【ジュネーブ=細川倫太郎】イタリア政府は10日、新型コロナウイルスの感染の急速な広がりを受け、全土で個人の移動制限を発動した。9日の感染者数は9172人と中国に次いで2番目に多い。欧州で突出して感染者数が多い理由を探ると、医療現場の混乱などいくつかの可能性が浮かび上がってくる。
コンテ首相は9日「国民全員が協力して、厳格な規制に対応してほしい」と呼びかけた。外出を避けるよう求め、飲食店は夜間の営業を禁止した。ただし、仕事や健康上の理由での移動は認める。移動制限は4月3日まで続ける。
感染者が急増した理由に挙がるのが医療現場の混乱だ。イタリアは、これまでに新型コロナの検査を5万4千件以上してきた。感染者を確定させる狙いだったが、軽症の患者も徹底的に検査したため、病床が満杯に。医師や看護師の不足に拍車がかかり、感染が一気に広がった可能性がある。
米ブルームバーグ通信は世界保健機関(WHO)関係者の話として「検査をやり過ぎて害を及ぼしたようにみえる」と伝えた。無症状の人は自力で回復できた可能性があると指摘した。
イタリアは欧州連合(EU)が求めた財政緊縮策として医療費削減を進め、医療機関を減らしてきた。政府は引退した医療関係者の現場復帰を呼びかけ、軍事施設の活用など対策を急ぐ。
中国人観光客の多さも新型コロナのまん延のきっかけになったとの声もある。イタリアを訪れる中国人は年320万人を超え、国別では5番目に多い。イタリアは2019年3月、主要7カ国(G7)で初めて中国の広域経済圏構想「一帯一路」に参画する覚書を締結し、その後に中国人は一段と増加した。
感染症が専門のミラノ大学のガリ教授は伊メディアに対し「疫学のデータを分析すると、イタリアではウイルスは既に1月末ごろから出回り始めていた」と話している。
明るく友好的な国民性が関係している可能性もある。イタリア人は家族や友人との時間を重視し、週末などに食事やカフェを一緒に楽しむのは日常茶飯事だ。あいさつでも相手のほおに自分のほおを寄せるのが一般的で、人と人が身体的に近寄る機会が多い。伊市民保護局のボレッリ局長は「イタリア人の感情をあらわす気質がウイルスの拡大につながった可能性がある」と指摘する。
現在、ミラノなどイタリア各地は静まりかえっている。一時的とはいえ、全土での移動制限は経済へのマイナスの影響が大きい。外出の自粛や飲食店の時短営業で消費が低迷するのは確実だ。20年1~3月期の実質経済成長率は2四半期連続でマイナスとなるとの見方が強まっている。ユーロ圏で3番目の経済規模を持つイタリアは景気後退に陥る可能性がある。