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 高齢ドライバーの事故を減らすため、運転免許証を更新する際に「実車試験」を義務づけることを柱とする道路交通法の改正案が、先ごろ閣議決定された。75歳以上で一定の違反歴のある人が対象となる。

 75歳以上で免許を持つ人は、この10年で2倍近くに増えた。免許人口あたりの死亡事故は75歳未満の2・2倍と高く、対策の強化は待ったなしだ。

 更新時に判断力や記憶力を調べる認知機能検査はあるが、死亡事故を起こした高齢者の約半数は、ここで「問題なし」と判定されていた。実際に運転してもらって技能を確認し、水準に達しなければ免許を失効させるというのは理にかなう。

 難しいのは、どんな試験を課し、対象をどう定めるかだ。とりわけ違反歴で線を引くことには、事故の被害者から疑問が出ている。同じく高齢運転者による死亡事故例を見ると、8割以上は過去3年以内に違反行為をしていない。実効性の薄い試験になってしまうのではないかとの懸念だ。かといって対象を広げ過ぎると、反発が予想され、更新業務にも支障が出る。

 実績を積みながら引き続き良案を探るしかないが、70歳以上に課せられる講習時の「実車指導」との連携を図れないか。これも技能の点検が目的だが、あくまで「指導」のため、免許の返納を促すことしかできない。異状が認められれば、強制力のある「実車試験」につなぐ仕組みを検討すべきだろう。

 改正案には、安全運転サポート車限定の免許の創設も盛り込まれた。選択肢が増えるのは良いが、過信は禁物だ。ペダルの踏み間違いを防ぐ機能は、一定の速度を超えると働かないし、信号の見落としなどには効果がない。「不安があれば返納」という意識を社会に定着させることが、何より重要である。

 そのために欠かせないのが、ハンドルを握らなくても生活できる環境を整えることだ。免許を自主返納した人へのバス・タクシー代の補助や、ボランティアによる外出の手助けなど、各自治体で様々な取り組みが進んでいる。企業やNPOなどの協力も得て、地域の実情に応じた方策を考えていきたい。

 高齢者対策とあわせ、「あおり運転」を法律に定義し、飲酒運転と同等の罰則を科すことも、今回改正のねらいだ。警察は、道交法の他の規定や刑法の暴行罪なども適用して取り締まってきたが、こぼれ落ちるものがある一方、法の拡大解釈につながるとの批判もあった。

 交通や運転に関するルールは市民の生活に密接にかかわる。時代や状況に応じて、適切に見直しを重ねることが大切だ。

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