これはスープか、それともお茶か。昔ながらのスタミナドリンク
そろそろ肌寒くなり、温かいものが恋しくなってきましたね。今日は旬の野菜ではなく“かつお節”を使った、1分もかからずに作れるスープです。その名も、「茶節」。
かつお節の名産地である、鹿児島・枕崎のかつお節屋さんに教わった食べ方です。鹿児島ではこの茶節を、疲労回復や二日酔いに効くスタミナドリンクのような感覚で、日常的に飲んでいるとのことでした。かつお節をお茶で割るというところがおもしろく、スープであり、お茶でもあるという不思議な飲み物です。
アレンジが豊富なのも大きな魅力。みそ味がポピュラーですが、今回はまず、シンプルな塩×煎茶バージョンでご紹介します。かつお節のうまみを煎茶の渋みが引き締める、大人の味わいを楽しんでください。
茶節
材料(1人分)
かつお削り節 1パック
緑茶 小さじ2
塩 ひとつまみ
水 150mL
1.準備
湯を沸かす。かつお削り節★1と塩ひとつまみ★2を湯のみやカップなどの器に入れる。
2.お茶をいれ、注ぐ
急須でいれた緑茶150mLを、器に注ぐ★3。
たったこれだけで、風味豊かな茶節のできあがりです。短いレシピですが、細かい点においしさの秘訣が詰まっていますので、解説したいと思います。
・かつお節について
・「塩ひとつまみ」ってどのぐらい?
・お湯の温度とだしの関係
★ポイント1.かつお節について
かつお節は、手軽にパックの削り節を使います。
私がよく使っているのはこちらのかつお節
クラシック節/削り節 4g×7袋 |金七商店
スーパーなどでは多種類置いてあることが多いので、かつお節選びのコツをお教えします。
まず、パックの裏の表示の原材料名を確認します。
「かつおのふし」と書いてあるものと「かつおのかれぶし(かれふし)」と書いてあるものがあります。値段は少し高いのですが、「かつおのかれぶし」を選びましょう。
「かつおのふし」
熟成で旨味と香りがま増した「かつおのかれぶし」
原材料名が「かつおのふし」とあるものは、荒節(あらぶし)を削ったもの。
「かつおのかれぶし」は、枯節(かれぶし)や本枯節(ほんかれぶし)を削ったものとなります。荒節、枯節、本枯節は、かつお節作りの行程の差です。
かつお節は、鰹をさばき、水煮し、燻して作ります。燻すところまでやったものが荒節。その後さらに、カビつけと天日干しを繰り返して熟成・乾燥させたものが、枯節、本枯節と呼ばれます。枯節は、カビ菌の働きで脱水が進みタンパク質がアミノ酸に変化するため、うまみの増した、香り高く品のよいかつお節になるのです。手間がかかる分、値段は高めです。
カビつけを繰り返したかつお節の最高級品、本枯節。料亭などで使われる
かつお節ミニパック1個の量は、製品によってかなり違います。調べた中では少ないもので2.5g、多いものでは5gありました。でも、かつお節のパックが中途半端に残るのは嫌ですよね。1パック使い切ってしまいます。2.5gのときは2袋使うか、1袋で湯を少し減らせばよいでしょう。半量だからとお湯を半分にするまではありません。
家に、だしなどに使うふわりと薄削りした「花かつお」があるなら、それでもOKです。
ただ「厚削り」のかつお節は、煮出さないとだしが出ませんので、茶節には使えません。
★ポイント2.「塩ひとつまみ」ってどのぐらい?
料理のレシピに出てくる「塩ひとつまみ」は、くせものです。「塩ひとつまみ」と言われたら、あなたはどのぐらいの量を思い浮かべますか?
この写真は、私がやっているスープの実験室「スープ・ラボ」で、塩をテーマにしたときに、ゲストの方々にやっていただいた「塩ひとつまみ」の画像です。
同じ「ひとつまみ」でもこんなにまちまち
実は真ん中の塩が、正解の量なのです。多くの人が、かなり少な目の量を「ひとつまみ」だと思っていることがわかります。
「ひとつまみ」は、親指、人差し指、中指の3本でつまむぐらい。ちなみに「少々」は、親指と人差し指の2本でつまみます。
とはいえ、指の太さは人によってまちまち。数値で言うと、約小さじ1/5。自然塩小さじ1は約5g(精製塩では6g)ですので、ひとつまみは約1gとなります。
1gでも、やや淡めの味付けです。でも、かつお節のうまみが強いので、塩味が薄くても十分なおいしさを感じられます。塩加減は個人差も大きいですし、使う塩によって同じかさでもグラム数が違うため、少なめで入れて、あとから自分の舌に合わせて足すのがよいと思います。
★ポイント3.お湯の温度とだしの関係
かつお節でだしを取るときの理想の湯の温度は60~70℃と言われています。これが、かつおの香りを生かしつつ、雑味が出ない温度です。
ただ、茶わん一杯で作る茶節の場合はすぐにぬるくなってしまうため、やや熱めの80℃前後が適温でしょう。沸かしたての湯を一度別の湯のみやカップに移し、そこから急須に移すと、ちょうど良いぐらいです。
お茶は、ごく普通のいれ方で大丈夫です。
身近な食材でバリエーション
自由なアレンジがしやすいのも、茶節の魅力。注意点など細かく書いてきましたが、もともとは土地に根付いてきた、とてもおおらかな食べ方です。
決まりごとにとらわれず、お茶を変えたり、味付けを変えたり、副素材を入れたりと、家にある食材や調味料を組み合わせてみてください。
おすすめのアレンジ3品を紹介します!
(左)味噌×緑茶、(中)ほうじ茶×塩、(右)梅干し×白湯
こちらが最もポピュラーな、元祖「茶節」。かつお節・味噌・煎茶の組み合わせです。鹿児島では、麦麹を使った麦味噌が一般的。甘めの味がかつおぶしのうまみとよく合います。今回は麦と米の合わせ味噌を小さじ1ほど使ってみました。
刻みネギを浮かせたら、これはもう味噌汁そのもの!
次はお茶をチェンジ。緑茶のかわりにほうじ茶を使います。ほうじ茶は熱湯でいれてください。かつお節にとっては少々熱いのですが、ほうじ茶の香りを優先します。
ほうじ茶の香ばしさがかつお節とよく合う
梅干し味もいいものです。塩や味噌のかわりに梅干し1個を入れ、湯を注ぎ、梅干しを箸でほぐします。
爽やかな酸味は二日酔いの朝にもぴったり
乾燥させた魚を薄く削ってインスタントなのに本格的なだしをとる。こんなユニークですばらしい食の発明は、なかなかありません。おいしい茶節を、日々の生活にぜひ取り入れてみてください。
スープのレシピや研究成果を発表している有賀さんのnoteはこちら!