「おい、てめぇ!
強面の男に問いかけられたベルは咄嗟に
「それより、ポーションはありませんか?仲間が
ベルの苦手な嘘だが先程倒した
クソッ、ディックスはいつもの冷静さが無いほど焦っていた。現在、ディックスはデミウルゴスの命令でダンジョンに潜り『
ナザリックのことを知ってから全てが変わったのだ。自分達がモンスター共に行っていた拷問も怪物趣味の
皮を剥がされ死にかければ無理矢理回復しそれを何度も何度もやられた。もう嫌だ、と音をあげれば体の中から蝕まれ、あげくタコのような化け物に体の中をいじくり回される。少しでも抵抗すればオラリオ最強のオッタルが可愛く見えるような化け物がねじ伏せてくる。
ディックスは先に逝ったグラン達を羨ましく思った。もうディックスには自分の欲望も血の呪縛も何もなかった。ただ言われたことを黙々とやるだけだ。二度とあそこには行かないために。
しかし、せっかく
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「ウラノス、すまないが私はアインズを信用することができない」
ギルドの最奥、祈祷の間でフェルズは主神ウラノスに訴えていた。
「前回のオラリオでのモンスター進行は全てあの男が仕組んだものだ。確かに彼の仲間がイシュタルに魅了され奪われたことに対する報復はまだ理解できる。だがそれとオラリオの住民を危険に晒すのは関係がない」
訴えるフェルズをウラノスは黙って見つめている。構わずフェルズは尚も訴えた。
「まだ把握していないが彼らが我々の追っている組織と繋がったとの情報もある。もちろん彼らからそんな情報は何も入っていない。このまま放置すれば、必ずこのダンジョンかそれ以上の災いとなって我々に牙を向くことになる」
これ以上アインズ達を放っておくことはできないと言うフェルズにウラノスは目を瞑り、暫くの沈黙の後頷いて了承した。
その後、ヘスティア・ファミリアが
ヘスティア・ファミリアへの対応を話しているとアインズからこれから向かう、と連絡が入った。ウラノスが了承するとすぐにアインズは供を引き連れ転移をしてやって来た。フェルズはそのアインズが使用する魔法に骸骨の体にも関わらず寒気を覚える。
「久しぶりだな、ウラノス」
「ああ、そうだな」
「挨拶はこれくらいにして、早速本題を話そう。つい最近、街でモンスターが暴れたそうなんだ。それについて知りたい。何か情報は無いか?」
ウラノスはチラリとフェルズを見る。フェルズは言葉は出さないが、下を向き伝えるべきではないとサインを送る。
「───すまない、それについては情報を集めているところだ」
「───そうか。何か分かったなら連絡してくれ。ダンジョン攻略に繋がる可能性がある」
「分かった、約束しよう」
「それとは別に喋るモンスターを知らないか?そう、私達のようなものだ?」
「───前にも言ったように地上に降りてきたときは見かけたが、それ以降は見かけていない。会ったことがあるのか?」
「いや、気になって聞いてみただけだ。では先程の件、頼んだぞ」
再びアインズが転移で姿を消すとフェルズは緊張を和らげようと、ないはずの肺でため息をついた。
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「ミッション!?」
ベル達はギルドからの強制ミッションとして手紙を渡された。そこに書かれていたのは匿っている
ベル達が隠していた事実を既にギルドが知っているということに驚き、さらにダンジョンに連れてくるという内容に戸惑った。ベル達はウィーネの正体を知るためにもダンジョンへ行くことを決めた。
ディックスはベル達に悟られないようベルの後を尾行していた。以前ベルに会った時の違和感を思いだし、情報を集めていた所、やはりヘスティア・ファミリアが匿っていると判断した。そして再び
