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【社会】

<視点 見張り塔からメディアの今>庁舎執務室の閉鎖 専修大教授・山田健太さん

 目の前で民主主義が壊れていくのを見るのはつらい。行政は、保有する情報を可能な限り開示し社会全体で共有することにより、実施する政策の正統性を担保し、市民は自らのコミュニティーの一員として参画することで、ともに社会を支えていくことができる。政治は、真摯(しんし)に討議をすることで最善の選択肢を探り出し、同時に有権者の声にきちんと耳を傾けることで自らのたたずまいの正当性を確認することができるものだ。

 たとえば横浜市を見てみよう。三年前の四月、職員用と記者用のトイレを別にすることで、情報漏洩(ろうえい)の危険性をなくすことを予定した(本欄一七年八月八日付)。計画が表面化することで批判が起き撤回したものの、この一月に新庁舎が完成し移転するのを機に、さらに強力な情報遮断策を講じてきた。全執務室に施錠をし、職員への自由なアクセスを禁じるというのだ(神奈川新聞三月一日付)。理由は「セキュリティー対策などの危機管理機能の強化」とされているが、開かれた政府からの決定的な後退であることは否定しえない事実だ。

 これと同じ事態は、まさに同じ三年前に中央省庁でも起きている。経産省が全室施錠を実施し、その後の度重なる抗議・要望にもかかわらず、事態は一向に改善しないばかりか、運用上さらなる危機的な事態が報告されている。行政側が、取材を受けたくない場合に「居留守」を使ったり、部下が上司を忖度(そんたく)して取材依頼があったことすら伝言しないといった状況が生まれているとされるからだ。

 確かに役所の側には庁舎管理権があり、安全上等の理由から一定の入構制限が実施されることはありえよう。しかし、少なくとも一定の報道機関に対しては可能な限りの自由なアクセスを担保することが、法律上も社会慣習上も積極的に認められてきた。それは、社会における行政監視の機能として、ジャーナリズム活動を認めてきたからである。さらに行政透明化のための情報公開制度を、実質的に後押しする情報提供の対象として、一般市民の知る権利の代行者としてジャーナリストを認めてきたからである。

 逆に言えば、こうした記者活動を否定するということは、今まで認めてきたジャーナリズムの公益性・公共性そのものを否定することにほかならない。実際、閉鎖が続く経産省の若手官僚のなかには、記者の取材を受けることが「特別」であって、受けたくなければ受けなくてもよいという風潮が広がっているといわれる。

 蟻(あり)の一穴ではないが、こうした事例はいったん一般化すると、どんどん広がりかねない。まずは、横浜市や経産省が閉じるのではなく開く姿勢を堅持するよう、方針を撤回することを求めたい。同時に報道機関はより一致団結して、行政側に力関係で負けるようなことはあってはならない。民主主義を守る義務は公権力側にあるとともに、ジャーナリズムも重大な責任を担っている。

◆首相周辺の情報 遮断を巡る動き

2019.7.15 安倍晋三首相の街頭演説会の際に、北海道警はヤジを飛ばし、プラカードを掲げた市民を排除し職務質問。市民は12月に国家賠償を求め提訴。翌年2月に道警は法的根拠が警察官職務執行法4、5条であると初めて表明

11.6 衆院予算委員会で加計(かけ)学園問題に関する文部科学省文書に関わる質問に対し、安倍首相は「あなたが作ったんじゃないの」と発言し審議が中断。首相は「座席から発言したことは申し訳なかった」と謝罪。報道によると19年中だけで安倍首相の閣僚席からの「不規則発言」は20回を超えるとされる

20.1.22 官房長官の記者会見で、東京新聞記者が「非常に不当な扱いを受けている」と抗議

2.4 桜疑惑の追及に対し、安倍首相は「うそつき」と反論

2.17 12日の衆院予算委員会で閣僚席からの「意味のない質問だよ」などのヤジにつき、安倍首相が委員会で謝罪

2.25 安倍首相が、過去に政治系サイトへの政権支持投稿依頼を出し話題となった、ランサーズ社長ほか大手IT企業と会食

2.28 麻生財務相が毎日新聞記者の質問に対し正面から答えることなく、「つまんないこと聞くねぇ。上から言われてるわけ、かわいそうだねぇ」などと発言

2.29 新型コロナウイルス対応に関する記者会見で、安倍首相は当初からの約束として、質問の挙手が多数ある中、5問、約15分で質疑応答を打ち切り帰宅

 

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