トランプ氏 勝利宣言

トランプ氏は、日本時間9日午後5時前に、副大統領候補のペンス氏や家族とともに地元ニューヨークで支持者の前に姿を現しました。

トランプ氏は「さきほど、クリントン氏から電話を受け、われわれの勝利を祝福するものだった」と述べ、勝利宣言しました。そして、「クリントン氏とも激しく戦った。彼女はこれまでこの国に尽くしてくれた。今こそこの分断の傷を修復し、ともに結束していくときだ」と述べ、クリントン氏の健闘を称え、結束を訴えました。
そのうえで、「あなた方をがっかりさせないと約束する。われわれはすばらしい仕事をしていく。あなた方の大統領になれること楽しみにしている。選挙戦はこれで終わりだが、この運動はまさに今始まったばかりだ」と述べ、次の大統領就任に向けた決意を表明しました。

過激な発言で注目

トランプ氏の勝因は

共和党のトランプ氏は、政治経験がない、いわゆる「アウトサイダー」であることをアピールし、既存の政治に強い不満を抱く有権者から熱狂的な支持を集めました。

「メキシコとの国境に壁を築く」といった過激な主張を繰り返し、共和党の主流派から反発を招きましたが、こうした主張やオバマ政権の8年間の政策について厳しい批判を繰り返したことが、現状に不満を抱く有権者の共感を得たものとみられます。また、「アメリカを再び偉大にする」というスローガンを掲げるなど、トランプ氏は、外交と内政の両面でアメリカの国益を最優先にする方針を示してきました。

こうした主張が、かつて盛んだった製造業が衰退しているオハイオ州など中西部の地域の特に白人の労働者層の間で支持を拡大し、これまで民主党が優勢だった州でもトランプ氏が支持を獲得する結果となりました。さらに選挙戦の終盤、民主党のクリントン氏のメール問題をめぐって、トランプ氏は徹底的な批判を繰り返し、クリントン氏への不信感を広げることに成功し、形勢を逆転しました。

クリントン氏 敗北宣言

クリントン氏の敗因は

民主党のクリントン氏は、ファーストレディーや上院議員、国務長官を歴任しましたが、共和党のトランプ氏から「既存の政治家」と位置づけられ、現状に不満を抱く有権者が離れて幅広い支持を得られなかったものと見られます。また、ウォール街から多額の献金を受けるなど「富裕層の代表」とも見られ、格差の拡大に不満を抱く若者を中心に根強い反発がありました。

さらに、クリントン氏は去年3月に国務長官在任中、私用のメールアドレスを公務に使っていた問題が発覚し、好感度が下がる大きな要因となりました。そして、FBI=連邦捜査局が投票日が迫る先月28日に新たなメールが見つかったとして、いったん終結していた捜査を再開すると明らかにしたことで、さらにイメージが悪化し、トランプ氏に追い上げられました。

クリントン氏は現職のオバマ大統領やミシェル夫人、それに、人気が高い歌手など多くの著名人から応援を受けましたが、トランプ氏に及びませんでした。

トランプ氏 対日政策は

トランプ氏は、日本について、選挙戦の中で、「防衛のための公平な費用を負担しなければアメリカが日本を守ることはできない」と繰り返し主張し、在日アメリカ軍の駐留経費の負担を増やすべきだという持論を展開してきました。この主張について、トランプ氏の政策顧問は日本とアメリカが分かち合っている負担が公平かどうかを見直すことだと説明しています。

日本に駐留するアメリカ軍の経費について日本は、平成28年度の予算で基地の借地料や人件費などとして年間およそ3700億円、さらに基地の再編にかかる費用も加えると年間で総額5500億円あまりを負担しています。

この政策顧問は、これに加え、さらなる負担を求めるかどうかは今後の見直し作業の結果によるとしています。また、この政策顧問は、国際的な研究機関の調査で、日本の防衛費がGDPに占める割合は1%なのに対し、アメリカは3.3%に上っていることも指摘し、防衛費全体も見わたした包括的な検証が行われる可能性もあると指摘しています。

