お店風サラダのポイントは「Clean」「Crisp」「Cold」

食の博識、樋口直哉さん(TravelingFoodLab.)による科学的「おいしい料理」のつくり方。16回目のテーマは『サラダ』。「サラダって簡単そうなのに、なぜお店のようにつくれないんだろう」と思ったことはないでしょうか。ポイントはタイトルにもあげた3Cと水。ドレッシングのつくり方と併せてご紹介します。

 ここ数年、専門店が登場するなどサラダが注目を集めています。栄養学的には火を通した野菜を食べた方が効率的かもしれませんが、我々は生きるためだけにサラダを食べるわけではありません。
 サラダのよさは生野菜だけが持つおいしさ。シンプルなサラダほど、おいしさに繋がるコツがいくつもあります。今日はグリーンサラダを作りながら、サラダの原則を確認していきましょう。


グリーンサラダ(4人前)

サラダ菜   1個
ベビーリーフ 1袋

★ドレッシング
ビネガー    大さじ1
塩       1.5g
オリーブオイル 大さじ3
(あればディジョンマスタード 小さじ1)
粉チーズ(パルメジャーノチーズなど) 好みで


 サラダの原則は「3C」。「Clean」(きれいであること)「Crisp」(シャキシャキしていること)「Cold」(冷えていること)この三つのポイントを意識して、料理しましょう。


1.サラダ菜は葉を一枚、一枚外し、ベビーリーフと一緒に水でよく洗う。

*葉野菜の洗い方
 まずはいい材料を用意することです。サラダに向いているのはやわらかく、風味も繊細な若い葉です。
 サラダ菜は英語でバターヘッドレタスと言いますが、その名前の通り、表面に艶があり、葉が厚いものがおいしいです。レタスなどは春と冬が旬で、それ以外の時期は味が落ちますが、今回、使用しているサラダ菜は通年、出回っており、味も安定しています。
 ここでは同様に通年、出回るようになったベビーリーフを混ぜています。サラダの葉野菜は何種類か混ぜることで、味にメリハリがつきます。
 洗う工程は最初のC、「Clean」を達成するための大切な作業です。葉野菜は溜めた水で洗うのが原則。土埃はボウルの底に溜まるので、水を替えながら洗っていきます。葉を傷つけないようにあくまで丁寧な作業を心がけましょう。


2.氷水に5分〜10分間浸ける。

*水を含ませる
 以前、紹介した『きゅうりもみ』のことを思い出してください。きゅうりもみは塩で揉むことでキュウリの細胞から水分を引き出しました。野菜の細胞溶液の濃度は食塩に換算すると0.85%程度。それよりも薄い液体に浸すことで、野菜の細胞は逆に水分を吸い込みます。だから、水に浸けると野菜がパリッとするのです。
 また、レタスの細胞を構成しているペクチンとヘミセルロースという水溶性食物繊維は冷やすことで硬くなります。氷水を使うことでよりシャキシャキになるのです。これは2つ目のC=「Crisp」を達成するために必要な工程です。


3.ざるにあげて水気を切った後、サラダスピナーかタオルで水気を切る。

*サラダは水との戦い
 葉っぱの表面の水気をとることもサラダのポイント。水分は保管中に雑菌が繁殖する原因になりますし、ドレッシングが水で薄まり、水っぽい仕上がりになってしまいます。この時、キッチンペーパーを使ってもいいのですが、オススメはタオル。白いタオルを料理用と決めて、二、三枚、用意しておくと便利です。葉っぱをタオルに包んで、シンクで振ると水気がとれます。サラダスピナーという遠心力で水気をとる器具も売られており、それを使うともっと簡単。葉っぱを乱暴に扱うと細胞が壊れて、そこから痛むのでやさしく扱いましょう。


