パラパラチャーハンの秘訣は『冷やご飯』と『たっぷりの油』

食の博識、樋口直哉さん(TravelingFoodLab.)による科学的「おいしい料理」のつくり方。17回目のテーマは『チャーハン』です。ご飯をお店風にパラパラに仕上げる秘訣を、理由も含めて解説していただきました。「油→卵→ご飯の順番に鍋に入れる」「加熱するときに鍋は振らないほうがいい」など、今回も新常識が盛りだくさんです。

 チャーハンは、前日の夜に余った冷やご飯を利用した手軽な料理。なぜかこだわる方が多く、作り方を紹介すると「いや、こうした方がおいしい」という声が挙がる厄介な料理でもあります。とりあえずここでは僕なりのベターなレシピをご紹介しますので、こんな考え方もあるんだ、くらいに受けとっていただければ幸いです。


チャーハン

冷やご飯 300g(約1合弱 ご飯茶碗にたっぷり2杯分)
長ネギ  1本分(濃い緑色の部分以外の部分)
卵    2個
焼豚   50g(
簡単焼豚を使用or市販品)
塩    小さじ1/2
醤油   小さじ1/2
ラード  大さじ1+大さじ1


1.材料を準備しておく。長ネギは一本分をみじん切り、焼き豚も小さく刻む。卵はボウルによく溶いておき、冷やご飯(常温、もしくは冷蔵保存しておいた残りご飯)はレンジで3分間加熱。

*冷やご飯を温めて使う意味
 チャーハンのポイントはパラパラ感。それを得るためには冷やご飯を使うことです。
 炊きたてのご飯を冷ますと、米は粘りを失います。これを調理用語では「デンプンの老化」と言います。冷蔵庫にお米を入れてはいけないとされるのは、米のデンプンの老化が2℃〜4℃で進むからです。ちなみに60℃以上ではデンプンの老化速度が遅くなるため、炊飯器の保温温度の多くは60℃〜70℃に設定されています。

 デンプンが老化すると米は粘りを失います。水分を加えると米は粘り、水分を失うと米はパラパラになる、ということを憶えておいてください。冷蔵庫に入れたご飯はそのまま食べるには適していませんが、チャーハンには好都合。しかし、冷たいまま炒めるとフライパンの温度が下がってしまい、上手に炒められないので、事前にレンジで温めるのです。

 なお、米は硬めではなく、普通に炊いたものを使います。冷やご飯にすると米粒が硬くなるので、硬めに炊いてしまうと食感が悪くなります。手元に冷やご飯がなく、炊きたてのご飯をチャーハンにしたい場合は硬めに炊くといいでしょう。

おいしさの秘密はラード。もちろんなければサラダ油でもかまいませんが、動物性の脂肪を使うとこってりとした味になります。


2.フライパンに大さじ1のラードを入れて、中火で熱し、長ネギの半量を炒める。軽く焦げ目がついたら皿に取り出す。

*チャーハンと焼きめしのあいだ
 プロは普通、チャーハンをつくるとき、長ネギを炒めませんが、今回は焼きめし風の仕上がりにするために半量を炒めています。


3.2と同様にフライパンに大さじ1のラードを入れて中火で熱する。卵を入れたらすぐに混ぜる。

*たっぷりの油を熱したところに卵を入れるのが基本
 パラパラになるから、と卵とご飯をあらかじめ混ぜる方法もありますが、その方式だと加熱に時間がかかりすぎ、ご飯から水分が抜けすぎてしまうのがデメリット。卵(主に白身)は水分なので、米の粘りが出る原因にもなります。

 なぜ、上手にできるとチャーハンのご飯はパラパラになるのでしょうか? それはお米のまわりを油の膜が覆っているから。したがって油は米全体を覆えるほどの量が必要です。
 また、油が表面にあることで熱せられる部分が増え、効率よく水分が飛びます。卵は油を全体に馴染ませる働きをしてくれるので、チャーハンは油→卵→ご飯の順番に入れるのが基本です。

 ちなみに数十年前に中国料理店で流行った黄金炒飯は卵とご飯をあらかじめ混ぜてから炒めましたが、その際には卵黄のみを用いるとおいしくできます。家庭の火力では黄金炒飯はパサつきがちなので、あんかけチャーハンにしたり、仕上げにスープを少し入れるといいでしょう。


4.卵が半熟の状態で、ご飯を加えて混ぜる。ここで強火にして、木べらで切るようにしながら炒めていく。

*鍋は決して振らない
 炒める時は木べらを切るように使うのがコツ。乱暴に炒めると米粒が潰れ、それがお餅のように粘るのでパラパラ感が損なわれます。お米はあくまで優しく扱いましょう。
 例えば酢飯は米に酢を加えてつくりますが、その時は団扇で仰ぎながら切るように混ぜます。表面の水分を飛ばすことで、粘りのないおいしい酢飯になるわけですが、チャーハンの場合は米を切るように混ぜながら、卵の白身や米の表面にある水分を飛ばしていきます。
 鍋を振ったり、具材を煽ったりすると、鍋肌の温度が下がってしまうので注意。中国料理店で鍋を振るのは鍋肌の温度を下げるため。家庭の火力では鍋を振る作業は必要ありません。


5.ご飯がパラパラになったら、焼き豚、2のネギ、生のネギのみじん切り、塩、醤油を加えて混ぜ、火を止める。

*ネギを加えてからは短時間の加熱で
 ネギを加熱すると水分が出てくるので、加熱しすぎには注意。

 また、醤油は鍋肌ではなく、ご飯の上からかけるようにします。醤油を焦がそうと鍋肌から入れると焦げた香りは上に蒸発するだけで、鍋のなかに行き渡りません。

 丼があればこんな盛り付けもできます。丼にご飯を入れて、お皿にかぶせて……

 抜くとこんな感じの整った形に。

 スプーンを入れればパラリと崩れます。写真からも粘りが出ていないパラパラ加減がわかると思います。
 チャーハンも前回のサラダと同じで、水分のコントロールがすべて。しっとり感が欲しければ仕上げにスープか水を大さじ1加える方法もあります。蒸気で米がふっくらします。お店の味に近づけるなら旨味調味料を加えるという禁断の技もあります。

 また、チャーハンを食べる時にはスープも欲しいもの。チャーハンによくあうあっさりとしたスープはnoteで紹介しています。よろしければ参考にしてください!

<次回は9月29日(土)更新予定>


樋口直哉さんの料理記事をもっと読みたい方はこちら

この連載について

初回を読む
おいしい」をつくる料理の新常識

樋口直哉

食の博識、樋口直哉さん(Travelingfoodlab.)が、味噌汁、ハンバーグ、チャーハンなどの定番メニューを、家庭でいちばんおいしく作る方法を紹介します。どういう理由でおいしくなるのか、なぜこの工程が必要なのかを徹底的に紹介し、...もっと読む

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    コメント

    merry666 冷やご飯使うのにもこんな理由があったんですねー 3ヶ月前 replyretweetfavorite

    Triple1964Bogey さっきのチャーハンの件ですが 火力の弱い家庭用のコンロでは あまり鍋を振らない方が良いらしい ですよ https://t.co/hpL3T6mHhd #raji795 1年以上前 replyretweetfavorite

    paultaskart 冷ご飯を使う理由がしっかり科学的に説明されてて素敵!油→卵の順はやはり鉄板ですな 1年以上前 replyretweetfavorite