備忘録 未来予想図
テーマ:夫 備忘録
(備忘録 直後 のつづき)
二十歳になった葵は、きっとママに似て鼻筋が通ってスレンダー、残念ながら目はパパに似たまま育ってしまい、パッチリ二重ではないがそれでも切れ長の目をしたなかなかの美人だろう。
4月26日、僕は毎年、葵に誕生日プレゼントをあげる。
そこにはママからの手紙が入っていて、葵はそれにゆっくりと目を通しだす。
葵の目はしっかり見開き、文章を読み進めていくだろう。
目には大粒の涙が溢れているかもしれない。
妻は亡くなる数ヶ月前から葵の20歳までの誕生日プレゼントを用意していた。
葵の成長を想像しながら一生懸命考えて考えて準備した。
例えば5歳はこまったさんシリーズの本を3冊だ。
自分が料理をするのが好きだったから、葵にも料理の楽しさを伝えたかったのだろう。
7歳は防犯ブザーにハンカチ、えんぴつ、小さなランドセルのついたキーホルダー。
7歳は小学校に入学する歳だ。
ランドセルのついたキーホルダーは、自分がランドセルを買ってあげられなかったからそのかわりらしい。
11歳はサニタリーショーツと性に関する本。確かに性に関して悩む時期だし、母親がいないと娘も困るかもしれない。母親らしいプレゼントだ。
12歳
16歳
18歳
それらのプレゼントの一つ一つに彼女の葵に対する想いがたくさん詰まっている。
そして、誕生日プレゼントに添えるように誕生日カードを1枚1枚震える手で書いていた。
2/10には何とか手紙を書ききらないと、と言い、震える手で必死に書いていたらしい。
妻の母親がそう言っていた。
最後は2/11、亡くなる4日前に11歳まで書いた。
何度も漢字を間違えて塗りつぶした跡がある。
文字も震えていてすごく読みづらい。
この日は祝日だったので、僕もそれを書くのを手伝った。
1枚書くのにすごく時間がかかるが、彼女は虚な目をなんとか見開きながら、震える手で荒い息をしながら、時には涙を流しながら、1枚1枚ゆっくりゆっくりととなんとか書き上げていった。
次の日、2/12には身体を起こすことも出来なくなり、結局手紙は11歳までしか書けず、その後徐々に寝ている時間が長くなっていった。
僕が、あと一日だけでも意識を戻してください、と主治医に懇願したのは、これが理由だ。
でも、妻には最後まで手紙を書く力は残っていなかった。
その手紙の続きは、残されていたメモや想像で私と妻の妹で書こうかともおもうが、許してもらえるだろうか?
ただ、20歳の時の手紙は途中で途切れてしまってはいたが、ある程度書かれていた。
2038年4月26日は最後のプレゼントを葵に手渡す日だ。
いったいどんな世界になっているのだろう??
これから約20年間色々あるだろうが、辛いこともみんなでなんとか乗り越えていこうと思う。
僕は56歳になり、今よりさらに頭は薄くなりシワも増えるのだろう。
葵が二十歳になったら2人でスイスに出かけようと思う。
雄大なマッターホルンを見て、綺麗な空気をいっぱい吸おう。
今度はちゃんと靴を新調して持って行こう。
彼女と乗った氷河鉄道に乗り、美味しいチーズフォンデュをたらふく食べよう。
お酒は少し控えようと思う。
葵にカッコ悪いところは見せられない。
そして家に帰ったら少し休んで次の日からまた元気に生きていこうと思う。
それが彼女との約束だから。
最後に、
ありがとうこじちゃん。
僕と結婚してくれて本当にありがとう。