お手柔らかにm(__)m
最初に異変に気付いたのはダンジョンの中に居た冒険者達だった。巨大な揺れに慌てて頭上の安全を確認し、身を屈めていた。揺れが収まった頃、仲間達の安全を確認し早めに探索を切り上げようとした時、壁に大量の亀裂が入った。先程の地震のせいではない。
『
突発的なモンスターの大量発生が冒険者達を襲った。取り囲まれた冒険者達は絶望の顔を浮かべる。
しかし、モンスター達は冒険者達には目もくれず一目散に通路に走り出した。
安堵する冒険者達だがモンスターの謎の行動に理解が追いついていなかった。しかし、モンスターが去った後、ようやく謎が解けた。冒険者達が街に帰る唯一の出口、そこに大量のモンスター達が殺到していたのだ。
その時、床に大きな亀裂が走った。徐々に拡大する亀裂はついに床を破壊し、運悪くその上に居たモンスター達は階下へと落ちていった。代わりに出てきたのは人を掴めるほど大きな手だった。近くに居たモンスターを踏み潰しながら出てきたそのモンスターは下級冒険者であっても、聞いたことはあるほど有名な存在だ。18階層の階層主、ゴライアス。
地上に進出するなど聞いたこともない
───────────
オラリオの街は静寂から一変し、喧騒へと包まれた。冒険者達もまだ身支度を整える前の早朝にそれは突然起こった。
大きな地震、住民達を叩き起こす強烈な揺れは序章にすぎなかった。大きな揺れに飛び起き、外の様子を見ようと外に出た住民は空に輝く神聖な光を目にする。それが何を指しているのか分からない。しかし、徐々に街の中心部にそびえる
広場を埋め尽くすほどのモンスターが放射状に伸びた道に沿って進んで行く。いち早く動けた冒険者達は直ぐに住民達を保護する。しかし、あまりのモンスターの数に手が回らなかった。
「直ぐに住民達をオラリオの外に出せ。モンスターは絶対に通すなよ」
街の治安に協力しているガネーシャ・ファミリアの団員達が率先して誘導にあたる。飛び起きた冒険者達やギルド職員達もこれに協力する。
「ベル様っ!後ろです!」
ベル達は
「なんなんだ、いったい?」
「春姫殿、私の後ろに!」
すぐに戦闘体制になり襲ってくるモンスターを迎え撃つ。そんな中、ベルの動きは普段より良くない。
ロキ・ファミリアのホーム、黄昏の館でフィンはこの異常事態にすぐさまチームを分けた。主神のロキを守りつつ市民を誘導するチームと大元であるダンジョンの入り口でモンスターがこれ以上溢れないよう押さえ込むチームだ。
「ガレス、ロキの事は任せた。リヴェリア、アイズ、ティオネ、ティオナ、ベート、僕達は
ロキ・ファミリアの幹部達が
「おいおい、嘘だろ」
「エッー?ここ地上だよ!なんでゴライアスが居るの?」
「とにかくすぐに片付けるわよ。こいつが暴れたら被害が広がるわ」
第一級冒険者のベート、ティオネ、ティオナが
「オラァァアァ!」
ベートがゴライアスの膝を蹴り、関節を破壊する。崩れ落ちるゴライアスが止めを指そうとするティオナに巨腕を振るい迎え撃つ。しかしティオナは
「そんなトロくせぇ攻撃が届くか!」
「うるさい、ベート!」
三人で纏めて核を狙い、ゴライアスは地上の進出は一歩しか許されなかった。
「私一人で殺れたのに邪魔するんじゃないないわよ」
「はあぁ?オメェのトロい攻撃じゃ時間がかかるんだよ」
「ベート、ティオネ、そこまでだ。すぐに他のモンスターを倒すんだ」
フィンが指示を出した所で、少女の声が聞こえてきた。
『おいおい、雑魚でも復活させるのはタダじゃないんだぜ』
直ぐ様辺りの警戒をするがどこにも見当たらない。
突然、広場の中央に巨大な鏡のようなものが現れた。本来、ものを写す面は漆黒に塗り潰され何も写していない。
「団長、これはいったい?」
「───分からない、だが親指がうずいている。みんな、気を付けろ!」
その直後、鏡の黒い面から巨大な腕が飛び出してきた。フィン達はその見覚えのある腕に驚く。なぜならそれは先程、ベート達が倒したばかりのゴライアスの腕だからだ。本来、ゴライアスの復活のインターバルは一週間と考えられている。それが十分も経たない内に出てきたからだ。
『少しはできるやつが居るみたいじゃないか。またすぐに倒されても面白くない。本当はもう少し後で出すつもりだったが、まあいい』
再び少女の声と共に出てきたゴライアスの後ろから巨大な骸骨のモンスターが現れた。
「嘘だろ、あれはウダイオスじゃねぇか」
「後ろにまだいるよ」
37階層の階層主に続き、49階層の階層主 バロールが姿を表す。さらに隅から深層のモンスター達が現れた。
直ぐにフィンは指示を出した。
