「何?シャルティアが反旗を翻しただと?」
アインズの確認にアルベドは肯定しながら、その根拠となる理由を提示した。マスターソースのNPCの欄にはシャルティアの名前が薄黒く表示されていた。他のNPCの欄を見るが白く表示されている。
(あり得るのか?この表示は操られて一時的に敵対行動を取っていることを表している。アンデッドのシャルティアが精神支配など受ける筈がないが・・・)
「死んだ・・・その可能性はない・・・よな」
「はい、死んだ場合一時的に一覧から表示が消えます」
「───そうだよな。くそっ、いったい何が起きた?とにかくシャルティアの居場所を把握しなければ──」
アインズとアルベドが話していると、セバスから来訪者の連絡があった。
《セバスか?今は忙しい、後にしろ》
《ハッ、分かりました。そのように伝えます》
《───いや、ちょっと待て、来たのは誰だ?》
《ヘルメス様になります》
《ヘルメスが・・・、先程のは取り消す。すぐに通してくれ》
メッセージを切ってから暫くするとヘルメスがセバスに連れられ玉座の間にやって来た。いつもの陽気な笑みは無く、側にいるアスフィの姿も無い。
「挨拶など不要だ。シャルティアのことで知っていることを全て話せ」
このタイミングでナザリックに来たということは既にシャルティアの事は知っていると確信したアインズは不要な確認を排除し、必要な事だけを問いただした。
「───分かった。彼女は今、イシュタル・ファミリアにいる」
「それだけか」
冷えきった言葉にヘルメスは手に汗をかいていることに気付いた。
「ふざけるなよ、ヘルメス!シャルティアが私の許可もなくナザリックから離れるとでも、ましてや反旗を翻すなど有る筈がないだろ!」
「すまない、そんなつもりはなかった。私の知っている事実は確かにそれだけだ。ただイシュタルは美の神として魅了の力を持っている。彼女も魅了されていると思う」
「魅了だと・・・」
何度も沈静化が起こりながら、冷静になったアインズはヘルメスの説明に以前、
(くそ、なぜその可能性に気付かなかった!もっと気を付けていればこんなことにはならなかった。私の失態だ。いや、今は反省する時では無い。すぐにシャルティアを取り戻すことが先だ!)
「アルベド、直ぐにイシュタルの所に行くぞ!ナザリックに手を出したことを後悔させてやる!」
直ぐに動き出そうとするアインズ達に待ったをかけたのはヘルメスだ。
「少し、待ってくれないか」
「なんだ、ヘルメス?もうお前に用は無い。私は忙しい」
「君はどうするつもりなんだい?」
「知れたことだ。イシュタルに、そのファミリアに全ての関係したものに終わりなき苦痛を与えるまでだ」
アインズのその答えにヘルメスはゴクリと喉を鳴らした。しかし、ヘルメスとしてもそれを簡単に容認するわけにはいかない。
「待ってくれ!今回、彼女を魅了したのはイシュタルだ。子供達は関係ない」
「それがどうした?何もオラリオの全ての者を皆殺しにするわけじゃない。これは償いでもあり、私達に手を出すことの愚かさを知らしめる見せしめだ」
「どうしても子供達も殺すのか?」
「当然の報いだ」
「───分かった、では私も神として、そして仮にも君のファミリアの主神として
「愚かな、それで私達に勝てると思っているのか?それに地上で力を使えば天界に戻ることになるのだろ?」
「構わないさ、それで子供達が、そして君が助かるなら」
「?──なぜ私が助かるということになる?」
「君は黒竜の最後を見たのだろ?自我すら無くし、世界の災いとして忌み嫌われた姿を」
アインズは人を、平和を、全てを恨み、死ぬまで暴れ続けた黒竜を思い出した。
「私があのようになるとでも思っているのか?」
「分からない、だがあのドラゴンも初めはそうなるとは思っていなかったんじゃないかな?」