ディックスはこれ以上失態を晒すわけにはいかなかった。しかし、仮に二重尾行ならば罠に嵌まる可能性もある。このまま続けるべきか悩んでいたとき、ある男の声が頭に響いた。声を聞いただけで全身が震えそうになるあの男の声が。
『尾行されているみたいですね。失敗は許されませんよ』
『申し訳ありません。しかし、相手を撒くにも人手が足りません』
『そうですか、仕方がありませんね。貴方を尾行している者は私の方で処理しましょう。その代わり───分かっていますね』
『ありがとうございます。必ず見つけ出します』
しばらくするとディックスを監視する違和感は消えた。どうやって自分を監視しているか分からないが、間違いなくミスは許されないことは分かる。
先を行くベル達は目的地に到着したらしくルームの中央で動きを止めていた。ディックスは息を潜め遠くから様子を伺うと、突然ベル達の気配が消えた。慌ててルームに入るとベル達の姿が消えていた。行き止まりの筈のルームにディックスは回りにを見渡す。壁を覆い尽くす
ベル達は呆気にとられていた。先程まで命懸けの戦闘を繰り広げていたかと思えば、今度はモンスター達が人語を操りながら笑っているからだ。状況についていけてないベル達だったが、リドと名乗るリザードマンはベル達がウィーネを本当に守り抜くのか試したと言い謝罪した。
鋭い牙と爪に大きく広がる口を開け仲直りの握手を求めるリドにベルは正直に言えば怖さがあった。しかし、ベルの後ろに立つウィーネを見て、覚悟を決める。ベルはリドの手をとった。
突然、歓声があがる。なぜなら
モンスターと人間が輪になって宴を開き、宴の最後ベルとウィーネは別れを済ませた。それがウィーネの幸せだと信じて。ベル達は去り、リド達もまた別の巣に移動する最中、その男は突然現れた。
「こんなところに隠れていたとはな。そりゃあ簡単には見つからねぇよな」
「お前は───フェルズが言うハンターか?」
「全く人間とモンスターが仲良くやってるとはな、笑っちまうぜ。所詮は力のあるやつに全てを決められるんだよ。ああっ、ハンター?そんなもんとっくに廃業だよ。俺はあるお方の前にお前らを連れてくだけだ」
「お前、正気か。一人で俺たち全員を相手するつもりか?」
「数なんてもんは関係ねぇよ。お前らも抵抗するだけ無駄だ。知られた時点で終わりなんだよ、俺も、お前達も」
絶望の顔をするディックスとは対称的にリド達は早く目の前の男を倒し移動しようと攻撃を仕掛けた。
「たくっ、面倒くせぇな。あまり傷もんにしたくはないが逃がすわけにもいかねぇ」
そう言うとディックスは左手を前に差し出した。
【迷い込め、果てなき
【フォーベートール・ダイダロス】
その
暴れ過ぎ動けなくなったものからディックスは縛りつけ身動きを封じていた。
そこに一匹のモンスターが現れた。筋骨隆々の体に冒険者達が落とした防具を装備し、両手には斧を構えたその姿は闘うために生れたと言って良いほど様になっていた。そのモンスターはミノタウロスという良く知られたモンスターだが、通常のミノタウロスとは違い黒く、猛牛というイメージとは違い体の内に激情を抑え込んでいた。
ディックスは確信する、殺されると。しかし、これで解放されるとどこか安堵している自分が居た。願うのは再び地獄で目を覚まさないことを祈って静かに目を閉じた。
ディックスの
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「すっかり遅くなってしまったな」
フェルズはダンジョンの中を急いで進んでいた。ベル達がリド達と会う一方、地上ではヘスティアとウラノスを会わせる目的があったからだ。案内を済ませフェルズは待ち合わせの場所に急いだ。
突然、フェルズを呼ぶ声が聞こえた気がした。夜中のダンジョン、そしてフェルズを知るものなど
「お前は誰だ・・・」
「ふふっ、初めまして、フェルズさん。───そしてさようなら」
その言葉と共に目の前に現れた少女を最後にフェルズは意識を手放した。