「リヴェリア、詠唱を頼む。アイズ、ゴライアスを倒せ。倒し次第、他のメンバーの助太刀に入るんだ!」
「分かった。《テンペスト》」
フィンの司令にアイズは直ぐに行動を開始する。
「ちょっとー、手が足りないよ!」
「うるせぇ、バカゾネス!口動かしてねぇで手を動かせ」
ロキ・ファミリアの幹部だけでは手が回らず思わず愚痴が出てしまう。
「君は・・・」
フィンの前にフレイヤ・ファミリアのオッタルが現れた。その後ろにはフレイヤ・ファミリアの第一級冒険者達もいる。
「全ては、主が望むままに」
「そうかい、助かるよ」
これで押さえ込める、そう期待した直後だった。階層主が出てきた鏡のような渦とは別に
『楽しんで貰えると嬉しいな』
その声と共に渦から異形のモンスターが現れた。オラリオの冒険者なら誰しもが知る伝説のモンスター。かつてオラリオの頂点に居たゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアが倒し、そしてファミリアの解散に追いやられた原因となったモンスター。
「おいっ、ベヒーモスとリヴァイアサンは死んだって聞いたぞ」
「まさかこいつらも復活するというのか・・・」
フィンは苦虫を噛んだように、普段見せることの無い表情を浮かべた。
「───頑張ってね」
先程まで響いていた少女の声が遥か上空から聞こえた。フィンは空を見上げる。少女は龍が描かれたチャイナドレスを身に纏い、背中には天使のような羽をひろげ空を飛んでいた。その顔は神のように整っており、こんな状況で無ければその笑顔に心惹かれていたかもしれない。
「君かい?この騒動の張本人は?」
「当ったり~~!まあ分かるか。──じゃあ一生懸命足掻いてよ」
─────────
「皆、聞いてくれ。私はオラリオを救いたい」
アインズはナザリックに戻り、守護者を集め会議を開いていた。アインズは素直に自らの想いを伝えた。それがナザリックを危険に晒す愚かな考えだと分かっていても、それでも見捨てることはできなかった。
「恐れながら申し上げさせて頂きます。それは余りにも危険です。相手はユグドラシルのプレイヤーです。迎え撃つのが上策と具申します」
「アルベドに同じく私も同様の意見です。それに今は様子を見る方が先決かと。相手の戦力を把握し、オラリオの戦力とぶつける、または犠牲が広がれば
アルベドとデミウルゴスの意見に他の守護者も同様の意見だと頷く。しかし、アインズはそれでも守護者達に訴えた。
「お前達の意見は全て正しい。私もこの世界に来た直後であれば同じ判断をしただろう。しかし、私は知ってしまった。この世界の者達の事を。そして何より今暴れているのは元々私の世界に居た者だ。同じ立場の者として見過ごすことはできない」
「しかし、アインズ様っ!アインズ様が出る必要はありません。私達にご命令頂ければ直ぐにでも」
「確かにそうだ。ただこれは私の我が儘と言うやつだ。お前達だけに手を汚させる訳にはいかない。責任は私が取りたいのだ」
「しかしっ───」
「アルベド・・・、しっかり私を守ってくれよ」
食い下がるアルベドにじっとアインズは見つめ優しく諭した。
「───分かりました。アインズ様にはお怪我の一つもつけさせません」
「すまんな、アルベド。─デミウルゴス、作戦を立ててくれ。なるべく住人に被害が出ないよう頼む」
「ハッ!アインズ様の領地を土足で踏みつける愚か者に相応しい結末を用意します」
「コキュートス、アウラ、マーレ、シャルティア、セバス。存分に暴れてこい。ナザリックが威を示せっ!」
「「「「ハッ!」」」」
「パンドラズ・アクター、守護者達に
「
「───まぁいい、頼んだぞ」
「みんなっ、逃げろ!あれは多分かなりヤバイっ」
突如現れた少女は直ぐに何かを唱えたかと思うと、彼女を包み込む球体が現れた。見たこともない文字が目まぐるしく動き、一時も同じ状態を留めていない。
しかし、フィンやリヴェリア達にはそれが魔法を唱えていることは簡単に予想ができた。長文詠唱は桁違いの威力をほこる。遥か上空で唱える彼女にまともな攻撃も与えられない。
詠唱が終わりに近づいたのか球体に描かれた文字が先程と変わりゆっくりになってきた時、突如少女が爆発に巻き込まれた。フィン達が不発かと見上げると、もう一つ別の影がどこからともなく現れた。
「私の前で簡単に超位魔法が使えると思ったか?」
漆黒のローブにスパルトイを思わせる白骨の体。しかし、その迫力は比ではない。
「───フフッ、久々の実戦だから忘れてたよ。やあ、やっと会えたね」
爆発に巻き込まれながらも何事も無かったかのように少女は笑顔で挨拶をした。