TOEIC指導のパイオニアの一人であるヒロ前田さんと、TOEIC YouTuberという分野を開拓中の加藤草平(Jet Bull)さん。お二人がそれぞれ電子書籍『TOEIC(R) L&Rテスト みんなのお悩みQ&A【※刺激強め】』『TOEIC(R) L&Rテスト満点者の頭ン中』を出版したのを記念して、TOEICや英語上達についての対談を2回にわたってお届けします。今回は後編です。
▼前編はこちら↓
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自ら学習する気になる環境を全面サポートする『究極の模試』
編集部:現在の活動について伺います。前田さんは今まさに『TOEIC(R) L&Rテスト 究極の模試600問+』(アルク。以下『究極の模試』)が佳境を迎える頃かと思いますが、いかがでしょうか。
前田:『究極の模試』の執筆は2018年11月頃から続けていて、そろそろ終わろうとしているところです。僕は複数のことを同時にやるのが嫌いなので、去年はT’z 英語ラウンジを実質休業して執筆に充てました。
編集部:前田さんのTwitterの投稿を拝見していると、そんなサービスまでするのかというほど盛りだくさんな内容になっていますね。
前田:僕は、唯一無二であることに対してすごく価値を置く人間なんです。自分がやることは1番目でありたい、そして何年たっても2番目が現れないようなことをやりたいんですよ。今回の本は、その性質が最も詰め込まれた企画になっています。
本にフォーカスを当てると、それに付随するものは「サービス、おまけ」として見られると思いますが、僕の中で本はあくまで商材の一つ。自分が提供するコンテンツとして思い付く限りの絵を描くと、その中には(紙の)本だけでなく、ウェブ上で採点補助ツールが利用でき、Abilities Measured(項目別正答率)が自動計算でき、電子書籍版が無料で読めて、600問分を解説する30時間の動画を視聴できる。
コンテンツを作る人間としてやりたいことを一つのパッケージにしたものが『究極の模試』なんです。何年たっても僕をまねする人は絶対出てこないと思います、大変ですから(笑)。でも、僕自身はそういうことが好きなので、やっていて楽しいですね。
編集部:本のタイトルは『究極の模試』ですが、その全体の企画のコンセプトとしては何か別の言葉があるのですか?
前田:『究極の模試』は、形式上はTOEIC対策本として出ますが、コンセプトは「自分で続けたくなる勉強、勉強を続けたくなる場づくり」です。やりたいことというのは、自分が取り組んだものを継続して、それにどっぷりハマって、本人が勝手に「もっとやりたいな」と思えるくらい真剣にのめり込んだときに、初めて大きな成果が出ます。
今回は何百人もの人たちにモニターとして問題を解いてもらって、彼らの何十時間分にも及ぶディスカッションの中からポロッと出た発言を、本に登場するキャラクターの言葉として盛り込みました。そうすると、読者は「このキャラクターと自分は同じ思考だ」「今後こいつはどうなるんだろう」と感情とともにのめり込んでいく。単行本でありながらほかの本とはまったく違う、家にいながら授業を受けているような世界観をつくっているんです。
「本づくりよりも人づくり」のココロとは?
前田:最近は、新しい本の企画は他の人にやってもらうようにしています。ある編集者の方から3本の企画案が来て、僕が3本とも否定したんですが(笑)、4つ目に「こういう案はどうですか」と僕が出したんです。編集者さんは「それいいですね、やりましょう」と僕に言うんですが、僕はやらない。その代わり、TGS(「TTT Graduate School」。TTTはTOEIC(R) テスト スコアアップ指導者養成講座「TOEIC(R) Teachers’ Training」で、TGSはTTT修了生のための専門課程)の卒業生にやってもらっています。その方が、人生が楽しいんですよね。
編集部:人生が楽しい、とはどういうことですか?