少しの沈黙の後、アインズは絞り出すように答えを出した。
「ヘルメス、お前の言い分は分かった。無関係の者は極力殺さないようにしよう。ただし、私達に歯向かう者、そしてイシュタルだけ絶対に許さない。そしてシャルティアは私達が必ず取り戻す。やり方に口出しは出させない」
「───分かったよ。全ての責任は私が取ろう」
ヘルメスはできるだけの譲歩は取り付けられたと考えた。後はできる限り被害がでないよう祈るだけだ。
──────────────
ヘルメスが帰った後、守護者達を集めアインズはシャルティア奪還のための打合せを始めた。
「既に知っていた情報を軽視し、お前達を危険に晒したのは私の失態だ。いくらでも責めてくれ」
アインズが頭を下げ謝罪する姿に守護者達から慌てて否定の言葉が飛ぶ。さらにはシャルティアが反旗を翻すことなど許されないことだとシャルティアへの批判になったので、アインズはそれ以上の責任追及は止めさせた。
「恐れながらアインズ様。今回の件ですが、シャルティアがアインズ様に対峙するようなことがあれば我々守護者にお任せください」
「いや、しかし───」
アインズは子供達同士で武器を向け合うことが嫌だった。ギルドメンバーの面影が残るNPC達が争う、それはギルドメンバー達が争うように感じるからだ。
「しかし、アインズ様の身にもしものことがあれば───」
一方、守護者達も唯一残られた至高の御方に万が一のことなど絶対にあってはいけない。アルベドは必死にアインズを止める。
「アルベド、少しいいかい?」
必死に説得するアルベドを制止したのはデミウルゴスだ。
。
「アインズ様、シャルティアが精神支配されている根本原因はイシュタルです。そのイシュタルさえ消せば、シャルティアの洗脳も解けると愚考します。イシュタルも簡単にはやられまいとシャルティアを出して来たときは我々がシャルティアを止めます。その間にイシュタルを叩き潰すべきです」
「分かった、私はイシュタルを潰す。それは譲れん。良いな?」
「───分かりました。それでは後一つ・・・今回の作戦ですが陽動や隠蔽などを兼ねていくつか策を弄したいのですがよろしいでしょうか?」
「無関係の人間を殺す可能性は?」
「もちろんございません。と言ってもあまり抵抗されればこちらもやむを得ない場合もありますが」
「許す。ナザリックの為に考えてくれているのだろう。では指揮はデミウルゴスに任せる」
「はっ、ありがとうございます」
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満月の出る夜、ヘスティア達はイシュタル・ファミリアの
その時だった。突然、オラリオを囲むように巨大な炎の壁があがった。オラリオの周囲を囲う外壁よりも高い炎の火柱に、暗闇に包まれた街が再び明るくなる。全く予兆の無かった事態に全ての者が瞠目した。
「いったい何が起こったんだい?」
ヘスティアを含めた神々も事態を把握できていない。すると突然、至るところから悲鳴があがった。
「モンスターが現れたぞ!」
「早く逃げろ!」
「ギルドは何をやってるんだ!」
その声と共にヘスティア達の前にもモンスターが現れ、襲ってきた。しかし、ヴェルフは大太刀を一閃するとすぐに倒すことができた。しかし、一向にモンスターが減る様子はない。
対峙していたアマゾネス達もオラリオ全体の危機に一時休戦しモンスターを掃討する。
「なんだ、こいつら。たいしたことないぞ」
「ヴェルフ様、油断は禁物ですよ。ここにはヘスティア様も居るんです。それにどんどん増えています」
ヘスティアを守るようにヴェルフ達は戦っている中、ヘスティアはベルの居るであろう歓楽街を心配そうに見つめていた。
アインズ様がそんな簡単に納得するか!
うぅ、すいませんorz
でもまだ怒りの炎は収まってないんで大目に見てくださいm(__)m