トランプ氏の安全保障担当の別の政策顧問は、トランプ氏の主張の背景にはアメリカの経済の立て直しを最優先にするという方針があると解説しています。ただ、トランプ氏が具体的に同盟関係の見直しで何を求めようとしているのか不透明なところもあり、今後、トランプ氏がどのような方針を示すのかが注目されます。

トランプ氏 内政の課題

トランプ氏は選挙戦を通じて、これまでの政治が国の経済や社会を悪化させたと厳しく批判し、「アメリカを再び偉大にする」というスローガンを掲げてきました。それだけに、どのような変革を行うか注目されています。

その1つが移民への対応です。トランプ氏はメキシコなどから入国した不法移民が犯罪を多発させてきたと批判し、メキシコとの国境に壁を築き、メキシコ政府に費用を全額支払わせると主張していました。しかし、批判を浴びてきたこの計画を本当に実現するのかという点に加え、トランプ氏が強制送還すると主張している1100万人を超えるとされる不法移民にどう対応するかは、移民国家のアメリカにとって根本的な課題です。

また、テロ対策も大きな課題です。過激派組織IS=イスラミックステートなどによるテロや過激思想の拡散が問題となる中、トランプ氏はシリアなどからの難民やイスラム教徒の入国はテロが起きるリスクを高めるなどとして制限するよう訴えていますが、過激な主張だと大きな反発を受けていて、効果的なテロ対策を打ち出せるかは未知数です。

また、景気の改善も難しい課題です。トランプ氏はTPP=環太平洋パートナーシップ協定からの離脱など貿易協定を見直して産業を立て直し、雇用を生み出すという公約を掲げてきました。しかし、アメリカ第一主義というみずからのスローガンに沿った内向きな政策で、アメリカの経済が上向くかは未知数です。

さらに、トランプ氏はオバマ大統領が導入した医療保険制度改革、いわゆる「オバマケア」の撤廃を掲げていますが、一方で、財政が厳しい中で代わりになる新たな医療保険制度を編み出せるかは難しい課題です。

TPPはどうなる?

勝利したトランプ氏が、これまで選挙戦で主張してきた保護主義的な貿易政策を実現するため、どのような対応をとるのかも大きな焦点です。

このうち、TPP=環太平洋パートナーシップ協定について、トランプ氏はアメリカの雇用を奪うものだとして離脱すると表明しています。日本は日米が主導するTPPを成長戦略の柱の1つとして交渉を推進してきただけに、トランプ政権でアメリカがTPPから離脱すれば、今後の貿易政策の抜本的な見直しを迫られることになります。

また、トランプ氏は、メキシコやカナダと結んでいるNAFTA=北米自由貿易協定についても、割安な製品の流入で製造業が打撃を受けているとして、国益に合うように内容を見直すため再交渉すると繰り返し訴えてきました。再交渉は困難が予想され、近隣諸国との対立も懸念されます。

さらに、自由貿易の旗振り役だったアメリカで、選挙戦を通じて、保護主義的な貿易政策への支持が広がったことは、日本をはじめ、低成長の続く世界経済にとって、新たな長期的なリスクになるという指摘も出ています。

トランプ氏 外交・安全保障の課題

トランプ氏はアメリカの利益を最優先とするアメリカ第一主義を掲げ、国際紛争などでのアメリカの負担を小さくする考えを示す一方で、中国には強い姿勢で臨むべきだとするなど不透明な部分が多く、今後、外交・安全保障でどのような政策を打ち出すのか、国際社会は重大な関心を持って見守っています。

トランプ氏は選挙期間中、自由貿易によってアメリカの製造業は被害を受けてきたとして、NAFTA=北米自由防衛協定の再交渉やTPP=環太平洋パートナーシップ協定からの離脱を主張するなど保護主義的な姿勢を打ち出しています。そして、日本や韓国、NATO諸国などとの同盟関係をめぐっては、駐留するアメリカ軍の経費負担が十分でないとして、負担を増やすよう求めているほか、中東でのテロ対策への関与に不満を示し、NATO諸国はより大きな役割を果たすべきだと主張しています。

