「良くできてるじゃないか」
デミウルゴスに先導されアインズは1000年以上をかけて作られた人工ダンジョンに入った。アインズは知るよしもないが案内のため同行しているディックスは以前より痩せ細り、欲望のためにモンスターを殺すような残虐性も成りを潜めていた。そこにいるのは指示されたことを淡々やる機械のような人間だ。
「ほう、面白いな。この鍵を使ってオリハルコンの扉を開けるわけか。確かにこれなら簡単に破られることは無いな」
アインズがキョロキョロと回りを見ながら進んでいく。これだけのアダマンタイトを用意し、加工してダンジョンを作っていくなどその執念に驚く。
「それでこのダンジョンはどこまで続いているのだ?」
「18階層のセーフティーポイントまでです」
「何?その1000年かけてその程度なのか?───いやこれだけのものだ。それでも頑張ったほうなのか。だがその程度ならたいして意味が無いが・・・」
しばらく歩くと少し開けた部屋のような所に着いた。そこには多くの檻が置かれ、中にはモンスター達が入れられていた。
「こいつらは何だ?」
「ディックス達がダンジョンで捕まえたモンスター達です」
「どういうことだ?」
「はい、ここのモンスター達は人語を話し、感情を持っています」
「何だと?それではNPCと言うことか!?」
「はい、その可能性はかなり高いと思います」
「おい、お前は創造主のことを知っているか?」
アインズは檻の中に入れられたモンスター達に問いかける。しかし、檻に入れられたモンスター達は怪我をしているものやモモンの姿を見て怯えているものまでいる。回りに転がっている拷問の道具を見てアインズは理解した。
「チッ、仕方ない。ペストーニャを呼んでくれ。少しは落ち着くだろう」
アインズはペストーニャを呼び、回復させるように指示をする。ペストーニャの異様と回復魔法に先程より安心したようだ。
しかし、一匹だけ特に怪我もしていないモンスターが居た。試しにアインズは話しかけてみる。
「おい、お前!」
「ひぃぃー、殺さないで欲しいでござるよ!」
アインズの前にはハムスターのようなモンスターがお腹を見せて降伏している。ハムスターと違うのはその大きさと蛇のような尻尾が生えているだけだろう。
「おい、お前。名前は何と言う?」
「お願いでござる。殺さないで欲しいでござる」
「分かった、分かった。それで名前は何と言うのだ?」
「某、『森の賢王・ハムスケ』、そう呼ばれているでござるよ」
先程の怯えた様子を一変し、フフンと自慢げに名前を語るハムスターにアインズはエクレアと同じ系統か、そう密かに思った。
「そうか、ではハムスケ、お前の創造主は誰だ?」
「創造主?なんでござるか、それは?」
「は?お前は何を言っているんだ?お前はNPCだろ?」
「えぬ・ぴー・しー?それは某の種族の名前でござるか?」
「いや、お前はハムスターだろ。NPCだ、NPC!」
「ひぃぃー、ごめんなさいでござる」
「すまん、別に怒った訳ではない。本当に何も知らんのか?」
「も、申し訳ないでござるよ。それがしダンジョンで生まれてからずっと子孫を残そうと彷徨っていた所を捕まってしまったのでござる」
アインズはディックスの方をチラリと見た。目があったディックスは肩を揺らし怯えだす。アインズは特に気にせずハムスケの話に耳を傾ける。
「雄を紹介してくれると言ったからついていったのに気付いたら檻に押し込まれていたでござるよ」
捕まった経緯を思い出し、プリプリと怒るハムスケにやはり名前負けだな、とアインズは感じた。
「デミウルゴス、こいつからは情報は引き出せそうに無いな」
「ハッ、では始末しておきます。ちょうど良い革がとれそうですしね」
「ひぃぃー、殺さないで欲しいでござるよぉぉーー!」
「デミウルゴス、すまんな。一応、こんなものでも殺さないと約束したのだ。私が嘘をつくわけにはいかん。しかし、敵のNPCをナザリックに置くわけにはいかんな。かと言ってオラリオにも置けんし・・・」
「では以前、ベオル山地のエダスの町を保護するために作った牧場がありますので、そこに送ってはどうでしょう。野生のハーピィの討伐をさせるなり、役にたたなければスクロール作りを手伝わせることもできます」
「そうか、それならデミウルゴス頼んで良いか?すまんな、いろいろデミウルゴスに負担をかけさせてしまって」
「いえいえ、アインズ様のためなら喜んでやらせて頂きます」
デミウルゴスは口角を上げ、ニヤリと笑う。
「では、ハムスケ。お前達はデミウルゴスについていけ」
「あのー、某は殺されないでござるか?」
「ああ、殺さん。それに働き次第ではお前の
「うほぉーー!本当でござるか!?それでは某、殿のために働かせてもらうでござるよ」
「殿?まあ、いい。よろしく頼む」
ハムスケの設定を予想しながらアインズは気合いに充ち溢れるハムスケの後ろ姿を見送った。
───────────────
「アイズさん、神様のことありがとうございました」
アインズがハムスケと話している頃、ラキア王国の主神、軍神アレスに付き合わされたラキア軍がオラリオに進行し、オラリオの冒険者達にボロ雑巾のように蹂躙される恒例行事が行われていた。
しかし、一矢報いたアレスの手によってヘスティアがオラリオから連れ拐われてしまった。救出の要員としてアイズが選ばれ、自分の主神であると言うことで無理を言いベルはアイズについていった。
ベオル山地でアレスからヘスティアをなんとか救いだしたものの川に流され、山の天候も崩れていたため足止めをくらっていた。アイズが山奥に村を見つけたため、村の村長に事情を話し、体調を崩したヘスティアの看護のため暫く村に滞在することにした。
「この小屋は何があるのですか?」
滞在している間、村の手伝いをしていたベルとアイズは一度も立ち入ったことのない石造りの立派な小屋が気になり村長に質問をした。
「ああ、ここは祭壇として使っていたんですが、今は使ってないんですよ」
「祭壇、ですか?今は使っていなってどういうことなんですか?」
「使っていない、と言うよりもう意味が無くなったと言った方が早いかも知れませんね。見てみますか?」
そう言うと村長はベル達を小屋の中に案内した。そこには黒く輝く鱗が飾られていた。
「!──これはいったい?」
「これは黒龍の鱗です」
その言葉にベルは目を見開いて驚く。物語の中のモンスターが鱗とは言え目の前にあるのだ。そしてベルの隣で話を聞いていたアイズはいつにもまして目を鋭くさせた。
「私たちは今までこの鱗のお陰で長年モンスター達に襲われずに生活することができていました」
「えっ?今までってどういう、それにさっき言っていた今は使っていないって?」
「おや、ご存知無いですか?もう黒龍は討伐されたではありませんか?だからこの鱗もモンスターに対してなんの意味もありません」
その言葉にベルは驚くが、誰よりも驚いたのはアイズだった。
「───黒龍が・・・死んだ?」
「ええ、モモン様とそのお仲間達が来られ、黒龍を倒したと。実際、この鱗はモンスターに対してなんの効果も無いですから事実だと思いますが。オラリオには知られていないのですか?」
「「────モモンさんが?」」
村長から出てきた顔見知りの名にさらに二人は驚く。
「はい、今はモモンさんにこの村を守っていただいているので本当に感謝しています。ぜひお会いしたら感謝を伝えてください」
戸惑いながらはいっ、と答えるベルの横でアイズは黙って黒龍の鱗を見つめ続けた。
遂にハムスケ登場(^o^)
たいして活躍はしません(。>д<)