前田:本づくりよりも人づくり、ということでしょうか。物的なモノはいずれなくなりますし、記憶からも消えてしまいますが、誰かが充実感を味わうとか、やりたいことができるようになるとか、その人なりの楽しみに自分が少しでも貢献できれば、きっと忘れられることはない。誰かが「あの人がいたから自分はこれができるようになった」と覚えていてくれる、そういう生き方をずっと目指しているんです。僕には「目標を設定しない」というポリシーがあって、このポリシーも考えの原点はそこにあるんですよ。感謝されるような生き方をする、それだけが唯一の目標なんです。
編集部:先ほどおっしゃっていた場づくりも、人づくりにつながっていることかもしれないですね。
前田:そうですね。TTTを始めたときにはあまり深く考えていませんでしたが、執筆しかり、講師しかり、自分が総取りしようと思えばできたことばかりなんです。でもそれがどんどん分散していって、今や修了生たちはそれぞれの場所でやりたいことができている。それがやっぱり面白いんですよね。
『究極の模試』でもいろいろな人に関わってもらっていますよ。あとがきに謝辞を書いたら20人の名前が並びました。解説を書いた人、モニタリングイベントを主催した人、写真提供者、みんな僕が関わった人たちばかりです。自分が助けてほしいときには何十人もの人が協力してくれる関係がある、ということが僕の誇りです。
リアル講師からTOEIC YouTuberへ転身
編集部:一方、加藤さんはTOEIC対策のYouTubeチャンネルが大人気ですね。
加藤:今、チャンネル登録者数が1万7000人までいったところで、10万人を目指しながら運営しています。でもあと5、6年かかりそうかな。
編集部:加藤さんは今でこそYouTubeが主な活躍の場になっていますが、もともとは講師をしていらっしゃったんですよね。
加藤:そうです。リアルな場で講師をしていましたが、教えている時間がもったいないと思ったのが、動画に足を踏み入れたきっかけです。どういうことかというと、自分が話すことはたいてい毎回同じですし、自分が直接話して伝えられる相手は最大で30人程度ですが、動画なら何千人と見てもらえます。そういった効率の面もありつつ、最近はだんだん作ること自体が楽しくなってきたので、自分の好きなものを作っていこうと思いながらやっています。
編集部:動画では、TOEIC問題の解説や学習法に加えて、ほかの英語指導者の方とコラボレーションするなど幅広い活動をしていらっしゃいますが、企画のタネはどうやって見つけるのでしょうか?
加藤:対談は別として、基本的には自分が見たいものを順々に作ってきました。あとは、僕が教えていたのが、600点とか、高くても730点くらいを狙っている初中級の方々だったので、彼らの役に立つような動画を中心に作っています。そのうち誰か始めるなら、自分がいち早くやってしまおうという考えもあってYouTubeを始めたので、今はとにかく自分が知っていることをどんどん動画にしていますね。
編集部:ここは大事にしている、ここが加藤さんのYouTubeの特徴だというものはありますか?
加藤:YouTubeに関しては、少し気合を入れて見ないとしんどいくらいのペースにしようと思ってやっています。ボヤッと見ていたら頭に何も入ってこないくらい、間を詰めて話しています。僕自身がとてもせっかちなので、間が長いと見たくなくなるんですよね。僕はテレビもダラダラ見たくないので、録画したものを1.6倍速で見ているくらいです。YouTubeも、人の動画を見るときは2倍速で見るんですが、それも面倒なので、自分が作るときくらいは好きな速さで作ろうと思って。
前田:倍速再生させないくらいに初めから速く話しておくということ?それは面白いね。
加藤:コメントで「もっとゆっくりしゃべってください」というのがよく来ます(笑)。最初は「検討します」と返していたんですが、最近は面倒になってきて「僕はこのペースが好きでそうしています、すみません」って(笑)。YouTubeは速度を落として再生することもできますから。
「10人に嫌われてもいいから10人に好かれる」本
編集部:最後に、新刊のアピールポイントをお願いします。前田さんの『TOEIC(R) L&Rテスト みんなのお悩みQ&A【※刺激強め】』はいかがですか。
前田:この本の基になったウェブ連載は、「10人に嫌われてもいいから10人に好かれる」というコンセプトでやっていました。20人に好まれようと思う書き方と、10人に嫌われるけれど10人に好まれようと思う書き方。頭の中がどっちかによって、使う言葉が変わってくるんです。
