新型コロナ シンガポールでは自宅待機違反者に罰金76万円も 日本でも罰則は必要か?

文春オンライン / 2020年3月12日 6時0分

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2月28日、シンガポールの街の様子 ©AFLO

 新型コロナウイルスの感染がアジアから欧米に拡大し、各国でトイレットペーパーやマスクの買い占め、自宅待機者の脱走などが問題となっています。

 そんな中、SARSを経験している多くのアジア諸国では春節の段階で素早く入国制限を強化するなど水際対策に取り組んでいます。シンガポールでは初期の段階で対策を立てたことにより、2月前半は閑散としていた繁華街にも人が戻り、子供達の学校も平常通りで日常生活を送ることができています。

国民から支持される、新型コロナへの向き合い方

 2月8日に、シンガポールのリー・シェンロン首相はビデオメッセージを公開。トイレットペーパーの買いだめに走る国民に向けて「落ち着いてほしい」などと呼びかけました。この動画は日本でもSNSを中心に拡散され、称賛の声が上がっていました。

シンガポール首相 SNSで話題、恐怖への対処「すばらしい」
https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3922394.html

 日本では、横浜港付近に停泊していたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の14日間隔離措置が大きな問題になっていました。

 一方で、シンガポール当局は3月9日、マレーシアとタイで入港を拒否されていた、イタリア人ら約2000人を乗せたクルーズ船「コスタ・フォーチュナ」を条件付きで受け入れることを発表しています。

 このクルーズ船は新型コロナウイルス感染の恐れを理由に停泊できない状況が続いていましたが、シンガポール政府は乗客には体温測定のほか、必要なら感染検査を行い「断れば入国を認めない」としています。

 このように新型コロナウイルスに対して、賢い政府が素早く対応をしてくれるので有事の中でも安心をして日常生活を送ることができています。

政府が指定した病院へ行かなければならない

 ショッピングモールやホテルなど多くの施設では入り口で体温検査や赤外線サーモグラフィーがあります。さらに、感染の疑いがある場合は、政府が指定した病院へ行くことが決められています。

 私も子供が怪我をして病院にどうしても連れていかなければならなかったのですが、この制度のおかげで安心して子供を病院に連れて行くことができました。

 他にもクリニックが入っている複合施設では施設の入り口だけでなく、さらにクリニックの入り口でも熱を測り、消毒をしてからしか入ることができない場所もありました。

マスクを1世帯あたり4枚ずつ配布

 日本ではトイレットペーパーやティッシュペーパーなどの買いだめによる混乱が続いているようですが、シンガポールでは物資の不足もマスク以外はほぼありません。

 世界中でマスク不足が深刻ですが、シンガポールでは政府が国民にマスクを1世帯あたり4枚ずつ配布するなどの対策を取っています(1回限りの措置で全世帯約130万世帯に配る)。

《安全》世帯ごとにマスク4枚、1日から配布​
https://www.nna.jp/news/show/2002033

 マスクは具合が悪い時につけるための物でマスクをつける必要はないと学校などでもアナウンスがあります。そのため3月上旬では街中でマスクをしている人はあまり見かけなくなりました。医療機関など必要なところに必要な物が行き渡るように工夫をしているのでしょう。

 また、消毒液も集合住宅やオフィスやショッピングモールなど至る所に設置されているために各家庭が大量に購入する必要もありません。消毒液はドラッグストアなどでも流通しています。

関連職員は「1ヶ月分の特別ボーナス」も

 ブルームバーグの報道によると、シンガポールのすべての政治家は、コロナウイルスの発生を考慮して1ヶ月の給与削減を行うと、副首相が議会で表明しています。同様に、大統領も1ヶ月の給料削減を約束しました。

 さらに、新型コロナウイルスと戦っている最前線の人々に感謝を示すために、政府は公務員に1ヶ月分の給料の特別なボーナスを支給することを決定しました。これらの公務員には、保健省と一部の政府所有病院の医療スタッフ、および状況への取り組みに直接関与する機関のその他の職員が含まれます。

Singapore Ministers to Take One-Month Pay Cut on Virus
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-02-28/singapore-ministers-to-take-1-month-pay-cut-on-coronavirus-cna

