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 立場の弱い消費者が受けた被害を、幅広く、確実に救済する新たな一歩が刻まれた。

 医学部入試の際に女子や浪人生をひそかに不利に扱っていた東京医科大に対し、元受験生らへの賠償義務があることの確認を求めて、NPO法人消費者機構日本が起こした初めての団体訴訟で、東京地裁が請求を認める判決を言い渡した。

 属性を理由に一律に差別した許しがたい行為であり、地裁が厳しく批判したのは当然だ。同医大はこれ以上争いを長引かせず、すべての被害者に誠実に対応しなければならない。

 悪徳商法や欠陥商品の販売、法外なキャンセル料の徴収といった消費者トラブルは、裾野は広くても個々の被害額はさほど高くないことが多い。裁判に訴えても経費や手間を考えると割に合わず、多くの人が泣き寝入りを強いられてきた。

 この不正義をただすために16年秋に始まったのが、今回使われた制度だ。まず消費者団体が裁判を起こし、事業者に賠償義務があることをはっきりさせる。そのうえで、団体の呼びかけに応じて個々の被害者が届け出をすれば、簡易な手続きで支払いを受けられる。被害回復に道を開くと同時に、事業者側には日ごろから適正な行動をとるよう促すことにもなる。

 さきがけとなった事件で消費者側が勝訴したことは、制度の効果を社会に示す結果となり、大きな意義をもつ。

 一方で課題も見える。

 訴訟を起こせるのは国が認定した団体だけで、東京、大阪、埼玉に一つずつしかなく、実際に提訴された件数も3件にとどまる。消費者団体の多くは財政難で、運営はボランティア頼りとあって、活動の拡大には二の足を踏んでしまうのが現状だ。

 国、自治体による助成を充実させるとともに、消費生活センターや弁護士会と団体との連携を深め、消費者保護の水準を引き上げることが必要だ。

 制度の見直しも求められる。訴訟の乱発を警戒する経済界に配慮して、現行法では精神的苦痛に伴う慰謝料や身体的損害などは賠償確認の対象外になっている。人によって差があり、一律に扱えないとの理由だ。

 今回、団体は受験のための交通・宿泊費の支払い義務の確認も求めたが、同じ理屈で地裁に退けられてしまった。元受験生の一部は、慰謝料を含めた損害すべてを賠償させるべきだと考え、裁判を別途起こしている。すくい取れない被害が多くあることを如実に示す話だ。

 制度を使い、足らざる点を議論し、適切に手当てをする。その循環を確かにして、被害を放置しない社会をつくりたい。

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