「本当のこと」を知るというのは残酷な側面があります。特に学習法や資格試験のスコアの伸びなどについて悩んでいる人に対して、回答で何かを指摘する場合には。僕はそれを、「天使」と「悪魔」の2種類のキャラクターによる回答で知らせてあげているのが、この本です。日常の中にこんな指摘をしてくれる先生はきっと近くにいないだろうな、でもこれを先生が読んだらきっと共感するはず、納得するはず。そういう、学習者に対して伝えるべきコメントを中心に書いたつもりです。
読むだけで楽しくなるような書き方をしたつもりではありますが、僕が書いた原稿は、編集部の人がソフトに変えているので、一部「これは自分の言葉じゃないな」というのはありますね。「今すぐ消えてください」とか何回も書いたんだけど(笑)。
編集部:「TOEICで満点を取りたい」という記事、いまだに検索流入があるんですよね。で、答えを見ると「知るか」と書いてある(笑)。
前田:エンターテインメントとして楽しんでもらう分には、100回読んでもらっても1000回読んでもらってもいいですよ。でも真剣にその学習成果を出したいのなら、読む代わりに勉強しろと、やるべきことをやれということを伝えたいですね。
990点はまだという人にこそ知ってほしい「満点者の思考」
編集部:加藤さんは、YouTubeはTOEICスコア600~730点くらいの初中級者向けに作っているとおっしゃっていましたが、今回の『TOEIC(R) L&Rテスト満点者の頭ン中』では満点取得者の思考に目を向けていますね。
加藤:特別に満点の取り方については言及していませんが、満点をそれなりに取っている人が日頃、何を考えて問題を解いているか、これまでどうやって勉強してきたかということを伝えています。普段、そういうことを詳しく体系的に聞く機会はなかなかないと思います。満点を取っていない人、一般的な600~700点くらいの人にも「満点を取る人の感覚ってそれくらいなんだ」というものがざっくり分かるように書きました。
昔の、満点が取れるようになる前の自分なら、満点の人が実際どのくらい英語ができるのかを知ることができたら面白いと思うんです。すべてを網羅できたかどうかは分かりませんが、僕が伝えられる限りは書いたので、そういうことに興味がある人にはぜひ読んでいただきたいですね。そんなにすごくはないけれど、思っているほど甘くもないということが分かってもらえればいいと思います(笑)。
編集部:読む人は、満点を狙っている人に限らず、英語学習を始めたばかりの人でも大丈夫ですか?
加藤:満点を狙っている最中の人というより、興味のある人は英語レベルに関係なく読んでいただけたらうれしいです。満点を確実に狙っている段階になると、学習法も考え方も人それぞれになってきますからね。いちサンプルにはなると思いますが。
前田:満点に関しては僕の本にもあった気がするな。「全問正解すれば満点は取れます」という回答が(笑)。
編集部:厳しいですが、真実ですよね(笑)。今回はありがとうございました。
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ヒロ前田
TOEIC受験力UPトレーナー。神戸大学経営学部卒。大人のための勉強スペース「T’z英語ラウンジ」経営。2003年5月に講師として全国の企業・大学で指導を開始。2005年にはTOEICを教える指導者を養成する講座をスタートし、トレーナーを務めている。2008年グランドストリーム株式会社を設立。TOEICの受験回数は100回を超え、47都道府県で公開テストを受験する「全国制覇」を2017年5月に達成。取得スコアは15点から990点まで幅広い。著書に『TOEIC(R) L&Rテスト 究極の模試600問+』(アルク)、『TOEIC(R)テスト900点。それでも英語が話せない人、話せる人』(KADOKAWA)、共著に『TOEIC(R)テスト 新形式問題やり込みドリル』(アルク)などがある。
Twitter:@hiromaeda
加藤草平(Jet Bull)
TOEIC YouTuber。TOEIC対策動画を配信する「猛牛ちゃんねる」でYouTuberとして活動中。YouTuberになる前はフリーランスTOEIC講師。TOEIC満点は通算60回以上取得、最高で40回連続満点を取得したこともある。書籍『TOEIC(R) L&Rテスト プライム模試400問』(アルク)を監修するなど、TOEIC教材の制作にも携わっている。
Twitter:@JetBull990
構成・文:吉澤瑠美/写真:山本高裕(編集部)
Source: GOTCHA!
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