まだまだ暑い日が続くので、デザートにさっぱりとしたゼリーはいかがでしょうか。甘いものは興味がない、という方もゼリーは料理とも深く関係しているので、知っておいて損はありません。
ゼリーは科学用語ではゲルといい「網目状の固体が液体を抱え込んだ状態」の食べ物です。ゼリー状にするための材料を「ゲル化剤」と呼びます。
ゼラチンは最も一般的なゲル化剤。原料は牛や豚の骨や皮から抽出したコラーゲンというタンパク質です。
コラーゲンはらせん状の分子が三重に絡み合った構造をしています。熱を加えるとほどけますが、分子が絡み合う特性は残ったままなので、再び冷やすと元の構造に戻ろうとします。その時、周りの水分を取り込んで固まるので、ゼリー状になるのです。
まず、さっぱりとしたほうじ茶のゼリーをつくりながら、ゼラチンの特性を理解しましょう。
ほうじ茶のゼリー
材料(4人前)
ほうじ茶 300cc (今回はペットボトル飲料を使用)
グラニュー糖 20g
ゼラチン 5g
黒蜜 好みで
左側は一般的な粉ゼラチン、右側が板ゼラチンです。プロは扱いやすい板ゼラチンを使いますが、最近の粉ゼラチンは顆粒状に加工され、水に戻しておく必要がなく、使いやすくなりました。
真ん中にあるのは粉寒天。こちらはゼラチンとは違って、植物性で多糖類の一種。寒天の性質については後ほど別に説明します。
1.ほうじ茶300ccとグラニュー糖20gを小鍋に入れて、強火にかける。まわりがふつふつと沸いてきたら(85℃)火を止める。
*ほうじ茶の種類
今回はペットボトルのほうじ茶を使いましたが、自分でほうじ茶を煎れるのがやはりベター。その場合は100℃で抽出し、漉したお茶をそのまま使います。
2.ゼラチン5gを加えて、木べらかスプーンでかき混ぜて溶かす。
*ゼラチンの量
パッケージには一袋に対して液体200ccが目安と書かれていることが多いようです。
最初に説明した通り、ゼリーはゼラチンのらせんが水分を抱え込むので、ゼラチンの量が少なすぎると固まらず、多すぎるとバネを噛んでいるように硬くなります。その適切な量を求める万能の方程式はあるのでしょうか?
残念ながらケースバイケース。万能の割合はありません。ゼラチンの凝固力は酸度や塩分によっても影響を受けるので、適切な量は使う液体によって異なるからです。ただ、自分は型から抜くレシピはゼラチン5gに対して液体200~250cc、型から抜かない場合は300ccをとりあえずの目安にしています。あとは求める食感に応じて試作をして、調節しましょう。
ゼラチンを加えたら加熱はしないこと。最初に述べたようにゼラチンの主成分はたんぱく質なので、加熱を続けると変性してしまい、凝固力が弱くなってしまうからです。ゼラチンは50℃以上で溶けるので火を止めてから、落ち着いて溶かしましょう。
3.型に流す。
*粗熱をとってから冷蔵庫に
氷水に当てて急速に熱をとる方法もありますが、粗熱をとってから冷蔵庫に入れ、ゆっくりと冷やしたほうがゼリーはおいしくできます。急速に冷やすとらせん構造の分子が充分に水分を抱え込まないまま固まってしまいますが、ゆっくりと冷やすとゲルが形成される時間的な余裕が生まれるので、ゼリーに弾性が生まれるのです。
4.冷蔵庫で6時間以上冷やせば出来上がり。
固まったゼリーはこんな状態。甘さが少ないので、好みで食べる時に黒蜜をかけてもいいでしょう。
こちらはコップに入れて固めたもの。まったく同じ作り方で紅茶やジャスミンティーでもゼリーがつくれます。
紅茶には相性のいい桃を添え、ジャスミンティーにはグレープフルーツを添えました。もっと甘くしたければ食べる時にハチミツをかけてください。
紅茶のゼリーを作るときだけ、注意点が一つあります。紅茶に含まれるタンニン(苦み成分)がゼラチンのたんぱく質を変性させるので、色が濁ってしまう可能性があるのです。
解決策はタンニンの少ない紅茶を使うこと。あるいはペットボトルの紅茶(今回はキリン『午後の紅茶 おいしい無糖』を使用)にはタンニンがほとんど入っていないので、写真のように透明感のある仕上がりになります。
ゼリーを口に入れると、体温で溶けます。その瞬間、お茶の香りが立ちます。ゲルには風味を閉じ込める性質があるのです。その性質を利用した料理にコンソメゼリーがあります。
コンソメゼリー以外にもゲルは我々にとって身近な存在です。例えばイチゴジャムもそうですし、意外なところではスパゲッティや炊きたてのご飯もゲルです。
ご飯やスパゲッティはデンプンがゼラチンと同じ役割を果たし、水分を抱え込んでいます。エビの出汁をただ飲むよりもリゾットにすると風味をより強く感じるかもしれません。ゲルを使いこなすことは料理上手への道なのです。
寒天とあん餅
次に紹介するのは寒天を使ったデザート。
材料(4人前)
粉寒天 5g
水 750cc
グラニュー糖 60g
1.粉寒天5gとグラニュー糖60gを混ぜ合わせておく。
*粉寒天はダマになりやすい
粉寒天はダマになりやすい性質があります。かたまりの状態でいれると周りの粉寒天が水分を吸い込んで固まってしまうのです。それを防ぐためにあらかじめ砂糖を混ぜて、粉寒天が分散した状態にしておきましょう。
2.鍋に水750ccと1を入れ、よく混ぜる。
*寒天と水の量
粉寒天のパッケージには4gに対して水500ccと書いてあるのが普通ですが、750ccまで増やすことで口溶けをよくすることができます。寒天は凝固力が非常に強いゲル化剤なのです。
3.火にかけて、時々混ぜながらしっかりと沸騰させる。
*ゼラチンと寒天の違い
ゼラチンはたんぱく質だったので沸騰させませんでしたが、多糖類の一種である寒天は90℃を越えないと溶けません。そこでしっかり沸騰させるのがポイント。
4.熱いうちに型(流し缶、バット、牛乳パックなど)に流す。粗熱がとれたら冷蔵庫で冷やし固める。
*寒天の凝固温度
ゼラチンと違って、寒天は室温(30℃以下)で固まります。ゼラチンと同様に急速に冷やすと滑らかさがなくなり、ブツブツと切れるような食感になるので気長に粗熱をとってから、冷蔵庫で冷やしましょう。
出来上がりの状態。
四角に切ります。寒天を口に入れると一瞬、角を感じます。次にすっと溶け、寒天特有の香りが立つはずです。
市販のあん餅か餡団子を串から外して一緒に盛り、好みで黒蜜を少しかけます。あん餅は伊勢名物の赤福などを使うと、極上のデザートになります。角が立った半透明の寒天は涼やかで見た目にもいいものです。