍋にくっつきにくくなり、焼き色も付きやすくなるなどのメリットもあります。この時、皮には小麦粉をつけないようにするのが小さなコツ。皮にまで小麦粉をつけると脂が抜けにくくなるからです。
4.フライパンを中火で1分間、予熱する。サラダ油小さじ1を敷き、3のブリを表面から焼いていく。この時、箸などでブリの身を持ち上げて皮目から脂を出すようにする。
*魚を焼くにはテフロン加工のフライパンが最適
皮をおいしく食べるには、よく焼くのがポイント。フライパンに接していない面には火が入らないので、箸かトングで持ち上げて意識的に焼くようにします。今回はテフロン加工のフライパンを使っているので、軽く予熱するだけで焼きはじめていますが、鉄のフライパンを使う場合は強火でしっかりと熱し、少量の油を馴染ませた後、少し温度を下げてから同様に焼きます。意識的には以前、紹介したポークソテーを焼くときと同じです。
*脂質の酸化
加熱しているあいだに脂質は酸化し、生臭みの原因となります。ここで充分にふき取っておくことですっきりとした味に仕上がります。
6.焼き色がついたら裏返して、2の調味液を加える。
*生臭さを減らす最後の武器は〈ミリン〉
照り焼きの調味料に入っているミリンには照りや甘みを出したり、身崩れを防ぐなどの効果がありますが、魚介類の脂質の酸化も抑制してくれます。ある論文ではこの働きにはメイラード反応による生成物が関係していることが示唆されており、同じくメイラード反応の生成物を持つ醤油とあわせて使用することで、抗酸化活性がさらに高まるようです。
スーパーに行くと安価で販売されているミリン風調味料や砂糖にはこの効果がないので、照り焼きには『本ミリン』と書かれた製品を使用してください。
7.調味料を入れたらすぐに弱火に落とし、タレをスプーンでかけながら煮詰めていく。目安は3分。照りとタレに適当なトロミが出てきたら、器に盛り付ける。
*調味液を入れてからは弱火で加熱
魚の身に火が入りすぎるのを防ぐために、弱火で加熱します。蓋をしないで加熱すれば水分が沸騰するときに周りの熱を奪っていくので、ブリの身におだやかな形で火が入り、結果としてふっくらします。魚の身に火を入れすぎてはいけないのは以前、紹介した「さんまの塩焼き」と同じ。
表面には焦げ目をつけて、裏面からはゆっくりと火を通すイメージです。液体にとろみがついて、おいしそうな照りが出てくれば出来上がりです。
付けあわせに塩ゆでしたセリを添えています。お魚のステーキである照り焼きには、さっぱりとしたものがよくあいますね。
焼物の付け合せのことを和食の世界では〈あしらい〉と呼び、季節感を添える意味もあります。ちなみに写真は右奥に盛っていますが、あしらいは右手前に置くのが正しいルール。とはいえ、家庭では特に気にする必要はないので、食べやすいように盛りましょう。
【アレンジ】ブリの山椒焼き
照り焼きは一緒に入れる食材で風味を変えられます。
写真は実山椒の佃煮。
こんな風に調味液を煮詰める段階で小さじ1〜2ほど加えます。山椒の他に使う風味付けの材料としてはおろし生姜やにんにく……カレー粉という変化球もあります。好きな香りを加えるといつもの照り焼きでも目先が変わっていいものです。
出来上がり。山椒の佃煮は保存期間が長く(一般的に冷蔵保存なら数ヶ月、冷凍なら一年)他の料理にも使えて便利です。照り焼きはブリ以外にもカジキマグロやサーモンなどの脂の多い魚で仕立ててもよく、鶏肉にもあう調理法です。調味料の割合を覚えておくと便利でしょう。
参考文献
魚の加熱調理における本みりんの脂質酸化抑制効果 石田丈博他 宝酒造株式会社
<次回は12月8日(土)トマトソースのスパゲティをご紹介予定です>
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