このため、トランプ氏の就任後は日本もアメリカ政府からの要求に直面する可能性があります。また、テロ対策をめぐっては過激派組織IS=イスラミックステートの掃討に力を入れる考えを示しています。内戦が続くシリアについてはアサド政権が倒れれば事態は悪化するとしたうえで、「ロシアとアメリカが関係を修復し、ともに過激派組織IS=イスラミックステートを追い込めばうまくいくだろう」と述べるなど、ロシアとの協力を探る姿勢を示しています。

そのうえで、アラブ諸国などと連携して、シリア国内に一般市民が避難できる「安全地帯」を設ける考えを示していますが、どのように、安全を確保するのか、アメリカ軍がどのような役割を担うのかについては明らかにしていません。

また、トランプ氏は、国際紛争などでのアメリカの負担を小さくすると主張し、今後、国際問題へのアメリカの関与を抑制していく姿勢をにじませています。アジア政策では、日本と韓国に対して駐留するアメリカ軍の経費の負担を増やすよう求める考えを示しています。また、中国に対しては「為替操作国だ」などと繰り返し批判し、中国製品に対して高い関税をかける姿勢を示しているほか、南シナ海やサイバー攻撃をめぐる問題でも中国に対してより強い姿勢で臨むことをうかがわせています。

ロシアとの関係では、「プーチン大統領は強いリーダーだ」として高く評価する発言を繰り返し、ロシアとの協力はアメリカにとって悪いことではないとしていて、関係の改善を目指す姿勢を示しています。ウクライナ情勢やシリアの内戦をめぐって対立を深めているオバマ政権とは異なる対応を取る考えを鮮明にしています。

また、オバマ政権が、任期中の大きな外交成果としているイランの核合意についても、これを破棄する考えを示しています。トランプ氏は国際社会でのアメリカの負担を小さくする考えを示す一方で、オバマ政権の外交は弱腰だとして、より強い姿勢で臨む考えも示すなど依然、不透明な部分があり、どのような外交安保政策を取るのか国際社会は強い関心を持って見守っています。

安倍首相「日米同盟は揺るぎない」

安倍総理大臣は、9日夜、総理大臣官邸で記者団に対し、アメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利したことについて、日米同盟は揺るぎないとしたうえで、世界のさまざまな課題に協力して取り組んでいきたいという考えを示しました。

この中で、安倍総理大臣は「トランプ候補が次期米国大統領に選出されたことに、心からお祝いを申し上げます。日米同盟は、普遍的価値で結ばれた揺るぎない同盟だ。その絆をさらに強固なものにしていきたい」と述べました。そのうえで、安倍総理大臣は「トランプ次期大統領とも、世界のさまざまな課題にともに協力して取り組んでいきたい。一緒に仕事をすることを楽しみにしている」と述べました。

習近平国家主席「両国関係を非常に重視」

習近平国家主席は、アメリカの大統領選挙で共和党のトランプ氏が勝利したことを受けて、トランプ氏に祝意を示すメッセージを送りました。

国営メディアによりますと、この中で、習主席は「最大の発展途上国と最大の先進国、それに、世界の二大経済大国として、両国は世界の平和と安定を守り国際的な発展や繁栄を促すうえで、特殊で重要な責任を担っている」としています。そのうえで、「長期にわたり、健全で安定した両国関係を発展させていくことは、両国国民の根本的な利益と合致するもので、国際社会の期待でもある。私は、両国関係を非常に重視しており、衝突も対抗もせず、ウィンウィンの原則のもと、あなたとともに、両国の協力を進めていくことを期待している」として、米中関係の安定が重要だという立場を強調しました。

プーチン大統領「互いに協力していくことに期待」

プーチン大統領は、トランプ氏に対し、勝利を祝う電報を送りました。ロシアの大統領府によりますと、祝電の中でプーチン大統領は、米ロ関係を現在の危機的な状況から抜け出させるとともに、直面する国際問題の解決や世界規模の安全保障上の懸念に対する効果的な対策を見いだすため、互いに協力していくことに期待を示したということです。また、プーチン大統領は、両国は平等であるとともに、それぞれの立場を考慮するという原則に基づいて建設的な対話を行うことは、両国民や国際社会の利益にかなうと信じていると伝えたということです。

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