4.タオルか布巾をボウルに敷き、葉を移す。

*タオルで包んで冷蔵庫にしまっておくとよりパリパリの食感に
 水気をふき取った葉はそのままでも食べられますが、葉をタオルか布巾、あるいはキッチンペーパーで包んで、ラップをかけて冷蔵庫に入れておきます。布巾でつくったベッドのなかで葉を寝かせておくと、冷たくなって、よりパリパリとした食感になります。これは『Cold』を達成するための工程です。
 また、この状態で冷蔵庫に入れておけば、3日間は保存できます。(傷んだ葉があるとそこから他の葉も駄目になっていくので、一日に一度はチェックしてそれらを取りのぞきましょう)あとは食べる分だけを取り出して、ドレッシングを和えるか、そのまま器に盛るだけ。つまり、ここまで準備をしておけばいつでも好きな時にサラダを食べられます。


5.ドレッシング(ヴィネグレットソース)をつくる。ボウルにビネガー大さじ1と塩1.5g、あればディジョンマスタード小さじ1を入れ、泡立て器でよく溶かす。混ぜながらオリーブオイルを少しずつ注いでいく。とろりとするまでよく混ぜる。

*ドレッシング(ヴィネグレットソース)の科学
 ドレッシングをつくるには昔から『性格の違う四人が必要』と言います。『油は浪費家に入れさせ、酢はケチな人が、塩は賢い人が加え、そしてどうかしている人が混ぜるといい』
 酢と油の量の割合は1:3。シェフによっては1:4の割合を採用する人もいます。胡椒は置いておくとえぐみが出るので、仕上げに加えたほうがいいでしょう。

 この時、酢に油を加えるべきか、油に酢を加えるべきか、というのは時々、論議の的になります。どちらでも変わらないと思うかもしれませんが、塩は油には溶けないので、酢に油を加えたほうがいいでしょう。
 できあがった基本のドレッシング(ヴィネグレットソース)は味見をするとやや酸っぱく感じられるかもしれません。市販されているドレッシングは甘めのものが多いからです。もしも、どうしても酸っぱいのが嫌であれば少量のハチミツで酸味を抑えましょう。
 ディジョンマスタードも是非とも加えたいところ。なければ仕方がありませんが、粘性のあるマスタードが入ることで頼りない乳化状態がかなり安定します。


6.ボウルに食べる分の野菜を移し、ドレッシング(ヴィネグレットソース)を大さじ1ずつ慎重に加え、和える。

*不均一が生むおいしさ
 サラダ菜が大きいと感じられる場合は包丁で切りましょう。多くの料理書には『サラダに使う葉っぱは手でちぎりましょう』と書いてあります。『色が悪くなるから』という理由が添えられていますが、これは包丁が鋼(鉄)製だった時代の名残。現在、主流であるステンレスの包丁であれば金気が残ることはありません。

 分子料理に詳しいフランス国立農学研究所の化学者、エルヴェ・ティスが行った実験によると、
A 包丁で切ったサラダ菜にドレッシング
B 手でちぎったサラダ菜にドレッシング
C そのままのサラダ菜に油だけ
Dそのままのサラダ菜に酢だけ
 をかけて、経過を観察したところ、いい状態を保ったのはAとCで、最悪の状態になったのはBとDだったとのこと。手でちぎると野菜の断面が大きくなるので、その分、ドレッシングが染みこみ、野菜から水分が押し出されたものと考えられます。

 ここから先は時間との勝負。サラダはできてから味がどんどん落ちていくので、できたら食卓で作業したいところです。
 サラダをつくる最後のポイントは混ぜすぎないこと。味がついている部分とそうではない部分が口に入ることで、味にリズムが生まれおいしく感じられます。ドレッシングはボウルの底に溜まらない程度の量が適量です。

 今回はドレッシングをつくってかけていますが、慣れてきたら直接、調味料をかけていく方法もオススメ。このとき、大切なのは調味料を振りかける順番です。最初に油をふりかけて表面に膜をつくってから、酢、塩、胡椒を加えていくのがポイントで、油の膜をつくることで浸透圧で水気が出るのを防ぎます。また、調味料を直接、振りかけると味が強く感じられるので、分量は控えめに。


7.器に盛り付け、好みで胡椒と粉チーズを振る。

 そのままでもいいのですが、粉チーズを振ると味にコクが出ます。もしくはクルミやアーモンドなどのナッツを削って振りかけてもいいでしょう。また、具材に炒めたベーコンを加え、パンを添えれば立派なランチになります。もちろん、トマトやフルーツを加えてもいいですし、ハーブで香りをプラスする方法もあります。生ハム、しらす干し、海苔など旨味系の素材を足すとボリューム感が出ます。