 この報道はシンガポール国内でもSNSを中心に大絶賛されています。国民による政府の新型コロナウイルス対策への評価は、日本とはまさに正反対です。

 そして、日本でも対策に追われている厚生労働省職員は多忙を極めています。

厚生労働省の職員「多忙でメンタルをやられた人もいる」 新型コロナ対策の現場で何が起きているか?
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-mhlw

 シンガポールのように、特別手当があってもよいのではないでしょうか。人口が多い日本でコントロールすることは非常に困難です。日本の官僚は非常に優秀でよくしのいでいると感じます。

 先日、日本で自宅待機を無視して飲食店に出向いた陽性者が発覚し、大変な問題になりました。

「俺は陽性だ」蒲郡「コロナばらまき男」のフィリピンパブ”犯行現場”動画
https://bunshun.jp/articles/-/36514

 新型肺炎の陽性者が、「自宅待機」要請を無視して外出してしまうケースが他の国でも頻出しているようです。

 ロシアのサンクトペテルブルクでは6日から病院に隔離されていたはずの女性(33)が、直後に逃げ出していたことが判明しています。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020022000889&g=int

 韓国でも入院中の病院をこっそり抜け出し、大邱市内で食事会や宗教団体の集会に出席するなど、数カ所を歩き回っていたという報道もあります。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59456

 一方、シンガポールでは「自宅待機」を徹底させる仕組みが確立しています。 

永住権を失い、シンガポールへの再入国が禁止されたケースも

 シンガポールでは、政府が自宅待機命令を出した者に対して、訪問と電話による定期的なランダムチェックを継続し、感染が拡大しないような取り組みがなされています。

 違反すると、感染症法で最大で罰金1万シンガポールドル(約76万円)か禁錮6ヶ月の罰則が科される、永住権および長期滞在パス所有者はパスを取り消されるなどの可能性もある、といった非常に重い罰が科されます。実際に自宅待機に従わずにシンガポールの永住権を失い、シンガポールへの再入国が禁止されたケースもあります。

Singapore Permanent Resident Breached Stay-Home Notice Requirements​
https://www.ica.gov.sg/news-and-publications/media-releases/media-release/singapore-permanent-resident-breached-stay-home-notice-requirements-loses-singapore-permanent-residence-status-and-will-be-barred-from-re-entering-singapore

 日本の現状だと、医師の注意だけでは「大丈夫だろう」と、買い物などにいってしまう可能性も十分に考えられ、感染拡大への取り組みとしては限界があると感じます。もちろん日本の人口を考えると自宅待機者全てを見張り続けるのは難しいでしょう。

 ですが、感染拡大を防ぐためにも、政府や公的機関による明確なガイドラインや罰則を作ることが重要でしょう。

勤務先・滞在先・立ち寄った場所など細かく公開している

 日本では、政府主導ではなく、メディアやSNS、個別の自治体によって、陽性者の個人情報が公開されています。一方で、注意喚起のために感染者の勤務先等を公表することに異議を唱える声も多く見られます。

 しかし、これによって身勝手な行動が抑制されている面もあると思います。

感染者の勤務先、独断で公表 大分市「注意喚起のため」
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/589918/

 シンガポールでは保健省のホームページや報道などで勤務先・滞在先・立ち寄った場所などを公開しています。クラスターなどを公開することにより、どこが危険でどこが大丈夫なのかが分かります。これにより、必要以上に自粛をして経済活動を滞らせるということを避けることができます。

金融政策だけでは難しい段階へ

 新型コロナウイルスの流行で、症状の次に恐ろしいことは経済の崩壊です。経済が崩壊することによって職を失い生活ができなくなる人が出てくる可能性が高くなります。S&P500は最高値から約20%暴落をし、マーケットは混乱を極めています。

 シンガポールは大規模対策費として5000億円と、人口に対して非常に大きな予算を当てています。米国でも8700億円の緊急予算が成立し、更に所得税減税などが検討されています。

 日本や欧州でも失われた需要を取り戻すための大規模な財政政策をとって行く必要があるでしょう。金融政策だけでは難しい段階になっています。初期の段階で次々と対策を打ち出しているアジアの小国から日本も学ぶことは多いのではないでしょうか。

(花輪 陽子)

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