民政移管は形だけではないか。内外からそう指摘されてきたタイの政治の実情があらわになったと言えよう。
タイの憲法裁判所は先月、野党・新未来党の解党を命じた。党首から多額の資金を受けたことが政党法に違反するとの理由だ。党首ら幹部16人の政治活動も10年間禁止するとした。
この党は軍の政治介入を批判して人気を集め、昨年3月の下院総選挙で第3党に躍進した。与野党が拮抗(きっこう)する下院からその勢力が消えることで現政権に有利に働くことは間違いない。
5年以上に及ぶ軍政から、選挙に基づく民主的な政治体制に復帰したのは昨夏のことだ。とはいえ、首相に選ばれたのはクーデターの当事者で軍政トップを務めてきたプラユット氏である。軍が実質的に政治を支配する制度が温存されている。
憲法裁も軍が後ろ盾の現政権の影響下にあるとされる。自分にとって煙たい政党は司法を利用して排除するというのでは、超法規的に権限をふるった軍政と変わらない。そんな強権政治は国民の支持を得られまい。
今世紀に入り、タイの政治は混乱が続いた。農村や都市貧困層へのばらまき政策で人気を得たタクシン元首相を支持する勢力と、これに反発する既得権益を持つ階層や都市中間層との対立が、定着したと思われた民主主義を揺るがせた。
双方とも選挙の結果に納得せず、大規模な街頭行動は時に暴力的な衝突に発展し、主要道路が封鎖されたり、国際空港が占拠されたりするなど首都機能がマヒする事態も起きた。これが軍に秩序の回復という口実を与え、2006年と14年に軍事クーデターを招いた。
ただ、両者には違いがある。06年には当時の軍トップが直ちに暫定的な措置だと表明し、1年3カ月後には選挙が実施された。ところが、プラユット氏は選挙まで5年を要し、その後も政権を握っている。これでは、国家の混乱収拾ではなく、自らが権力にしがみつくのが目的だと言われても仕方あるまい。
いま必要なのは、国民和解であり、そのための格差の是正である。プラユット氏自身、公正な社会の創出や不平等の縮小などを政策目標として掲げている。反対勢力を弾圧で抑え込めば、社会の分断が深まるだけだという現実を認識すべきだ。
タイには日系企業5千社以上が進出し、生産拠点となっている。その混乱は日本経済にも響く。解党命令に懸念を表明した欧米と足並みをそろえ、真の意味での民政へ歩むよう促す必要がある。それこそが、タイの社会の安定と国際社会からの信頼回復につながるはずだ。
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