自家製ドレッシングのつくり方いろいろ

 日本には元々、生野菜を食べる習慣はありませんでした。サラダが入ってきたのは明治期のこと。トンカツに添える千切りキャベツにこの頃の食べ方が今も残っていますが、一般人にとって生野菜はまだ遠い存在でした。戦後、GHQが清浄野菜(寄生虫がつかないように化学肥料を使って育てた野菜)を普及させたことも転機になって、生野菜は徐々に広まっていきます。

 キユーピーが日本発のドレッシングを発売したのは1958年のこと。60年代に入るとレタスやトマトが普及し、70年代の後半になると和風ドレッシングが登場します。日本人になじみにある醤油味が登場したことで、サラダは食卓に完全に定着しました。

 さきほどのドレッシング(ヴィネグレットソース)を「ちょっと酸っぱいな」と思われる方には、醤油味のドレッシングがおすすめです。ワインビネガーよりも酸度が低い、米酢を使い、醤油の旨味でまろやかに仕上げています。


醤油ドレッシング

材料(つくりやすい分量)
醤油  大さじ1
米酢  大さじ1
オリーブオイル 大さじ3


1.醤油大さじ1、米酢大さじ1を混ぜ合わせ、そこに少しずつオリーブオイルを注ぎながら混ぜ合わせる。とろりとしたらできあがり。

*ドレッシング色々
 ドレッシングは油の種類や酸味を変えることで様々に応用することができます。最初に紹介したドレッシングもワインビネガーがなければ米酢を使えばいいですし、レモン汁を使えばマイルドな酸味が楽しめるかもしれません。ライム汁もおすすめです。
 おすすめはワインビネガー系とレモンやライムを混ぜること。ワインビネガーの酸味は酢酸に、レモンやライムの酸味はクエン酸に由来します。酸は種類によって持続時間や感じ方が違うので、混ぜることで複雑味が出ます。
 油の種類も変えてみましょう。サラダ油の他にオリーブオイル、アボカドオイル、クルミオイルなど、油の種類を変えると風味が変わります。こちらも混ぜると面白い物。例えばごま油は風味が強すぎるのでドレッシングには使いづらいですが、サラダ油で割るとちょうどよくなります。


応用編 生姜醤油ドレッシング

 さきほどの醤油ドレッシングにチューブのおろし生姜小さじ1/2を混ぜれば、生姜醤油ドレッシングになります。こちらは野菜だけではなく、白身魚のカルパッチョや生牡蠣におすすめです。
 油と酢の割合が3:1という基本を抑えれば、あとのアレンジは自由。刺身パックを買ってきて、この生姜醤油ドレッシングをかけ、さらにさきほどの葉野菜を載せればカルパッチョ風のサラダの出来上がりです。サラダは食卓における緑のオアシス。毎日の食事にさわやかさをもたらしてくれます。

<次回は9月22日(土)更新予定>


参考文献 
マギーキッチンサイエンス ハロルドマギー著
フランス料理の「なぞ」を解く エルヴェ・ティス著

この連載について

初回を読む
おいしい」をつくる料理の新常識

樋口直哉

食の博識、樋口直哉さん(Travelingfoodlab.)が、味噌汁、ハンバーグ、チャーハンなどの定番メニューを、家庭でいちばんおいしく作る方法を紹介します。どういう理由でおいしくなるのか、なぜこの工程が必要なのかを徹底的に紹介し、...もっと読む

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    コメント

    syakariki_keibu サラダの鬼なので熟読します。 1年以上前 replyretweetfavorite

    mori_kananan |樋口直哉 @naoya_foodlab |「おいしい」をつくる料理の新常識 読み返したいな。 https://t.co/sNpsRDD2Kf 1年以上前 replyretweetfavorite

    naoya_foodlab 遅くなりましたがcakes更新。基本は覚えておいて損なし。 1年以上前 replyretweetfavorite